October 21, 2007

善き人のためのソナタ

 
 
  善き人のためのソナタ
  DAS LEBEN DER ANDEREN
  THE LIVES OF OTHERS

 
    監督:フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク
    出演:ウルリッヒ・ミューエ

       2006年 独国


「ベルリンの壁」崩壊前夜の東ベルリンを描いたドイツ映画。
この邦題は素晴らしいと想う。

人気劇作家のドライマンは表向き、東独の体制に迎合しているかに振舞っているが、密かに芸術家仲間と反政府的な意見を語り合っていた。 その彼が、国家保安省からマークされ、自宅に盗聴器を仕掛けられる。
これは実は、劇作家の妻に横恋慕する悪徳大臣の差し金であった。 劇作家が反政府的な思想の持ち主との証拠を掴むことが出来れば、有無を言わさず彼を処断してしまえるからである。

盗聴者は、東独と言う国家に疑いを持つことを知らぬ、叩き上げの国家保安省局員、ヴィースラー。 孤独な中年男。 コードネームはHGW。
コチコチの愛国者であるHGWは、しかし、劇作家の部屋を盗聴するうちに、彼の交友関係(自由な思想を持つ芸術家ら)、文学、そして音楽について知ることとなる。

諜報活動を描くものの、普通のスパイ・アクション映画などとは違い、ここでは撃ち合いも、格闘も、逃走や追跡さえもない。 映画全編を貫く、寒色系の映像の中で、ベテラン盗聴者の己が信念に対する惑いを淡々と描いてゆく。

HGWを演じるウルリッヒ・ミューエが素晴らしい。
普通ならば、自由を語る劇作家のドライマンの方に惹かれそうなものだけれど、この映画ではむしろ、密室で独り盗聴器に取り付き、芸術家の生活に耳を傾け続けるHGWが、ついに国家に背き、善き人としての路を選ぶ姿の方に共感してしまうのである。
彼の、劇作家やその妻に寄せる想いと、無償の好意。 東独と言う国家の揺らぎと、その中で翻弄される人々。 劇作家とHGWとの奇妙な絆。

地味な映画だけれど、機会があれば、今一度、真剣に対峙してみたい作品である。
映画のラスト、HGWの一言が心に沁み入った。
 
 

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