October 28, 2011

徳川家康 第10巻 無相門の巻

 
 
「徳川家康」 第10巻 無相門の巻


     山岡荘八 著    講談社文庫
 
 
 
山岡荘八版の「徳川家康」、久方ぶりのお目見えであります。
それにしてもまた随分と長いこと抛りっ放しにしておいたもんで。 あまりといってあんまりな気紛れぶりには、自分でも呆れるしかないですけれど、ともあれこれまでの続き(2007年の1月以来!)、第10巻から再開してみます。
よろしかったら(例によって(!)超長文 & 駄文ですけれど)お付き合い下さいませ。

        ▽▲▽▲▽▲

天正11年(1583年)。 賤ヶ岳の戦いで柴田勝家を下し、故織田信長の後継者としてポジションを固めた羽柴秀吉の眼が、遂に徳川へと向けられようとしています。
やがて繰り広げられる抗争は、表向きは織田信長の遺子・信雄と秀吉の確執から起こる戦いながら、実質的には家康VS秀吉の代理戦争に他なりません。
秀吉一代の負け戦、小牧・長久手の戦いの始まりです。

        ▽▲▽▲▽▲

戦はまず、前哨戦とも言うべき外交合戦から。
徳川方としては、まずは秀吉が(例によって必ず)仕掛けてくるであろう老獪な懐柔政策のあの手この手、情報戦の諸々を、ここでしっかりと防ぎ切っておかねばなりません。

がしかし、剛勇無双をもって鳴らす徳川家中にして、日本一の人たらし、羽柴秀吉を相手の交渉ごととなると人材は払底気味。 心もとないばかりなのです。
この当時、既に一大勢力へと成長していた徳川家といえども、実のところ、時勢を読み尽くして大名家間の交渉ごとに臨める者、外交センスを持つ家臣には事欠いていたのですね。
 
 
※.本巻では、アタマにくるほど偏狭、頑固で保守的な・・・・しかしまた泣けてくるほど律儀で辛抱強く、クソまじめな・・・・三河侍/三河人気質(ゆくゆくはこれが、日本人気質のプロトタイプとして定着ってことになるのでしょうか)というものが、終始徹底して描かれています。
 
 
さて、そうはいっても、ここは家中の誰かがこの難役を引き受け、そして外交合戦の矢面に立って貰わねばならぬ局面です。
しかし立てばあの(!)秀吉と一対一の関係が成立することとなり、それは徳川家臣としての我が身を滅ぼす結果ともなりかねないのを承知の上で、です。
これから取り組まねばらぬ、天才・羽柴秀吉を向こうに回したやりとりは、こちらの打つ手に一つのミスも許されない、ギリギリの外交ゲームなのでした。
 
 
※石川数正が寄越した使い(家老・渡辺金内)を屋敷に迎える本多作左衛門。
数正が持たせた密書を一読した作左衛門は何を想ったか、金内を相手に碁を打ちはじめます。
  
本多作左衛門 「それでよいのか。 それではその石は生きまいぞ」
渡辺金内    「いいや、これで戦いましょう」
本多作左衛門 「待ったをせよ待ったを。 そこで討ち死にするようでは若い。
          それでは数正についてはゆけぬぞ」
渡辺金内    「では、仰せのとおり待ったをいたしまする」
本多作左衛門 「ハハハ・・・・・・考えたな。 考えろ考えろ。
          よく考えて、誤った石は打たぬものじゃ」
 
 
こうして動き始めた、石川数正と本多作左衛門(同じ家中にあって、水と油の如く正反対の気質を持つ二人)による、奇妙なミッション/共同作戦。
大きなターニングポイントに立たされつつある智将・石川数正。
このやりとりはやがて、戦国きってのヘッドハンティングへと展開するのですが。

        ▽▲▽▲▽▲

池田勝入(恒興)という武将。
この「徳川家康 第10巻」の作品世界にあっては、もはや時代遅れの漢として描かれるのです。
なにしろ、その人生でもっとも輝いていた時期 = 織田信長の覇業盛んなりし頃と重なるという・・・・これはまた、なんという判りやすさでしょう。
前巻(第9巻 「碧雲の巻」)での柴田勝家と同様、この古強者からは戦国乱世を生き抜いて来た猛者の世渡り、出処進退などといった事柄について考えさせられます。

今や天下人として諸将の上に君臨する秀吉に対し、信長配下の同輩として苦楽を共にした当時の気分を未だ忘られぬ池田勝入。
かつて戦友として共に戦った相手から、今現在は持ち駒の一つとしか見られていないとしたら・・・・、これはまた、切なくも酷なハナシですね。
頂点に立った者と、そのかつての同輩との、現ポジションの違いから来る意識の(もの凄まじいまでの)ギャップ。

これってしかし、現代にあっても通じそうなハナシで(前巻の柴田勝家のエピソードと同様)かつてこの「徳川家康」がビジネスマンを中心に広く愛読されたというのが好く理解出来る気がます。
前巻と同様、やはり読んでいて共感と哀れを誘う一編なのです。
 
 
※勝てば尾張一国を与えよう、という秀吉の(気前の良過ぎる)言葉にすっかり感激してしまった池田勝入。
膠着しきった戦況を打破すべく、精鋭をもって敵の本拠地を急襲する「中入れ」戦法を秀吉に進言します。
自ら一軍を率い、夜陰に乗じて敵地に潜入する馬上の勝入とその次男輝政は・・・・
 
池田勝入 「このあたりはな、その昔、右府さまのお供をして、
        さんざん遊び歩いた村じゃ。
        フフフフ」
池田輝政 「何がおかしいのです妙な笑い方で」
池田勝入 「う・・・・・・想い出したのじゃ。
        右府さまや、筑前どのと、村々を踊り歩いた昔のことをな」
 (クシャミする勝入)
池田勝入 「噂している者があるらしい」
池田輝政 「誰が・・・・・・でござります」
池田勝入 「村人たちよ。 おもしろいものだ・・・・・・
        わしは、前例のない、よい領主になってやるぞ
池田輝政 「は・・・・・・何と仰せられましたので」
池田勝入 「その昔と同じようにな、戦が済んだら、村人たちと踊ってやろう。
        領主と領民がひとつになって踊りまくる・・・・・・
        愉快なものじゃ。 今でも眼に見える」
池田輝政 「父上・・・・・・」
池田勝入 「何じゃ」
池田輝政 「勝ってからの話、まだ早うござりましょう」
池田勝入 「ハハハ・・・・・・ここまで来ればもう早くはない。
        われらの馬は三河へ向かってすすんでいるわ」
 
 
池田勝入、「死亡フラグ」を立ててしまいましたね。 今風に言うとするなら。
史実を前提にしなくとも、勝入のこの後の運命は容易に予見出来そうです。
老将・池田勝入の言動は不吉で堪らぬのに、でもどこか可笑しみ、そして哀れみさえ漂わせて。
これぞ山岡ストーリーテリングの妙なり。

        ▽▲▽▲▽▲

小牧・長久手の戦いも終盤へと来て、秀吉が図らずもさらした戦略上の隙。
ここを一気に攻め立てれば秀吉勢を討ち取れるやも、という局面で、しかしあえて動こうとはしない家康です。
本多忠勝をはじめとする諸将は納得しかねるのですが・・・・
平時は商人としての顔を持つ武将・茶屋四郎次郎(松本清延)にだけ、そっと真意を漏らす家康でした。


家康 「よし、では言おう。
     わしは信長や筑前とは違うた行き方で天下を狙おうと思うている」
茶屋 「違うた行き方で天下を・・・・・・!?」
家康 「そうじゃ。 信長も筑前も・・・・・・
     いや、武田も明智も、みな力だけに頼って、あまりに事を急ぎすぎた。
     分るかそれが・・・・・・」
茶屋 「分るような、気がいたしまする」
家康 「この急ぎすぎたところに大きな隙があった。
     信玄も信長も光秀も、その隙のため倒れていった。
     筑前もどうやらそれによく似ているでの」
茶屋 「なるほど・・・・・・」
家康 「わしは急がぬ。
     急いで今夜夜襲を許し、小さな局面で勝ってみてどれほどの利益があろう。
     もし万一攻め損じて、忠勝や忠重を失うようなことがあったら、
     それこそ大きな損害じゃ。
     大きな損害を賭けて、小さな利を得る・・・・・・これは算盤に合わぬことじゃ」
茶屋 「と、仰せられまするが、もしも秀吉の首級を挙げ得ました節は・・・・・・」
家康 「あとの難儀はわし一人の身にふりかかる。
     それゆえ、これも算盤にはずれて来る」


この小説「徳川家康」での徳川家康その人は、仏門にご執心という設定になっています。
ですから家康、非道な振る舞いを嫌う、あくまで有徳の士として描かれるんですけれど。 それがここでは、
自らの行動原理を、大義ではなしにあくまで利をもって、ビジネスセンス(家中では数少ない)を持つ茶屋四郎次郎に語り聞かせています。
クール家康。
掴み所がないと言うのか、懐が深いとでも言うべきか。
そうそう簡単に捉え切ることの出来る男ではありませんね、やはり。
読んでいて、ハッとさせられた場面でした。

        ▽▲▽▲▽▲

この第10巻 「無相門の巻」。 岡崎城を預かる石川数正と、そこへ訪れた茶屋四郎次郎との対話が、小説の序盤と終盤、すなわち小牧・長久手の戦いの前後に配置されており、この巻だけで独立した一編として読めそうな具合に、バランス好くまとめられています。 構成の巧みさ。

それにしてもこの巻の石川数正、終始その周囲に諦念を漂わせているのが、この後の彼の運命を暗示しているようで。 なんとも割り切れぬ気分の残るラストです。


<徳川家>
徳川家康:徳川家当主
於義丸:家康の次男

<徳川家家臣>
芦田下野守信守
安藤彦兵衛直次:池田紀伊守元助を討ち取る
伊井直政
井伊兵部少輔直政:万千代、赤備え
磯部某:大久保七郎右衛門の家臣、池田勝入の目前で戦死
永井伝八郎:小姓組
永井伝八郎直勝:家康の旗本、池田勝入を討ち取る
奥平信昌:家康の娘婿
岡部長盛
久野三郎左衛門
高木主水
高木主水清秀
高力与惣左衛門清長
榊原小平太康政
三浦九兵衛
三宅宗右衛門康貞
柴田七九郎重政
酒井河内守重忠:雅楽助正家の嫡男、織田信雄のもとへ使いする
酒井左衛門尉忠次:かつて信長のもとへ使いした、宴会芸は蝦すくい
酒井忠次
松平家忠
松平家忠
松平主殿家清
松平周防守康重
松平又七郎
松平又七郎家信
水野十郎勝成:水野忠重の子
水野惣兵衛忠重
水野惣兵衛忠重:刈谷城主
水野忠重
水野藤十郎勝成:水野惣兵衛忠重の子
菅沼大膳
菅沼定盈
石川伯耆守数正:岡崎城の城代
康長:石川数正の嫡男
勝千代:石川数正の次男、於勝
半三郎:石川数正の三男
渡辺金内:石川数正の家臣、本多作左衛門のもとへ使いした、囲碁の名手
荒川惣左衛門:石川数正の家臣
佐野金右衛門:石川数正の家臣
村越伝七:石川数正の家臣
中島作左衛門:石川数正の家臣
伴三右衛門:石川数正の家臣
本田七兵衛:石川数正の家臣
石川日向守家成
大久保七郎衛門忠世:かつて信長のもとへ使いした
大久保忠隣
大久保平助:小姓組
大須賀康高
丹羽勘助氏次:岩崎城主
丹羽勘助氏重:氏次の弟
丹羽氏次
茶屋四郎次郎:松本四郎次郎清信、武将ながら、京の呉服商人に身をやつして家康の密偵を務める
鳥居松丸:小姓組
鳥居彦右衛門元忠
津田弥太郎
渡辺半蔵守綱:足軽大将
徳姫:家康の長子故信康の妻
内藤四郎左
内藤四郎左衛門正成
服部半蔵
服部平六:森武蔵守の下に潜り込ませたスパイ
平岩七之助親吉
米沢梅干之助:水野惣兵衛の家臣
牧野右馬亮康成
牧野惣次郎
本多慶孝
本多康重
本多佐渡守正信:家康の本陣で雑用主管を勤める
本多作左衛門重次:「一筆啓上火の用心お仙泣かすな馬肥やせ」
仙千代:本多作左衛門の嫡男、「一筆啓上火の用心お仙泣かすな馬肥やせ」のお仙
本多八蔵:大久保七郎右衛門の家臣、森武蔵守を討ち取る
本多平八郎忠勝:「家康に過ぎたるものが二つあり唐の頭に本多平八」
本多豊後守広孝


<織田家>
織田信雄:信長の次男
中川勘左衛門貞成:犬山城主
清蔵主:中川勘左衛門の伯父
津川玄蕃允義冬:信雄の三重臣
岡田長門守重孝:信雄の三重臣
浅井田宮丸長時:信雄の三重臣
滝川三郎兵衛雄利:信雄の家老
土方勘兵衛雄久:信雄の家老
生駒八右衛門:信雄の生母の兄
飯田半兵衛正家
森久三郎春光
神戸正武
佐久間正勝
山口重政
天野景利
織田信孝:信長の三男、姦計に掛かり大御堂寺で非業の死を遂げる
太田新右衛門:信孝の家臣


<羽柴家>
羽柴筑前守秀吉
羽柴秀長:秀吉の弟
羽柴秀勝:織田信長の四男、秀吉の養子
三好孫七郎秀次:秀吉の甥
朝日姫:秀吉の末の妹
佐治日向守秀政:朝日姫の夫
副田甚兵衛:朝日姫の前夫
大村幽古:秀吉の祐筆
茶々姫:浅井長政、お市の方の遺児
池田勝入:池田恒興、勝三郎、入道して勝入
池田勝九郎元助:紀伊守、勝入の嫡男
池田三左衛門輝政:勝入の次男
池田橘左衛門長政:勝入の三男
伊木忠次:池田勝入の家老
石坂半九郎:池田勝入の家臣
遠藤藤太:池田勝入の家臣
日置才蔵:池田勝入の家老
片桐半右衛門:池田勝入の家老
伊藤掃部助祐時
伊木清兵衛忠次
為井助五郎
一柳末安
稲葉一鉄
稲葉貞通:右京亮、稲葉一鉄の子
下村主膳:中村一氏の家臣
加藤虎之助清正
加藤作内光泰
梶村与兵衛
蒲生氏郷:忠三郎
関安芸守盛信入道万鉄
関一政:関万鉄の子
金森長近
九鬼嘉隆
高山右近
高畠孫次郎
黒田官兵衛:孝高
今井検校
佐々成政
細川忠興
細川藤孝
山内一豊:「山内一豊の妻」の夫
小西行長
小川祐忠
森長近:内久保山を守る。文庫版308ページに登場、金森長近の誤植ではないでしょうか? 
森武蔵守長可:鬼武蔵
鍋田内臓允:森長可の家臣
野呂助左衛門:森長可の家臣
生駒親正
石田佐吉三成
浅野長吉
浅野長政
前田利家
前田利長
前野長康
滝川一益
丹羽五郎左衛門:外久保山を守る
丹羽長秀
中川秀政
中村一氏
長曾我部元親
長谷川秀一
津田隼人
田丸具康
田中吉政:秀次の小姓頭
筒井定次:伊賀守
徳永寿昌
日根野弘就:備中守
白井備後
富田左近:平右衛門
福島正則:市松
保田安政
蜂屋頼隆:内久保山を守る
蜂須賀彦右衛門正勝
堀久太郎秀政
堀秀政
堀尾茂助吉春
木下利久
木下利匡
木下利直
木村隼人


<その他>
水野惣兵衛忠重
丹羽勘助氏次
佐竹次郎義重:太田城主
不破源六広綱
北条氏直
木曾義昌
上杉景勝
毛利輝元
松平清兵衛:かつて家康に「初花の茶壷」を献上した
保田の花王院:家康が対秀吉戦に備え、後方撹乱に用いる西国の勢力
寒川右太夫行兼:家康が対秀吉戦に備え、後方撹乱に用いる西国の勢力
畠山左衛門佐貞政:家康が対秀吉戦に備え、後方撹乱に用いる西国の勢力
管平右衛門:家康が対秀吉戦に備え、後方撹乱に用いる西国の勢力
千鶴:中村に住む、秀吉の幼馴染
森川権右衛門:羽柴方に加担する
村瀬作右衛門:羽柴方に加担する
北野彦四郎:羽柴方に加担する
長左衛門:勝入らの中入りを家康に報告する
納屋蕉庵
納屋蕉庵:堺衆
津田宗及:堺衆
万代屋宗安:堺衆
住吉屋宗無:堺衆
松井友閑
千宗易:堺衆、利休
紙屋:九州唐津の商人
大賀:豊前中津の商人
ソロリ新左:鞘師
阿吟


前巻での、柴田勝家最期の顛末もそうでしたけれど、(高度成長期を戦い抜いた)熟年企業戦士の身の振り方にも通じそうな本巻。
シリーズをここまで読み進めて来た中でも、とりわけ面白い一冊でした。
ストーリーテラーとしての旨さ。
現代の読者にも共感を呼ぶ、去り行く者達への感傷。
小牧・長久手の戦いの始末記として見ても、まとまりの好い一冊ですね。 久々の歴史小説を堪能しました。


天下統一まであと16巻。
 
 

| | Comments (0) | TrackBack (0)

January 28, 2007

「徳川家康」第9巻 碧雲の巻

「徳川家康」 第9巻 碧雲の巻
         (山岡荘八著 講談社文庫)


さて本書こそは、山岡荘八が柴田勝家と言う男に捧げたレクイエムなり。
かつて、経営のバイブルと謳われた「徳川家康」。 ベストセラーの秘訣は、やはり、判りやすさ、メッセージの鋭さにあるのかと想う。 山岡版の勝家は、自らを時代遅れと知りつつも、最期まで意地を貫き通すしかなかった男の哀しさ、潔さを描き切る。


織田信長が本能寺に倒れ、三日天下の明智光秀を羽柴秀吉が討ち取った。
織田家中でも筆頭の位置にある柴田勝家と、今や破竹の勢いの羽柴秀吉。 もともと反りの合わなかったこの二人の対立は、主君の不在と供に、いよいよ表面化し始める。 なにしろ秀吉は、かつて主家の草履取り風情にすぎなかった新参者である。 勝家としては、たとえその実力を評価出来ても、その地位までは断じて認める訳にはいかないのである。

        ▽▲▽▲▽▲

本能寺の変で織田信長を討ち取った明智光秀だが、山崎の戦いで羽柴秀吉に破れてしまう。
ここでの秀吉は、単に主君の仇を討ったというだけではなしに、信長の後継者候補としていち早く名乗りをあげたようなものである。
その後の秀吉の行動は、正に疾風迅雷の如しであって、戦勝を祝う暇もなしに、すぐさま次の二の手三の手を打ってゆく。 信長の後継者レースは既に始まっていることを、そして勝ち残るために何をすべきかを、誰よりも好く心得えている秀吉であった。

一方、織田家中でトップの位置に立つ柴田勝家は、織田家の後継者を決める清洲会議は、当然のことながら自分が仕切るものと考えていたが、秀吉の巧みな采配により、チェアマンの座を持っていかれてしまう。 なにしろ秀吉と言う男は、こういうことを、おそろしく如才なしにやってのけるのである。

会議の始まる前から、一人でも多くの重臣を味方につけるべく、水面下で着々と運動を続け、勢力を広げて来た秀吉と、既得のポジションに胡坐をかいて、まったく危機感を抱いていなかった勝家。
時代の流れに附いてゆけない時と言うのは、大体こんなものなのかもしれない。 大丈夫、自分のやり方で間違いないと信じていたのが、シビアな現実に気づいた時には、もう、どうにもならなくなっている。

無為無策の勝家は、しかし清洲会議の後にお市の方を娶って束の間の春を迎える。 戦略的には然程の価値のないこの展開は、秀吉にとっては歓迎すべきところである。 とは言え、長年お市の方に懸想してきた秀吉としては、断腸の想いでもあったろうけれど。

        ▽▲▽▲▽▲

さて、この頃の家康はと言えば、地場固めに専心していたのである。
信長亡き今、天下取りに名乗りを上げる千載一遇のチャンス到来・・・・とは考えなかった。 いや、天下取りへの意思は、この頃既にあったものと想われるけれど、織田家中の熾烈な後継者争いから、ここは一歩身を退いておくべしと読んだのである。
家康は領地の経営に力を入れると共に、信長没後の混乱に揺れる甲府を手中に収め、旧武田家の武将達を自軍に吸収してゆく。
側室として鋳掛屋の後家、阿茶の局を迎える。

        ▽▲▽▲▽▲

信長の後継者争いのライバルを柴田勝家と見定め、額を寄せ策を巡らす秀吉と軍師黒田官兵衛。
織田家中で新参の秀吉が、信長の後継者の位置へと着くには、それに相応しい大義名分を造り上げる必要があったのである。 既に明智光秀を討って、仇討ちの手柄を上げた。 次の一手として、秀吉は主君信長の葬儀を取り仕切ることにする。 秀吉としては、こうやして徐々に勝家を刺激し、その立場を追い詰めてゆく必要があった。

        ▽▲▽▲▽▲

お市の方。
信長の死後、越前の柴田勝家のもとに嫁いだものの、前夫の浅井長政を忘れられず、勝家に打ち解けることが出来ないでいた。
故長政との間には三人の娘、茶々姫、高姫、達姫を設けており、その行く末をひたすらに案じる母である。 しかし、娘らは、そんな母を疎ましく想い始めており、それを知ったお市の方は激しいショックを受ける。 情緒的なお市の方に対して、理に聡い茶々姫。 この辺は、いつの時代にもありそうな母娘の関係か。

 「だってママはね、アナタたちの幸せだけを願って、
  こうして・・・・・」
 「はぁ?、それってママのエゴなんじゃないの?」

お市の方と言い、勝家と言い、その晩年には、どちらも孤独で辛い立場に追いやられてしまうのが哀れでならない。


そして、柴田勝家。
冬季は雪に閉ざされる越前北の庄にいて、より京に近い秀吉の動向が気になっていた。
明智光秀を山崎の合戦に屠って旭日昇天の勢いにある秀吉に対して、過去の栄光に縋るばかりの自分では、所詮適いっこないと言う意識が、この頃既に芽生えていて、だからといって、どうすることも出来ない苛立ちを振り払うことが出来ない。 しかし勝家には意地があり、その傍らには最愛のお市の方がいるのである。

勝家は、息子の柴田勝久をお市の方に遣わして、来る秀吉との決戦ではまず勝ち目の無いことを、そして、お市の方母娘には北の庄城から逃げ延びて欲しいことを諄々と説いて聴かせる。
そんな中で、これまで勝家に対して頑なであったお市の方の心が、次第にほぐれてゆくのである。 迫り来る破滅を意識しながら、北の庄の城には束の間の幸せがあった。
春になれば、この雪が解ければ、いよいよ最後の戦が始まる。

        ▽▲▽▲▽▲

越前を本拠とする勝家は、冬の間は雪に閉ざされて軍勢を動かすことが出来ない。
秀吉との決戦を避けられないものと知った勝家は、一縷の望みを託して前田利家、不破勝光、金森長近、養子の柴田勝豊らを和平の使者として秀吉の下に送り込んだ。
秀吉とは旧知の仲の前田利家は、なんとかして両者を和解させたいと願う。 ここに描かれる利家は、権謀術数とは無縁の、真っ正直な好漢である。
一方、柴田勝豊は、日頃から折り合いの好くない養父の勝家よりも、むしろ秀吉に人間的魅力、器の大きさを感じてしまい、懊悩する。
だが、どうにかして勝家を決戦の場に引っ張り出したい秀吉は、持ち前の老獪さを遺憾なく発揮して、一同をまんまと煙に巻いてしまう。

        ▽▲▽▲▽▲

賤ケ岳の戦。 秀吉VS勝家による、信長の後継者ポスト争奪戦である。
秀吉は例によって例の如く、十二分に勝利の確信できるだけの戦力を確保したうえで合戦の場に臨んだ。
更に、一旦、戦線を離れると見せ掛けて、血気にはやる勝家の甥、佐久間盛政が攻め寄せて来たところに、まさかの奇襲攻撃を仕掛け、これを契機に柴田軍を散々に打ち据える。
世に言う「賤ケ岳の七本槍」の活躍はこの折のこと。
秀吉と勝家の間に立って板ばさみ状態であった前田利家は早々に戦線を離脱してしまう。

敗走の勝家は、わずかな手勢を引き連れて北の庄城に帰還する。
もはや100パーセント勝ち目のない勝家は、お市の方と娘らを落ちのびさせようとするけれど、お市の方から自分と運命を供にする路を選ぶ覚悟と聴かされれ、まるで、恋を知り染めた若者のように欣喜雀躍してしまう。 まったく、男って奴はこんなもの。

北の庄城最後の夜、天守閣では勝家一家主従が酒盛りに打ち興じた。 人間、一旦開き直ってしまえば、最早怖いものなどありはしない。 皆々今生の別れである。
とは言え、酒の勢いもあってか、この期に及んで秀吉への悪口を繰り始める勝家。 「あの猿めが・・・・」 その未練な姿に、城に残ったことを後悔し始めてしまうお市の方。 「パパ、もう好い加減にしてよ!」 なのである。 この辺りの描写は、なにげに残酷と想いますよ。

しかし、それも終わった。 夜明けと共に、羽柴勢の総攻撃が始まると、勝家はお市の方とわずかな近習を供にして自刃し、北の庄城を爆破させる。 柴田勝家一代の終わり。
こうして秀吉は、信長の後継者レースを勝ち抜いた。
 
 
 
柴田勝久 「はい、ここらが秀吉の恐ろしいところでもあり、
        同時に偉いところでもございましょう。
        奇略縦横と見せかけて、その実、彼は敵より
        も少ない数で、戦に臨んだことは一度も
        ござりませぬ。」
お市の方 「・・・・・・・・・・・・」
柴田勝久 「挑む時には必ず敵に数倍する兵を引っさげ、
        相手の内部へ撹乱の手をさしのべながら
        攻めかかりまする。
        したがって、彼が兵を動かして戦うて、負けた
        ことは一度もありませぬ。
        勝つようにして戦うのでござりまする。」
お市の方 「まあ・・・・・・」
柴田勝久 「その秀吉が、雪解とともにやってくる・・・・・・
        お分かりでござりまするか。
        負けたことのない秀吉、負けるような軍勢
        では決して戦をせぬ秀吉が、必ず雪解に
        やって来るのでござりまする」
お市の方 「分かりました
        では、では、降参か籠城か、二つに一つの
        時が来たと・・・・・・」
柴田勝久 「いいえ
        一つに、一つの時でござりまする」
お市の方 「と、言われると?」
柴田勝久 「秀吉の下風には立たれぬ。
        父の思いは、これ一つでござりまする」
 
 
 
<<登場人部>>


<徳川家>
徳川家康:徳川家当主
阿浅の局:チャー
<徳川家家臣>
伊井直政
依田信蕃
岡部次郎右衛門正綱
榊原小平太康政
酒井左衛門尉忠次:宴会芸は蝦すくい
石川伯耆守数正
曽根下野守昌世
大久保彦左衛門
茶屋四郎次郎:京の商人、家康の密偵
鳥居彦右衛門元忠
平岩親吉
本多作左衛門:一筆啓上火の用心お仙泣かすな馬肥やせ
本多正信
本多百助信俊:甲府へ使者に立つ
名倉喜八郎信光:甲府へ使者に立つ


<織田家>
織田信雄:信長の次男
織田信孝:信長の三男、神戸侍従信孝
三法師:信忠の嫡男、信長の孫
織田信包
<織田家家臣>
岡本良勝:信孝の老臣
加藤光泰
高田彦左衛門:信孝の老臣
斉藤利尭:信孝の老臣
川尻肥前守秀隆:甲府城城代
福田文吾:川尻肥前守秀隆の小姓頭


<羽柴家>
羽柴筑前守秀吉
羽柴小一郎秀長:秀吉の弟
羽柴秀勝:秀吉の養子 信長の四男
寧々:秀吉の妻
三好秀次:秀吉の甥
<羽柴家家臣>
伊藤掃部助
一柳直末
稲葉一鉄
宇喜多秀家
羽田長戸守
加藤嘉明:荒小姓、賤ケ岳の七本槍
加藤虎之助清正:荒小姓、賤ケ岳の七本槍
糟谷助右衛門:荒小姓、賤ケ岳の七本槍
福島市松正則:荒小姓、賤ケ岳の七本槍
平野長康:荒小姓、賤ケ岳の七本槍
片桐助作:荒小姓、賤ケ岳の七本槍
脇坂安治:荒小姓、賤ケ岳の七本槍
石川平助貞友:賤ケ岳で戦死、七本槍に入り損ねた
石川長松:石川平助貞友の弟、賤ケ岳の七本槍に入り損ねた
加藤光泰
桑原右衛門
桑原冶左衛門
桑山修理介
桑山重晴:賤ケ岳を守備する
高山右近:岩崎山から敗走する
高木貞久
黒田官兵衛:軍師、孝高
黒田甚吉
佐々陸奥守成政
山岡景隆
山崎片家
山中長俊
山内伊右衛門一豊:「山内一豊の妻」の夫
氏家直通
紙子田正治
小西弥九郎行長
小川土佐守
小川祐忠
森長可
杉原七郎左衛門
生駒新八
生駒政勝
石田三成
赤松則継
赤松則房
仙石秀久
浅野長政
前野長泰
大塩金右衛門尉
大村幽古:お伽衆
大谷吉嗣
丹羽長秀:惟住五郎左衛門
池田輝政
池田勝入信輝
池田孫二郎
中川瀬兵衛清秀:大岩山で戦死
中村一氏
長谷川秀一
筒井順慶
副田甚兵衛
蜂須賀家政:彦右衛門の長男
蜂須賀彦右衛門正勝:小六
堀久太郎秀政
堀尾吉晴
明石則実
毛利秀頼
木下将監
木下昌利
木下利匡
木村隼人


<細川家>
細川藤孝
細川与一郎忠興:藤孝の子


<柴田家>
柴田修理亮勝家
柴田権六郎勝久:勝家の嫡男
佐久間玄蕃盛政:勝家の甥
柴田勝豊:勝家の養子、長浜城主
お市の方:勝家の妻、信長の妹
茶々姫:お市の方の長女
高姫:お市の方の次女
達姫:お市の方の三女
勝姫:勝家の娘
政姫:勝家の娘
<柴田家家臣>
阿美乃:勝豊の侍女
安井左近
安井四郎五郎:安井左近の弟
金森長近
原彦次郎
佐治新介
山路将監
柴田弥左衛門
小島若狭
大金藤八郎
中村文荷斎
中村与左衛門
直江田又次郎:賤ケ岳への使者を務める
徳永寿昌:勝豊の家老
徳山五兵衛秀現
拝郷五左衛門
尾藤知次
不破勝光
毛受家照
毛受茂左衛門:毛受家照の兄
木下半右衛門:勝豊の家老


<滝川家>
滝川一益


<前田家>
前田又左衛門利家:前田家当主
前田利長:利家の子
阿松:利家の妻


<武田家残党>
三井弥一郎:牢人、かつて山形三郎兵衛昌景に使えていた、十右衛門


<堺衆>
納屋蕉庵:竹之内波太郎
神谷善四郎
淀屋常安:大阪の商人

<その他>
曲直瀬正慶:医師、柴田勝豊を診る
近衛前久卿


この巻は、テーマとしてなかなか掴みやすいものを持っていたかと想う。
己の信念に従い、長年に渡って働き続け、しかし気がつけば、思うポジションを保てなくなっている悲劇と、その際の身の振り方。 勝家の場合は、如何にも彼らしい幕の引き方を選ぶ。

意地を貫いて果てた柴田勝家とお市の方。
おそらくは、秀吉には生涯理解出来ない境地だったのではないか。


天下泰平まであと17巻。

| | Comments (6) | TrackBack (0)

October 08, 2005

徳川家康」第8巻 心火の巻

「徳川家康」 第8巻 心火の巻
         (山岡荘八著 講談社文庫)
 
 
 
     ときは今天が下しる五月かな    惟任日向守
 
 
 
武田家を倒した織田信長が安土に向けて堂々の凱旋を果たす。
その道中、駿河、遠江、三河を通過する信長一行を、常日頃は質素倹約をトレードマークにする家康が、至れり尽せりの大盤振る舞いで持てなすのである。 これは、信長に対する感謝と友好の現れなどではなく、また一歩、天下人に近付いた信長のことを、家康がどれだけ恐れていたか、慎重な態度を取らざるを得なかったかの証しであろう。
傍目には極めて良好に見える徳川と織田の関係だが、実際は徳川方に取って大変にリスクの大きものであったと知れる。 とにかく、こと信長との付き合いに関しては、万事に遺漏があってはならなかった。

信長はその返礼として、家康を安土城に招待する。 だがこれには、それまで同盟関係を保ってきた家康を臣従させると言う、その確認の儀式としての意味合いもあった。 前巻では信長の一存で妻子の命を奪われたり、共に仇敵武田家と戦ったりして、それが今回は安土への招待である。 これほどまでに信長に振り回されても、一向に弱る風でもない家康。 何ごとも平然と受け止める、おそろしい程の懐の深さは余人に真似の出来ないところであろう。

家康は岡崎城で、久しく逢うことのなかった於大の方との対面を果たした。 かつて、松平家のもっとも苦しかった時代を知っている於大の方にとって、今や駿河、遠江、三河三国の主となった家康を迎える、その感慨はいかばかりだったろう。 他の者から見れば上げ潮に乗ったかのような家康であったが、聡明な於大の方だけは、信長との関係に苦悩している家康の立場に気付いていたのである。 母の前でしばしの間、竹千代の昔に帰る家康。

家康は重臣たちと共に安土へ旅立った。 家康が信長へと持参した進物は、徳川家の一体どこに、これほどの財力があったかと思わせる豪華さであった。 常日頃から家中に徹底させてきた倹約分を、ここぞとばかりに、進物に注ぎ込んだのである。 ここからも家康の、信長に対する畏れを窺い知ることが出来る。

   △▼△▼△▼

信長は、家康の接待役として重臣たちの中から明智光秀を指名する。 万事に卒の無い光秀が考え抜き、贅を尽くした接待振りはしかし、信長の不興を買い、光秀は満座の中で打擲を受ける。
この、性格の激しく異なる主従の意見が対立するのは、珍しいことでもなかったのだが、折悪しく、徳川信康、佐久間信盛、荒木村重、林佐渡ら、大名、重臣らへの粛清が相次いだ時期である。 こうなると光秀としては、信長との間に起こる出来事を、なにもかも悪い方向へと考えざるを得ない。
「このままでは、次に滅ぼされるのは自分に違いない・・・・・」、こう考えるのは自然な帰結であり、その先には謀反と言う選択肢以外あり得なかった。

この当時の信長は、その臣下たちにとって、あまりにもリスクの大きな主君になっていた訳である。 でも、そんな信長を本気で心配していたのは、光秀だけだったのかもしれない。 常に信長から怒りを買いやすいポジションに居ただけに、そこのところを切実に感じたのではないか。
本書の執筆当時の一派的な光秀感としては、光秀は主君の真意と時勢を読み違えて謀反に走った愚かな家臣と言うことになるのだろうか。 でも、信長が光秀の被害妄想を煽ってしまい、更には明智家中をまとめてキレさせてしまったのだとしたら、謀反の原因は光秀ばかりにあると言う訳にもゆかぬのではないか。

   △▼△▼△▼

こうして謀反は決定したのだが、光秀はその決行直前に連歌興行を催す。 その発句として、このような句を詠んでいる。
 
 
     ときは今天が下しる五月かな
 
 
「とき」は土岐氏=明智氏に掛かると言う。
光秀は何を言いたかったのだろう。 この発句を廻っては、いろいろな解釈があるようだけれど、光秀は、本当はその謀反を誰かに諌めて欲しかったのじゃないか・・・・・ 自分としては、そのように想っている。
この後、光秀の率いる明智勢一万一千余りは本能寺を目指すのである。

   △▼△▼△▼

本能寺の変である。
もしも信長が、この時生き延びていたら・・・・・ いわゆる歴史上の if の中でも、これは、もっとも魅力の尽きない if かと思う。 だが、作者の山岡荘八は、信長は既に戦国の世の破壊者としての役割を終えており、もはや時代の子ではなくなった彼の、その滅亡は必然と言う見方をしている。

明智軍に完全に包囲された絶望的な状況の中、自ら弓を取って反撃する信長。
この日、信長の警護にあたっていた家臣は少数ながら、その何れもが一騎当千の者供であった。 小姓の森蘭丸はもとより、その弟の坊丸、幼い力丸までもが死力を尽くして戦う中、濃御前もまた薙刀を取って、明智の軍勢の前に立ち塞がる。
信長が、その覇業を進めるなかで、次第に自分との距離を感じ始めていた濃御前である。 当代きっての英雄の妻が心に秘めた悩み。 それが、この最期の場に至って、若い日のように、吉法師と濃姫の二人に帰って共に戦っていた。 不思議な満足感の中で、敵の刃に倒れる濃御前。 そして、夜の明け初める頃、本能寺は灰燼に帰したのである。

   △▼△▼△▼

本能寺の変の少し前、安土城を後にした家康一向は故国へ帰る途中、堺に降り立っていた。 家康の堺デビューである。
家康ら戦国大名が互いにしのぎを削る世とは別に、堺を中心に大商人たちの世が出来上がっていた。 諸外国との貿易を通じて、その視野は大名たちなどよりも、余程広かったと言える。

ここに、あの竹之内波太郎が久々に登場する。 一体何巻ぶりのお目見えであろうか。 三河にあっては神職であった波太郎だが、ここでは何故か堺の商人となっており、納屋蕉庵と名乗る。 年齢を感じさせない美貌と思わせぶりな態度は以前と同様。 相変わらずよく判らない男なのである。
その納屋蕉庵をはじめとする堺の商人たちに言わせれば、戦国武将の戦いなど馬鹿馬鹿しい限りである。 天下国家を論じる大商人たちのビジョンは、なまじい戦国武将の遥かに先を行っている。

本能寺の変の知らせを聞いた家康主従は、急遽堺から三河へと向かう。 とにかく、大急ぎで帰還し、信長なき後の天下の情勢に対応しなければならなかった。
家康は、この逃避行の途中、図らずも市井に暮らす農民、漁師、更には一揆の首謀者と言葉を交わした。 家康は、こうした中から時勢を読み取り、ここ当分は天下取りに乗り出さないことにする。

家康の懐刀、京の商人茶屋四郎次郎は、大阪に下る三十石舟の中で旅姿の女と出会う。 茶屋は、身分を明かさないその女と会話するうちに、その正体は明智光秀の娘にして細川忠興の妻、細川ガラシア夫人なのだと見抜いていた。
彼女はこれから夫と、出来れば父に逢いに行くと言う、この女性もまた、本能寺の変によって運命が一転した一人である。 茶屋と話す中で、父、光秀の戦略眼の無さを容赦なく批判し、夫の優柔不断をなじるガラシア夫人。 娘による父親評は極めて辛らつなものであり、また、夫に対する評価もクールである。 運命を父、嫁しては夫に手に委ねるしかなかった、当時の女性の無念さ。

さて、私には、ここへ来て作者山岡荘八の光秀感が今ひとつ良く判らないでいる。 時勢を読み違え、独り先走って信長を討った。 誰よりも思慮深い光秀が、気が付けば、もっとも自分らしくない道を選んでいた。 と言うのが、どうにも説得力に欠ける気がして、今ひとつ納得がいかないのである。
何より、謀反と言う後戻りの出来ない選択に、ここでの光秀は、あまりにもあっさりと行き着いてしまった。 これが不自然。 「そうだ! この日、本能寺の信長はノーガードなのだ!」と気が付く瞬間や、謀反を決行することへの逡巡の場面などを読んでみたかった気がする。

   △▼△▼△▼

さて、羽柴秀吉である。
信長の訃報を聴いて子供のように泣きじゃくる一方で、同時に天下取りへの布石を打ち始める。 これが秀吉である。 対陣中の毛利軍を寝技で押さえ込み、中国大返しを成功させたあとは、山崎の合戦に、文字通り全身全霊を注ぎ込む。
一体、秀吉のする戦とは、それ以前に充分な準備、根回しをし尽くし、敵方の有力武将も味方に引っ張り込む。 そうして、自軍の勝利する以外ありえないところまでやり遂げてから、ようやく合戦を始めると言うものである。
山崎の合戦は、いざ始まって見ると数時間で勝負がついた。 光秀の旧態依然とした合戦のスタイルが、秀吉の合理的な戦略に追いつかなかったのである。
光秀、50余年の経歴のあっけない幕切れである。 思えば、信長に仕えていた頃から最期の瞬間まで寸刻も、心身ともに休まる暇のない人生であった。 そこには、真面目一方で遊び下手、働くばかりのお父さんと言うイメージがあって、その哀れな末路には共感してしまうのである。
 
 
 
 
細川ガラシヤ夫人 「それはのう、二つのことが確かめて
             みたいばかりであった」
茶屋四郎次郎   「二つのこと・・・・・・と、いわっしゃる
             と?」
細川ガラシヤ夫人 「かりに明智どのをわが父として・・・・・・
             父が何を考えて、右府さまを討った
             のか?
             右府さまのようなお方一人を斬りさえ
             すれば、この世が正されるものと
             思ったのかどうか?」
茶屋四郎次郎   「そう思うて斬ったといわっしゃったら?」
細川ガラシヤ夫人 「笑うてやります。 そのような浅はかさ
             では、斬って斬られて
             乱世は永劫につづきますると、笑うて
             やります。
茶屋四郎次郎   「ウーム。 それが一つで、もう一つ
             確かめたいといわっしゃるは?」
細川ガラシヤ夫人 「父のもとから丹後へ赴き、
             良人に一言訊いてみたい・・・・・・」
茶屋四郎次郎   「何とお訊ねなさりまする?」
細川ガラシヤ夫人 「父へ味方するは無駄なこととすすめた
             上で、良人にわらわを何とするかと。
             逆臣の娘ゆえ、首を討って差出すと
             言われるか、それともわが身の命
             乞いをしてくれるか?」
茶屋四郎次郎   「首討って差出すといったら」
細川ガラシヤ夫人 「笑うてやります。 それは意思でも
             義理でもない。
             弱い負け犬の、保身のための追従と
             笑うて首を討たれてやります」
 
 
 
 
<<登場人部>>

<徳川家>
徳川家康:徳川家当主
お愛の方:西郷の局
於大の方:家康の生母
於義丸:家康の次男
長松丸:家康の三男
福松丸:家康の四男
<徳川家家臣>
阿部善九郎
伊井万千代直政:小姓
穴山梅雪:元武田の重臣
高力清長
榊原小平太康政
酒井左衛門尉忠次:宴会芸は蝦すくい
菅沼定蔵
石川康通
石川伯耆守数正
大久保治右衛門忠佐
大久保忠隣
茶屋四郎次郎:京の商人
長坂九郎:血槍九郎
鳥居松丸:小姓
鳥居彦右衛門元忠
天野康景
渡辺半蔵
服部半蔵正成
牧野康成
本多作左衛門:一筆啓上火の用心お仙泣かすな馬肥やせ
本多百助
本多平八郎忠勝:家康に過ぎたるものが二つあり唐の頭に本多平八

<織田家>
織田信長:織田家当主
織田信忠:織田家嫡子
神戸信孝:信長の三男
織田源三郎勝長:信長の末子
濃御前:信長の正室
<織田家家臣>
加藤光泰
高橋虎松:信長の小姓
高山右近
山田弥太郎:信長の小姓
柴田修理亮勝家
小川愛平:信長の小姓
織田九郎次郎
森坊丸:信長の小姓
森蘭丸:信長の小姓
森力丸:信長の小姓
神子田正治
杉原七郎左衛門家次
青山与総
大塚弥三郎:信長の小姓
丹羽長秀:惟住五郎左衛門
池田信輝
中川清秀
中村一氏
長谷川宗仁
長谷川秀一
長谷川竹丸
津田勘七
津田又十郎
筒井順慶
薄田与五郎:信長の小姓
飯川宮松:信長の小姓
堀久太郎秀政
又一郎:信長の小姓
木村隼人
弥助:宣教師ワリヤーニが信長に献じた黒坊主
夕菴:右筆
落合小八郎:信長の小姓

<羽柴家>
羽柴秀吉
羽柴秀勝:秀吉の養子 信長の四男
<羽柴家家臣>
黒田勘兵衛:軍師
蜂須賀彦右衛門:小六
蜂須賀家政:彦右衛門の長男
山内伊右衛門一豊:「山内一豊の妻」の夫
藤堂与右衛門高虎
浅野弥兵衛
石田佐吉
大村幽古:お伽衆
大谷平馬
福島市松
三好一路
小西弥九郎行長

<毛利家>
<毛利家家臣>
清水宗治:高松城城主
安国寺恵瓊:毛利の交渉人

<明智家>
明智光秀:惟任日向守
明智十兵衛光慶:光秀の長男
明智十次郎:光秀の次男
明智十三郎:光秀の三男
明智乙寿丸:光秀の末子
明智左馬助光春:本能寺攻めを指揮する
明智治左衛門
明智左衛門
明智十郎左衛門
明智光廉入道長閑斎
<明智家家臣>
阿部貞征
安田作兵衛:本能寺攻めに加わる
伊勢与三郎貞中
隠岐五郎兵衛
奥田宮内一氏
御牧三左衛門
溝尾勝兵衛
荒木山城守
荒木友之丞
妻木主計頭
斎藤内臓助
斎藤利三
三宅式部秀朝
三宅孫十郎
三宅孫十郎:本能寺攻めに加わる
山岡対馬守和久
山本三右衛門:本能寺攻めに加わる
四王天但馬守:本能寺攻めに加わる
四王天又兵衛:但馬守の嫡男 本能寺攻めに加わる
柴田源左衛門
松田太郎左衛門
進士作左衛門
諏訪内藤介利三
諏訪飛騨守
村越三十郎
村越三十郎景則
村上和泉
津田与三郎
東六郎兵衛
藤田伝五郎
比田帯刀
並河掃部介
堀尾与次郎

<堺衆>
おぎん:千ノ宗易の娘
今井宗久
松井友閑:宮内卿法印 堺奉行
杉本新左衛門:曾呂利新左衛門
納屋蕉庵:竹之内波太郎
木の実:納屋蕉庵の養女 水野信元の娘

<細川家>
細川藤孝
細川与一郎忠興:藤孝の子
桔梗:忠興の妻 明智光秀の次女 細川ガラシヤ夫人
<細川家家臣>
松井康之

<その他>
角屋七郎兵衛:松阪の商人
亀屋栄任:商人 家康の道案内を務める
吉永小平太:上京する明智軍を目撃する
近衛前久
兼如法師:光秀の連歌興行に加わる
顕空:当正住院住職 家康を助ける
幸若八郎九郎太夫
行祐房:西の房威徳院 光秀の連歌興行に加わる
桜谷の関兵衛:一揆の首謀者
山口藤左衛門光広:宇治田原の長者 家康を助ける
鹿飛村の弥六:一揆の首謀者
小川孫三:家康一行を海路案内する
昌叱法橋:光秀の連歌興行に加わる
紹巴法橋:里村紹巴? 光秀の連歌興行に加わる
心前法橋:光秀の連歌興行に加わる
村井長門守:所司代 吉永小平太の主人
大石村の孫四郎:一揆の首謀者
大善院宥源:光秀の連歌興行に加わる
丹波猿楽梅若太夫
柘植三之丞:伊賀者 家康一行の道案内を務める
田上の六左衛門:一揆の首謀者
八兵衛:庄屋 家康一行の道案内を務める
淀屋常安:大阪の商人
 
  
 
光秀の最期は、己の野望の果てと言うよりも、生き延びるために止む無く選んだ路が、謀反と言う、もっとも彼らしくない手段であったところがあまりにも痛烈な皮肉と感じられる。 作者、山岡荘八が、この、稀代の叛臣を単純な悪役として据えなかったことで、これは、自分にとって忘れられない一巻となった。
それにしても今や、山岡荘八がこの作品を執筆した当時よりはずっと、明智光秀と言う人物に対して共感しやすい時代となっているのではないだろうか。
 
 
 
天下泰平まであと18巻。

| | Comments (4) | TrackBack (0)

July 25, 2005

「徳川家康」第7巻 颱風の巻

「徳川家康」 第7巻 颱風の巻 (山岡荘八著 講談社文庫)

覇業の完成を目前にして、今や輝きの絶頂にある信長。 幼少の頃より続く家康と信長との関係も、新たな局面を迎えようとしていた。 家康堪忍の一巻。
 
 
武田勝頼は家臣団の反対を押し切り、徳川家の勢力下にある岡崎、長篠方面に向けて進軍を開始した。 無謀な侵攻に、重臣達の中には武田家の前途を悲観するものが少なくなかった。 勝頼が密かに期待していた岡崎城の大賀弥四郎は、既に謀反が発覚して捕らえられていたため、岡崎城の乗っ取りは諦め、全軍を以って長篠城を攻めに掛かる。

長篠は家康にとって、対武田作戦の要とも言える場所であった。 長篠城の落ちる時は徳川家の滅びる時・・・とさえ考える家康は、城主として女婿の奥平貞昌を送り込んであった。
家康の長女亀姫は築山殿との暮らしで我が侭一杯に育てられ、貞昌の奥平家へは嫌々嫁がされたのである。 最初は夫に激しく反発した亀姫だったが、やがて貞昌の豪放磊落な性格に惹かれはじめる。
若い夫婦して力を合わせ、過酷な状況の中で城を守ることに夢中になって、篭城の苦労さえも楽しんでしまう辺りは若さの持つ特権であろう。 貞昌の、父家康とは正反対の開けっぴろげな性格とも相性が良かったのかもしれない。
その長篠城主奥平貞昌は、とにかく何があろうとメゲナイ男である。 武田の軍勢15,000人に対して長篠城の兵力は僅か500人であったにも関わらず、常にポジティブ・シンキン! 何処までも陽気で、悲観的になると言うことを知らなかった。 僅かな人数で一丸となって城を守る内、長篠城の守備軍全体がそんな貞昌カラーに染まってゆく。
天然の要害に守られ、更に貞昌の機略を駆使して武田軍を容易に寄せ付けない長篠城だが、しかし、兵力の圧倒的な差は如何ともし難く、次第に追い詰められていった。 貞昌は家康に救援を請うため、伝令として鳥居強右衛門を派遣した。 捨て身で敵中を突破して来た強右衛門の剛毅さに打たれた家康と信長は援軍の出発を告げる。
その強右衛門は長篠城への帰路、武田方に捕らえられてしまう。 武田の家臣からは、長篠城内に向けて、援軍はやって来ないと叫べば命を助けてやろうと持ちかけられるが、しかし、強右衛門は気骨の人である。 間もなく援軍が来る故、それまで頑張るよう城内へ叫んだため、敢え無く磔刑に処せられてしまう。
やがて、強右衛門の言葉通りに援軍が到着。 これにより彼我の戦力比は逆転した。 武田軍としては、徳川、織田の連合軍を前にして、もはや長篠城攻略どころではくなったのである。 ここで一気に決着を付けるべしと奮い立つ勝頼は、家中の反対を振り切って合戦を決意する。 信玄以来の重臣達の多くが、武田家の命運ももはやこれまでと覚悟を決めた。

かくして、長篠の戦いが始まった。 戦国最強を謳われた武田騎馬軍団と織田鉄砲隊との戦史上画期的な戦いは、旧弊な合戦の概念から脱却出来ない武田方にとって、あまりにも惨い内容であった。 名立たる歴戦の騎馬武者達が、無名の雑兵らの撃つ鉄砲によって次々に倒されてゆく様は、只々憐れを誘うのみである。

戦は織田、徳川軍の圧勝に終わり、長篠城の守備軍も救われたのである。 援軍の持参した食料が運び込まれて安堵する城内。 蓄えの兵糧など、とうに食べ尽くしていたのだ。 遂に自分達は城を守り抜いた!・・・ 炊き出しの握り飯を頬張りながら、顔を見合す度ににっこりと笑いあう、若い貞昌と亀姫。

長篠の戦いは元々、徳川家の存亡を賭けた戦いであったのが、終わってみれば、信長のステータスを一気に押し上げる結果となっていた。 織田軍、最早向かうところ敵無しである。 上潮に乗って覇業を進める信長は、その拠点とするべく安土城の建設に取り掛かる。
一方家康は、長篠の戦勝を冷静に分析して、織田軍の加勢無しでは到底勝てる戦ではなかったこと、徳川家はまだまだ実力が足らぬことを悟る。
これまでは、信長は西へ、家康は東へ伸びていたから良かった。 互いに背後を守りあう関係にあったからである。 しかし、織田家の全国制覇が完成に近付けば、信長の、徳川家に対する扱いも変わって来ると考えなければならなかった。 家康は、いつか来るその時に備えねばならない。 長篠の戦い。 勝つには勝ったが、これで信長に大きな借りが出来てしまったことを強く自覚する家康であった。

一国の領主から天下人へ。 天下を狙う者から、天下を治める者へ。 この信長の意識改革を、家康はいち早く察知していた。 (後の明智光秀などは、そこに付いて行けなかったのであろう)
今や一織田家の当主としてではなく、天下人としての視点を持ちはじめた信長にとって、織田家を悪し様に言い触らす築山殿と、日頃から乱行の絶えない信康は、同盟国の正室、嫡子として「好ましからざるもの」であった。 信長は、築山殿と信康に切腹を命じる。

妻子の命を差し出せと言う、とてつもない暴挙に対して、家康はあくまでも徳川家の当主としての立場を忘れる訳にはいかなかった。

 信長 「悪いけど、あの奥さんと長男、キミん家の
      ためにならないからね。」
 家康 「え?・・・」
 信長 「って言うか、このまま行って、オタクが傾きでも
      したら、東日本のパワー・バランスは一体どう
      なるのよう!」

二人の間で、こんな会話が交わされた訳では勿論無いけれど、信長の全国制覇構想に組み入れられている自分と、それを遂行するためならばどんな犠牲(信康は、信長から見ても長女の婿なのだ)をも厭わない信長の心中は
充分に推し量ることが出来るのである。

天下人たらんとする今の信長から徳川家を守るためには、信長に付け入られるような、一点の落ち度もあってはならなかった。 その辺りの感覚は、非情なまでに研ぎ澄まされている家康である。 が、その家康にして、前もって築山殿と信康の切腹に至るまでの展開を読み、有効な手を打っておくことが出来なかったのは一大痛恨事であった。
幼い頃、兄弟のように付き合った信長と家康であったが、今や天下の覇者の座に付こうと言う信長に対して、家康は臣下として服属せねばならない関係となっていたのである。 安土に赴いて信長と交渉事の出来得る人材も居なかった。 武芸名誉の者ならば、家中に幾らも居るのに。 何より、一旦言い出したことを引っ込める信長ではない。
本当は家康は、謹慎中の信康が脱走してはくれまいか、あるいは、家中の誰かが手引きして逃がしてはくれまいかと、心密かに期待したのである。 同時に、そんなことを考える自分の甘さを恥じもした。
しかし、信康は頑なであったし、徳川家の家臣達も、ある意味真面目に過ぎた。
家康の苦渋の決断に、信康は武人らしく従容として従った。 一方の築山殿は、当然ながらこの措置に納得する筈もなく、せめて見苦しくない最期をと案じる家臣たちによって、隠密裏に生害させられてしまうのである。

家康は北条家と手を結び、武田方の遠江の拠点である高天神城攻めを敢行。 猛攻の末に、遂にこれを陥落させた。 高天神城の牢からは徳川の家臣、大河内源三郎が救い出された。 源三郎は、かつて高天神城が武田方の手に落ちた時からの虜囚であり、以来、牢内に、九年間に渡り閉じ込められながら、遂に弱音を吐かなかった男である。 この大河内源三郎と言い、長篠城の鳥居強右衛門と言い、底知れぬ粘り強さが三河武士の真骨頂なのであろう。

こうして織田、徳川、北条の三氏を敵に廻した武田家は、これ以降、急速な衰えを見せていった。 勝頼は個々の戦の勝ち負けにのみ拘って、家臣、領民の負担を顧みることをしなかったため、離反する者が後を絶たなかった。 木曾義昌に謀反の疑いありと知った勝頼は、早速に軍勢を率いて木曾に向かう。 信長は好機到来とばかり、家康、金森長近らを伴ってこれに対抗した。 勝頼はこれを迎え撃つも、重臣らの裏切りに合って敢え無く敗退。 急ぎ躑躅が岬に戻った勝頼は、そのまま一族を引き連れて館から落ち延びる。

躑躅が岬館から新府の城、岩殿城へと廻り歩いた頃には、大勢引き連れていた家臣達も何時しか散り散りとなり、最早流浪の衆となり果てていた勝頼一行である。 重臣の小山田信茂に裏切られて、滝川一益の軍勢に追われた勝頼らは、遂に山中で全員が自害して果てる。 かくして武田家は滅亡したのである。
 
 
 
 
徳川家康 「これからはの、暫くは誰も彼もが堪忍の
        しくらべじゃ。
        堪忍ほどわが身をまもってくれるよい楯は
        ない。
        わかるかの、誰にも出来る堪忍のことでは
        ないぞ。
        誰にも出来ないほどの堪忍を、じっと育てて
        ゆかねばならぬぞ」
 
 
 
 
<<登場人部>>

<徳川家>
徳川家康:徳川家当主
徳川信康:徳川家嫡子
瀬名:築山殿 家康の正室 今川義元の姪
徳姫:信康の妻 信長の長女
お愛:西郷の局
あやめ:信康の側室
菊乃:信康の側室
<徳川家家臣>
伊井万千代直政
鵜殿八郎康定
岡三郎佐衛門:馬場信房を討ち取る
岡本平左衛門時仲
梶金平
吉良於初:信康の小姓
原田弥之助:本多忠勝の家臣
幸若三太夫:高天神城攻めに加わる
榊原小平太康政
酒井左衛門尉忠次:宴会芸は蝦すくい
小栗大六重常
松平家清
松平家忠
松平三郎次郎親俊:長篠城を守る
松平弥九郎景忠:長篠城を守る
松平弥三郎伊昌:長篠城を守る
石川太郎左衛門義房
石川伯耆守数正
大河内源三郎政局:高天神城に九年間幽閉される
大久保治右衛門忠佐
大久保七郎右衛門忠世:忠俊の孫
大久保忠隣:忠世の嫡子
大久保平助忠教:忠世の末弟 彦左衛門
大須賀五郎佐衛門康高
鳥居彦右衛門元忠
天方山城守道綱
服部半蔵正成
平岩七之助親吉:信康の守役
本多作左衛門:重臣
本多平八郎忠勝:家康に過ぎたるものが二つあり唐の頭に本多平八
野中五郎重政:信康付きの家来
お琴:侍女
喜乃:侍女 お琴の妹

<奥平家>
奥平美作守貞能:奥平家当主 山家三方衆の一人 作手城主
奥平九八郎貞昌:奥平家嫡子 長篠の戦いでの戦功で信昌に改名
亀姫:貞昌の妻 家康の長女
<奥平家家臣>
奥平次佐衛門勝吉
鳥居強右衛門:徳川軍へ決死の伝令を勤める

<織田家>
織田信長:織田家当主
織田信忠:織田家嫡子
濃御前:信長の正室
<織田家家臣>
羽柴秀吉
佐久間信盛
柴田勝家
森蘭丸:信長の小姓
前田又左衛門利家
滝川一益
丹羽長秀
明智光秀:惟任日向守

<武田家>
武田勝頼:武田家当主
武田信勝:武田家嫡子
武田信康入道逍遥軒:信玄の弟
武田左馬之助信豊
武田兵庫助信実
小田原御前:勝頼の妻
<武田家家臣>
粟田刑部:高天神城を守る
一条右衛門太夫信龍
奥平次左衛門勝吉
岡部帯刀:高天神城を守る
河原弥六郎:鳥居強右衛門を捕らえる
甘利三郎四郎
甘利新五郎:間者として織田方へ潜入
木曾義昌
穴山梅雪:家康に寝返る
原隼人昌胤
高坂源五郎
作蔵:高天神城の牢番
三枝勘解由左衛門守友
山形三郎兵衛昌景:甲斐の名将
秋山紀伊
小原下総
小山田備中守昌幸
小山田兵衛
小山田兵衛尉信茂
小幡上総介信貞
松阪ト斎:お伽衆
真田源太左衛門
真田昌幸
菅沼新三郎定直
跡部大炊助
長坂釣閑:長篠の戦いでは主戦派
土屋右衛門尉昌次
土屋小四郎:昌次の子
土屋昌恒
内藤修理亮昌豊
馬場美濃守
名倉源太郎:高天神城を守る
油井嘉兵衛:高天神城を守る
落合左平次:鳥居強右衛門の最期の姿を旗印にする
和田兵部信業
お藤:小田原御前の侍女

<その他>
 
 
 
戦に勝ってなお用心深く、禁欲的とも言える振る舞いを見せる家康。 今や天下の覇者として振る舞い始めた信長とは好対照だが、そんな性格・・・人生観の違いが、この後の二人の運命を大きく隔てることになる。

#感想の部とあらすじの部との違いが曖昧になったので、今回はひとつにまとめてみました。
 
 
 
天下泰平まであと19巻。

| | Comments (2) | TrackBack (0)

June 26, 2005

「徳川家康」第6巻 燃える土の巻

「徳川家康」 第6巻 燃える土の巻
         (山岡荘八著 講談社文庫)

戦乱の犠牲となるのは武士だけに限らぬ。 人質として、罪人の縁者として散らねばならぬ人々・・・哀憐の一巻。

家康は長篠城を手に入れるための秘策として、山家三方衆の奥平美作を徳川方へと寝返らせることに成功する。 大名家の従属関係の常識として、奥平家から武田家に人質を差し出してあるのだが、武田方から徳川方へ寝返った場合、この人質らを見殺しにすることになる。 乱世とは言え、なんとも無残な話しである。 奥平家の繁栄と存続のため、笑って斬られにゆく末子の千丸。 納得のゆかぬまま死ぬおふう。

その奥平家に嫁ぐことになるのが、家康の長女亀姫である。 我が侭一杯に育てられて来ただけに、築山殿の二の舞を演じるのではないかと先々が心配ではある。 ともあれ、幾多の犠牲を払って長篠城は家康の手中に収まった。

信長の浅井攻めにより小谷城が落ち、お市の方と娘らが織田家に戻って来た。 生涯に三度落城を経験することになる茶々の、これが最初の落城である。
お市の方救出劇の立役者、羽柴秀吉の廻りには竹中半兵衛の他、加藤虎之助、福島市松、片桐助作、石田佐吉、蜂須賀小六など、後の豊臣家を支えるメンバーが揃い始めているのが楽しい。

家康も分別盛りと言う事なのか、戦に勝っても喜ぶどころではない。 城に戻るやいなや、今度は農作物の収穫の心配をしているのである。 それが終われば、次の戦いに向けての準備と、三河の領主は休む暇も無く働き続けるのだ。 大名にとっては、戦そのものよりも、戦の前に済ませておくべき仕事の方が余程大変なのではないか、などと思わせられる。

確かに、勝頼のように戦功を焦って無理な戦ばかり重ねていると、国力はあっと言う間に疲弊し果てて、人心もみるみる離れてゆく。 そうすると、武田のような名家と言えども、あっと言う間に落ちぶれてしまうのだ。 だから、単に戦に強いだけでは、やっていかれない。 ともあれ、家康ってあんまり明るい人とは見えない。 家康=インケンと言うイメージは、この無慈悲なまでの現実直視主義から来ているものなのかもしれない。

大賀弥四郎の謀反が漸く発覚した。 財務のスペシャリストとして重用した寵臣だけに、家康としても余程ショックであったろう。 弥四郎の極刑はもちろんとして、当時の習慣により、何も知らない家族もまた処罰を免れ得ないのである。 旧知の弥四郎の妻女に対して、罪過を告げねばならない大久保忠世の苦悩には同情を禁じえない。
 
 
 
羽柴秀吉  「半兵衛、この秀吉が、お市どのに惚れている
         などと思うなよ」
竹中半兵衛 「この期に及んでのお戯れ、恐れ入りました」
羽柴秀吉  「どうだな、久政をあっと言わせる手は」
竹中半兵衛 「あっと言わせるのは久政ではござります
         まい」
羽柴秀吉  「誰だ。長政の方か?」
竹中半兵衛 「いいえ、味方の御大将、信長公でなければ
         なりませぬ」
 
 
 
<<あらすじ>>
徳姫の侍女喜乃は、築山殿から産褥のお万の方殺害を命じられ、浜松城へと入ったが、お愛と本多作左衛門に謀を見破られ、お万の方も事無きを得る。 築山殿の嫉妬心を恐れる本多作左衛門は、お万の方を中村源左衛門宅に預けた。

信玄の死を確信した家康は、長篠城の総攻撃を準備する。 山家三方衆の一人で作手城主奥平美作守貞能を密かに内応させ、武田陣営を混乱させようと言う作戦である。 奥平美作は、徳川方に寝返る代償として、家康の長女亀姫を嫡子九八郎貞昌の嫁に所望した。
武田方から謀反の疑いを掛けられた奥平貞能は、武田信豊に決死の申し開きをして、その場を切り抜けると同時に、末子の千丸と九八郎貞昌の名目上の妻おふうを人質として差し出す。 寝返りの代償として彼らが処刑されるのは覚悟の上である。
こうして奥平貞能の協力を得た家康は、漸く長篠城を落とす事が出来た。

勘定方の大賀弥四郎は、家康が長篠城を攻めている隙に、城主不在の岡崎城に武田軍を引き入れようと、部下の山田八蔵を武節城に送り込むが、八蔵は勝家とのコンタクトに失敗してしまう。
大賀弥四郎の計略が上手く運ばないことに感づいた築山御前は気落ちするが、しかし、今度は長女の亀姫が、築山御前の気性を受け継いだような勝気さ、傲慢さを発揮し始めた。

長篠城攻めを終えて浜松へ引きあげた家康は、ほっとする暇も無く、今度は内政に立ち働いた。 それはまるで、安心し切って何ものかに足元を掬われることを畏れるかのようであった。
お万の方が男児を出産。 が、家康は築山御前に気兼ねして、我が子に会おうとはしなかった。 我が子に対して、率直に愛情を示せない家康に憤る徳川家の重臣達。

信長の浅井家攻略が始まった。 強大な信長軍に攻められれば、万に一つも勝ち目の無い小谷城だったが、信長からの再三に渡る降伏勧告に対して、信長を嫌いぬく浅井久政は断固として投降を拒み続けた。
お市の方は三人の姫ら共々、浅井久政、長政父子と運命を同じくする覚悟であったが、長女茶々姫だけは生への強い執着を見せた。
軍使による説得が効かぬと見て取った信長は、秀吉にお市の方と三人の姫の救出作戦を一任する。 秀吉にとってこれは出世のチャンスであると同時に、失敗の許されない賭けでもあった。 秀吉と軍師竹中半兵衛は、手勢を投入して城内を二方に分断させ、浅井父子の連絡を絶つ事で、見事にお市の方と三人の姫の保護に成功する。
かくして浅井氏は滅んだ。 秀吉は浅井攻めを成功させた功績により、小谷城十八万石の城主となった。 早速に領内を視察する秀吉は、没落していた京極家の房姫を見出す。 貴種好みの秀吉は、嬉々として室に迎えることにした。

武田勝頼は長篠城の落城に苛立っていた。 更に、信玄以来の旧臣達の信頼を勝ち得ないことから来る焦りから、奥平美作守から差し出された人質の千丸、おふう、虎之助を磔刑に処した。 幼くとも武人として死ぬ覚悟の千丸と虎之助。 一方おふうは、政略の道具とされたことへの、不当な思いを胸に留めたまま処刑される。 この後、武田軍は長篠から甲州へと兵を退いていった。

家康は、武田軍が再び襲ってくる事態を見越して、領内の米を早めに収穫させて城内へ蓄えるなど、糧食の確保の余念が無かった。 磔刑にあったおふうを憐れに思う家康は、おふうの妹の於阿紀を弟松平定勝(元の長福丸)の妻へと迎えた。
やがて、家康の読みの通り武田軍が浜松に向けて襲来した。 が、正面切っての対決に持ち込まず、随所で翻弄させて廻る家康。 三方ケ原の戦いの折、信玄に歯向かって手痛い目にあった家康だが、今度は家康が勝頼をあしらう番だった。 無念を抱いて甲斐に引きあげる武田勝頼。

お万の方の子、於義丸が誕生した。 それを知って素直に喜ぶ我が子信康を見る築山御前は寂しかった。 徳姫の侍女の小侍従は、築山殿と大賀弥四郎の陰謀に気付いて徳姫に告げた。 癇癪を起こした信康は、徳姫に怪我をさせ、更に小侍従を斬り捨ててしまう。 しかし小侍従は只の侍女ではなく、信長が徳姫のために特に寄越した者である。 自らの仕出かした所業に呆然とする信康。

甲州勢が高天神城攻めを開始した。 家康の元には高天神城からの再三に渡る救援要請があったが、家康は城将の小笠原与八郎を信頼していなかった。 家康からの要請を受けて、信長も救援に向かったが、これも戦略上の駆け引きで、本気で戦う気持ちは無かったのである。 遂に、高天神城はおちるに任せた。

築山殿を見限った大賀弥四郎は、徳姫に謀反を告げ口する。 無論、自分に付いては清廉潔白であると言い添えての上である。 山田八蔵は、そんな大賀弥四郎の無慈悲さを見て怖れをなし、次は自分が捨てられると思い込んで、同僚の近藤壱岐に全てを打ち明けた。
主君の寵臣を謀反人として訴えることは、並大抵の覚悟で出来る事ではなかった。 近藤壱岐は決死の思いで家康に直訴する。
こうして大賀弥四郎は遂に捉えられ、城下で処刑されたのである。
 
 
 
<<登場人部>>
<徳川家>
徳川家康:徳川家当主
徳川信康:徳川家嫡子
瀬名:築山殿 家康の正室 今川義元の姪
徳姫:信康の妻 信長の長女
亀姫:家康の長女
於義丸:家康とお万の長男
お愛:家康の傍に仕える
お万:家康の側室
あやめ:信康の側室
<徳川家家臣>
伊井万千代直政
久世三四郎広宣:高天神城を守る
近藤壱岐
今村彦兵衛:町奉行配下
坂部又十郎:高天神城を守る
榊原小平太康政
小笠原与八郎長忠:高天神城の守将
松平外記
石川家成
石川数正
大岡助右衛門:町奉行
大河内源三郎政局
大賀弥四郎:勘定方 築山殿と不義を働く 甲斐と内通
山田八蔵重秀:大賀弥四郎の手下
小谷甚左衛門:大賀弥四郎の手下
倉地平左衛門:大賀弥四郎の手下
大久保忠世:忠俊の孫
大久保平助:忠世の末弟 彦左衛門
中山是非之助:高天神城を守る
中村源左衛門:産褥のお万を預かる
渡辺金太夫:高天神城を守る
平岩親吉
本間八郎三郎:高天神城を守る
本多作左衛門
野中五郎重政:信康付きの家来
おつね:山田八蔵重秀の妻
於阿紀:夏目治貞の娘 おふうの妹
お粂:大賀弥四郎の妻
お琴:侍女
喜乃:侍女 お琴の妹
小侍従:徳姫の侍女

<奥平家>
奥平美作守貞能:奥平家当主 山家三方衆の一人 作手城主
奥平九八郎貞昌:奥平家嫡子
千丸:貞能の末子 武田方の人質
おふう:貞昌の名目上の妻 夏目治貞の娘 武田方の人質
<奥平家家臣>
奥平虎之助:武田方の人質
奥平六兵衛
夏目五郎左衛門治貞
黒屋甚九郎重吉:千丸の守役
同苗六兵衛

<織田家>
織田信長:織田家当主
濃御前:信長の正室
<織田家家臣>
森蘭丸:信長の小姓
羽柴秀吉
竹中半兵衛:秀吉の軍師
加藤虎之助:秀吉の荒小姓
石田佐吉:秀吉の荒小姓
福島市松:秀吉の荒小姓
片桐助作:秀吉の荒小姓
蜂須賀小六:秀吉の腹心
木下家定:寧々の兄
お八重:秀吉の妻 寧々
佐久間信盛
柴田勝家
前田又左衛門利家
丹羽長秀
不破河内守:小谷城への軍使を務める
明智光秀

<浅井家>
浅井長政:浅井家当主
浅井久政:隠居 長政の父
お市の方:長政の室 信長の妹
茶々姫:長政とお市の長女
高姫:長政とお市の次女
達姫:長政とお市の三女
<浅井家家臣>
浅井七郎
浅井石見守親政
浅井福寿庵
井口越前守政義
三田村左衛門佐
小野木土佐
森本鶴若太夫:幸若舞の太夫
赤尾美作守清綱
千田釆女正
藤掛三河
木村小四郎
木村太郎次郎
雄山和尚

<朝倉家>
朝倉義景

<武田家>
武田勝頼:武田家当主
武田逍遥軒:信玄の弟
武田左馬之助信豊
<武田家家臣>
一条右衛門
甘利左衛門尉昌忠
穴山梅雪
山形三郎兵衛昌景:甲斐の名将
初鹿野伝右衛門
小池五郎衛門:信豊の家老
跡部大炊助
土屋右衛門尉昌次
馬場晴信
片山勘六郎

<上杉家>
<上杉家家臣>
山形秀仙:織田家に使いする

<その他>
房姫:京極家の姫
京極若童子丸:京極家当主
助右衛門:日近村の農夫
随風:諸国行脚の僧
 
 
 
遂に大賀弥四郎が捉えられた。 家康もこの事件に付いては反省するのだが、しかし、もともとの原因はといえば、家康の築山殿に対する態度であろう。 それは駿府に人質になっていた時代に端を発している、どうしようもなく根深いものである。 その意味で、家中の病根は、未だすっかり取り除かれた訳ではないのである。
 
 
天下泰平まであと20巻。

| | Comments (4) | TrackBack (0)

June 11, 2005

「徳川家康」第5巻 うず潮の巻

「徳川家康」 第5巻 うず潮の巻 (山岡荘八著 講談社文庫)

姉川、三方ケ原と合戦に明け暮れる家康に、家庭を放ったらかしにして来たツケが・・・・・惑乱の一巻。

織田信長の朝倉攻めに付き合う家康。 家康としては、ここで、どうしても、自分の実力を信長にアピールしておかねばならないのだが、家中の一部、特に築山殿にはそれが理解されなかった。 伯父の今川義元を討った信長に尻尾を振っているとだけ見えて、その不満が築山殿をして遂に大賀弥四郎を相手の不倫に走らせてしまう。 
様々な廻りあわせの悪さから築山殿の悲劇が始まった。 しかしここで、決して築山殿一人を悪者にしてはいない作者の視点には共感を覚えるのである。

浅井家の寝返りによって退却を余儀なくされる織田軍だが、岐阜でその留守を守る濃姫は、主君不在の城内で巧みに采配を振るい、防御体制を整える。 戦となれば成す術を知らず右往左往するだけの側室たちと、戦略的思考の持ち主濃姫とを比較する作者の視線は結構シビアだと思う。

姉川の合戦では大活躍をした三河勢。 信長への、と言うよりも天下へのアピール度は充分であったろう。 まさに、三河武士ここにあり! なのである。

そして、武田信玄との三方ケ原の戦いこそは、信玄に黙って枕を跨がせるわけにはいかない、家康の意地を掛けた、一世一代の負け戦である。
家臣達の多くは最初反対したが、家康が一旦こうと決めた後は、従容として戦列に連なった。 壮絶に戦い、ものの見事な負けっぷりをする徳川軍。 襲い掛かる武田軍への恐怖に取り乱し気味の家康は、家臣達の犠牲により、辛うじて浜松城に生還することが出来た。 戦の済んだ後、死んでいった家臣達を想って独り涙する家康。

家康が合戦に明け暮れる間、岡崎城では築山殿の暴走をもう誰にも止めることは出来なかった。 大賀弥四郎との関係に加えて、今度は医師の減敬とも不倫に及ぶ。 その減敬は武田勝頼が岡崎に送り込んだスパイであり、養女あやめを信康の側室にしてしまうのだから、岡崎城はもはや俎上の鯉である。
信康も好い若者なのだが、育てられ方が決して理想的とは言えない。 どうにかならなかったのだろうかと、ここのところは家康を恨みたくもなる。 それにしても、激情に任せて小侍従に斬り付けてしまう信康の姿はあんまりである。

築山殿と大賀弥四郎の陰謀は面白いように進み、遂に武田勝頼の間に密約が交わされる。 家康が、強大な武田家を相手に脇目を振る暇もないのは判るが、その間、家中は大変な事になっているのだと教えてやりたい。 なんとも歯痒い想いが残った。
 
 
 
大久保忠隣 「お館・・・・・本田忠真どの討死なされてござりまする」
徳川家康   「なに、忠真も死んだと・・・・・して、しんがりには誰が
         居るぞ」
大久保忠隣 「内藤信成にござりまする。 殿! いまのうちに早く」
徳川家康   「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
         忠隣、正成、返り合せ! 信成を殺すな」
大久保忠隣 「お館!
         お館は何というバカ大将じゃ。忠真どのも信成どのも、
         お館をご無事に城へお返ししたいばかりとお分り
         なされませぬか」
 
 
 
<<あらすじ>>
木下藤吉郎は足軽頭藤井又右衛門の娘、お八重を娶った。 成り上がり者の藤吉郎を嫌う又右衛門に取り入るに当たって、得意の知略を駆使したことは言うまでもない。

上洛を果たした信長は朝倉攻めを開始する。 これには家康も援軍として加わっていた。 織田家と浅井家は、長政とお市の方の結婚で結ばれていたが、朝倉家への義を重んじる隠居久政に押し切られた形で、浅井長政は遂に朝倉家に味方する事を決める。
織田軍は朝倉軍を追って一乗ケ谷に攻め入ったが、浅井家の寝返りによって事態は一気に急転。 腹背に敵を受けて全滅の危機に陥ってしまう。
もはやこれまでと、敵軍と刺し違える覚悟を固める信長に、家康は、ここは一旦退却することを進言する。
浅井軍が来る前に総退却する織田勢。 危険なしんがりを引き受けたのは木下秀吉である。
濃姫は将軍足利義昭の不穏な動きから信長の危機を察知する。 急ぎ岐阜に帰って織田家の防備を固める濃姫。 急場にあたって成す術を知らない側室たちに比べ、濃姫はこの場を巧みに仕切ることが出来たのである。 この辺り、この当主にしてこの妻ありの呼吸である。
一方岡崎城では、命がけで退却する家康の苦労をよそに、夫の戦略を理解出来ず独り悶々とする築山殿が、勘定方の大賀弥四郎を相手に不義を働いていた。

一旦は退却した信長であるが、立ち直りは極めて早かった。 リターンマッチは姉川の合戦。 家康はその布陣に当たって、敵軍最精鋭の朝倉本隊との対戦を所望する。 家康としては、この戦いで自分の実力を信長にアピールしておかねばならなかったのである。 その三河勢の大健闘により戦は徳川織田連合軍の勝利に終わった。

甲斐の武田信玄が遂に上洛の動きを見せ始めた。 家康の領土は、その上洛のルート上に位置するのである。 浜松城に戻った家康は、休む暇も無く武田信玄との戦いに備えねばならなかった。
武田勝頼は家康との戦いに備えて、岡崎城に間諜として医師の減敬を送り込む。 徳川家を内側から切り崩そうと言う謀略である。 減敬は養女あやめを信康の側室として、信康と徳姫を離間させ、一方自身では築山殿に近付いていった。
家康は武田軍と戦うべきか悩み抜く。 元々、どうあっても戦って勝てる相手ではなかった。 武田軍に黙って領内を通過させれば、戦いは避ける事が出来るが、しかし、それでは信玄に向けて尻尾を振った事になる。 徳川家は何処にも帰属してはならない。それが家康の信念であった。
一部の家臣の反対を押し切って、開戦を決定する家康。 三方カ原の合戦が始まる。 当初は健闘した三河勢だが、一旦崩れ始めるとその後は脆かった。 軍勢はバラバラとなり、家康は家臣に守られて辛うじて城に生還した。 多くの犠牲を払って、天下の何者にも屈っせぬ意地を貫いて見せた徳川家康。
その頃、岡崎城では信康があやめを側室に迎えていた。 勝頼の陰謀が、岡崎城内に徐々に食い入る。 減敬と大賀弥四郎のそれぞれを相手に不義を働く築山殿。
浜松城下を通過して侵攻を続ける武田軍であったが、野田城攻めの途中、武田信玄が病に倒れ、退却を余儀なくされる。
いよいよ勝頼と築山殿との間で密約が成立する。 築山殿は岡崎城を武田軍に渡す代わりに、信康には岡崎の領土を安堵し、自分は武田方に保護して貰う条件である。 お万の方懐妊を知った築山殿は、侍女の喜乃にお万の方暗殺を命じる。
信康を慕うあやめは、自分が甲州から送り込まれたスパイであることを徳姫の侍女小侍従にバラしてしまう。
減敬は、不穏な動きに気付いた信康に斬られる。 その信康は武田方の城を攻めて初陣を果たす。 大賀弥四郎はその隙に勝頼軍を場内に迎え入れるべく、手下の山田八蔵を武田方へ派遣した。 大賀弥四郎の陰謀は成就目前。 弥四郎は得意の絶頂にあった。
 
 
<<登場人部>>
<徳川家>
徳川家康:徳川家当主
徳川信康:徳川家嫡子
瀬名:築山殿 元康の正室 今川義元の姪
徳姫:信康の妻 信長の長女
<徳川家家臣>
伊井万千代直政
夏目正吉:三方が原の合戦で家康の身代わりとなる
外山正重:三方が原の合戦で一番槍を付ける
久松弥九郎俊勝:於大の方の夫
減敬:医師 築山殿と不義を働く 実は甲州の間者
向坂五郎次郎:向坂兄弟の次男
向坂式部:向坂兄弟の長男
向坂六郎三郎:向坂兄弟の三男
高木九助
榊原小平太康政
山田八蔵重秀:大賀弥四郎の手下
柴田泰忠
酒井忠次:旗頭
小笠原長忠
小谷甚左衛門:大賀弥四郎の手下
松平家忠
松平康純
松平次郎右衛門重吉
松平与一郎忠正
植村正勝
成瀬小吉
成瀬正義
西郷左衛門佐清員:お愛の叔父
青木所右衛門
石川家成:旗頭
石川数正
倉地平左衛門:大賀弥四郎の手下
村松芳休:笛の名手
大賀弥四郎:勘定方 築山殿と不義を働く
大久保七郎右衛門忠世:忠俊の孫
大久保忠隣:忠世の子
大久保彦左衛門忠教:忠世の末弟
大久保彦忠佐:忠世の弟
鳥居元忠
鳥居三左衛門
鳥居四郎左衛門忠広:「殿! 忠広は臆病でござりましたか」
天野三郎兵衛康景
渡辺半蔵守綱
内藤信成
内藤正成
平岩親吉:信康付きの重臣
米沢政信
本多作左衛門
本多忠真
本多平八郎忠勝:旗本
野中五郎重政:信康付きの家来
鈴木久三郎
あやめ:信康の側室 実は減敬の送り込んだスパイ
お愛:西郷義勝の後家
お琴:侍女
お粂:大賀弥四郎の妻
お万:家康の側室
喜乃:侍女 お琴の妹
小侍従:徳姫の侍女

<織田家>
織田信長:織田家当主
織田信忠:織田家嫡子
濃姫:信長の正室 斎藤道三の娘
お類:信長の側室
奈々:信長の側室
深幸:信長の側室
<織田家家臣>
安藤範俊
稲葉一鉄
下方平内
蒲生鶴千代
佐久間右衛門
佐久間盛政
佐々成政
坂井右近
氏家直元
柴田勝家
松永弾正久秀
森三左衛門可成
菅谷九郎右衛門:岐阜城留守居
生駒八郎衛門:岐阜城留守居
前田又左衛門利家
滝川一益
丹羽長秀
池田信輝
竹中久作:半兵衛の弟
竹中半兵衛:秀吉の軍師
猪子兵助:伊賀者奉行
藤井又右衛門:足軽頭 秀吉の舅
福富平左衛門:岐阜城留守居
平手汎秀:三方が原の合戦で戦死
明智光秀
木下藤吉郎秀吉
矢部善七郎:岐阜城留守居
お八重:秀吉の妻 藤井又右衛門の娘 寧々

<浅井家>
浅井長政:浅井家当主
浅井久政:隠居 長政の父
お市の方:長政の室 信長の妹
茶々姫:長政とお市の長女
高姫:長政とお市の次女
<浅井家家臣>
小野木土佐:織田軍に使いする
礒野員昌:姉川の合戦で先陣に立つ
遠藤喜右衛門:重臣

<朝倉家>
朝倉景隆
<朝倉家家臣>
山崎長門:浅井親子を説得する
真柄十郎左衛門直隆:五尺二寸の大太刀「千代鶴の太郎」を使う
真柄十郎三郎直基:直隆の子 「千代鶴の次郎」を使う

<武田家>
武田信玄:武田家当主
武田勝頼:武田家嫡子
武田信豊
<武田家家臣>
穴山梅雪
山形三郎兵衛昌景:甲斐の名将
室賀信俊
秋山信友
秋山晴信
小山田信茂
小幡信貞
上原能登守
天野景貫
同苗満信
内藤昌豊
馬場晴信

<足利家>
足利義昭:征夷大将軍
<足利家家臣>
細川藤高

<その他>
朽木元網:敗走中の信長一行を泊める
藤野勝楽:本願寺から武田家に派遣された使者
 
 
 
前半は姉川の合戦、三方ケ原の合戦と戦が続くけれど、山岡作品の合戦シーンはそれ程華やかなものでもなく、むしろ、あっさりと描かれる。
一方、後半の大部分を占める築山殿の謀反は、読んでいて、正直辛いものがある。 銃後(?)を守る女性達に対して、いささか厳しいとも感じさせられる作者の視線は、戦中を生き抜いた世代ならではだろうか。
 
 
天下泰平まであと21巻。

| | Comments (2) | TrackBack (0)

May 29, 2005

「徳川家康」第4巻 葦かびの巻

「徳川家康」 第4巻 葦かびの巻 (山岡荘八著 講談社文庫)

晴れて一国一城の主となった元康だが苦難は尽きない。 内憂外患の一巻。

元康は、忙中自ずから閑ありとばかり、桶狭間の戦いの合間に於大の方と実に16年ぶりの母子対面を果たす。 第一巻からずっと、元康と於大の方親子の成長振りを見守り続けて来た読者としては感無量のシーンであり、その淡々とした描写には素直に泣ける。

長年に渡って岡崎城を占拠していた今川勢だが、まさかの義元敗北に動揺して全軍が駿府に引きあげてしまった。 棚から牡丹餅的に岡崎城を取り戻した岡崎党。 城内の大広間に集い、祝膳を前にして今川軍に城を奪われていた十余年間の苦労を振り返って男泣きする老臣達は、第一巻からひたすらに忠節振りを見せて来た面々だけに、これまた泣かせられるものがある。

晴れて一国一城の主となった元康は、長年苦しめられた今川家とは袂を分かち、以後、織田家と手を携えてゆく。 清洲を訪問して、幼馴染の信長と11年ぶりの再会を果たす元康。 今は互いに一国を背負う身だが、暫しの間少年の頃に帰って語り合う二人。 とにかく、今回は矢鱈と感動シーンが多いのである。

駿府に残して来た瀬名親子は、石川数正の外交手腕で見事に奪回する事が出来た。 しかしこの数正、凄腕であると同時に多情多感で感激屋の面がある。
駿府に於いては今川義元の姪としての立場を誇った築山殿(瀬名)であったが、それは、反今川の姿勢を取り始めた松平家中では何の意味も持たなかった。 かつてのような我侭の通らない事に苛立ちまくる築山殿は、このまま悲劇の坂を転げ落ちてゆくしかないのか。

築山殿との仲が上手くいかくなった家康は、その反動で可禰、お万と側室を増やしてゆく。 当然、築山殿とはどんどん疎遠になってゆく訳で、この辺り、家康と言う人は実に不器用に出来ているのである。
お万は嫉妬する築山殿に打擲される。 見かねた無骨一辺な忠臣本多作左衛門から諫言を受ける家康。 家康としては、こんな野暮なオヤジから色恋の口出しまでされたかぁない・・・とでも言いたい処であったろう。 一体、家康は家臣達から諫言(時には決死の)を貰う事が少なくない。 家臣には極めて恵まれた人と想う。

三河で一向一揆が勃発した。 信長ならば問答無用で殲滅させてしまうところを、家康は辛抱強く対応し、投降する者は無条件に許すと言う寛大な姿勢で臨んだ。 これは於大の方の教えである。
 
 
 
本多作左衛門 「殿! 殿はわしに言葉のすぎたを謝れ
           と仰せられてか」
松平家康    「あやまれと誰が申した。思うところを
           述べよと言うのだ」
本多作左衛門 「なるほど。それでは述べずばなるまい。
           殿は女子に惚れなさるか」
松平家康    「それは・・・・・わからぬ!」
本多作左衛門 「わかっている。色恋にうつつのぬかせる
           殿ではない。
           いや、あるいはそうであったとしても、
           そのような時代でないことを殿はよく
           知りすぎている・・・・・」
松平家康    「また予をそちの算盤で割切ったな」
本多作左衛門 「割切らねば答が出ぬ。したがって殿の
           色恋は遊びなのだ。
           これで城を傾け、家臣の心を失うては
           ならぬと、ちゃんと計算した上の遊び
           なのだ。その遊びで生命がけの女子
           の恋に立向かう。
           ここが大切なところだ殿!
           自分の方では遊びながら、生命がけ
           の白刃に立向かって勝てると思うか、
           殿」
 
  
<<あらすじ>>
田楽狭間での義元討ち死にを未だ知らない元康は、軍務の合間に阿古居の久松家を訪ね、於大の方との16年ぶりの親子対面を果たす。
義元の死は今川軍を動揺させ、岡崎城を守っていた今川勢まで駿府に引き返してしまった。 今や無人となった岡崎城に堂々入城する松平党。 元康は大樹寺の登誉上人の教えを受け、「厭離穢土、欣求浄土」を唱える。
信長は一国一城の主となった元康の器量を試すため、滝川一益に元康の身辺を探らせる。その滝川一益の送り込んだ腰元の可禰をスパイと見破った元康は、可禰をそのまま側室にしてしまう。
清洲の信長を訪問した元康は信長と11年ぶりの再会を果たす。 元康と信長の同盟の始まりである。
駿府では今川家の当主となった氏真がリーダーシップを発揮出来ずにいた。 元康は石川数正を駿府に派遣し、瀬名親子を奪還することに成功する。
今や今川家と袂を分かった元康は家康と改名をする。 一方、実家とも言うべき今川家の衰退振りに焦り始める瀬名は、次第に家康との関係を悪化させ始める。 家康が信じられない瀬名は、気に入りの侍女お万をスパイに使うが、逆に家康に奪われてしまう。
諸国行脚中の怪僧随風が、明智十兵衛光秀と言う浪人を連れて竹之内波太郎の宅を訪れた。 光秀は波太郎に織田家に推挙してもらう。
この頃、三河では一向一揆が勃発した。その鎮定に奔走する家康。 家康の家臣団の中からも一揆に参加するものがおり、これまでにない、信仰を相手の戦いに苦戦を強いられた。 壕を煮やして、殲滅戦に出ようとする家康を嗜める於大の方。
家康と瀬名の不仲はいよいよ本格的となり奥が乱れ始めた。 その反動で、可禰、お万と、気まぐれに側室を増やして一向に落ち付かない家康を嗜める本多作左衛門。
家康の嫡子竹千代と信長の長女徳姫の結婚。 これにより、東進する松平家と西進する織田家の同盟はより強固なものになった。
家康は徳川の姓を名乗る。 東進を続ける家康軍は、吉良御前の守る曳馬野の城を攻める。 吉良御前とは、今は飯尾豊前の後家となっているかつての亀姫である。 甥の伊井万千代を家康に託した吉良御前は、若き日の家康への想いを胸に秘めて曳馬野城の炎上と運命を共にした。 初恋の人、吉良御前を偲ぶ家康に、本多作左衛門は側室としてお愛を推挙する。

<<登場人部>>
<松平家(岡崎城)>
松平蔵人佐元康:松平家当主 松平元康>松平家康>徳川家康と改名
信康:幼名竹千代 松平家嫡子 元康と瀬名の長男
瀬名:築山殿 元康の正室 今川義元の姪
徳姫:信康の妻 信長の長女
亀姫:元康と瀬名の長女
花慶院:田原御前 元康の継母
<松平家家臣>
阿部善九郎正勝
阿部大蔵:老臣
伊井万千代:側小姓
奥平美作
金阿弥;同朋頭
慶琢:祐筆頭
戸田彈正
榊原小平太康政
三宅藤左衛門
柴田七九朗
酒井雅楽助正親:主家想いの賢臣
酒井左衛門尉忠次:元康の叔母の夫
酒井将監忠尚:一向一揆に加わる
酒井与四郎
松平伊忠
松平家忠
松平景忠
松平康忠
松平康定
松平信一
松平甚太郎
松平清宗
松平弥右衛門
松平与一郎忠正
上村出羽
植村新六郎秀安:本多平八郎忠勝の祖父
菅沼伊豆守
菅沼刑部
菅沼新八郎
西郷清員
青木四郎兵衛
石川安芸
石川清兼
石川日向守家成
石川彦五郎家成:安芸の息子
石川与七郎数正
設楽越中
大久保七郎右衛門
大久保新八郎忠俊:豪放磊落な好漢
大久保忠佐
中根平左衛門
長坂彦五郎:血槍九郎と呼ばれる槍の達人
鳥居伊賀守忠吉
鳥居彦右衛門元忠:鳥居忠吉の三男
天野三郎兵衛康景
天野又兵衛:台所人頭
渡辺半蔵:足軽差引物見役 一向一揆に加わる
内藤弥次右衛門
内藤弥七朗:小姓
服部半蔵:足軽差引物見役
平岩七之助親吉
平岩新左衛門
蜂屋半之丞:槍の名人 一向一揆に加わる
牧野康成
牧野惣次郎康成:家康に投降する
本多広孝
本多作左衛門重次
本多半右衛門:お万を預かる
本多彦八郎
本多百助
本多平八郎忠勝
鈴木紀伊
鈴木久三郎
鈴木兵庫
碓氷の方:酒井左衛門尉忠次の妻 駿府で瀬名親子に仕える
可禰:花慶院の侍女 実は滝川一益のスパイ 家康の側室
お万:瀬名の侍女 家康の側室
お愛:西郷義勝の後家
登誉:岡崎城外、大樹寺の住持
祖洞:岡崎城外、大樹寺の豪僧

<久松家(阿古居)>
久松弥九郎俊勝:久松家当主 誠実な好男子
於大の方:俊勝の正室 元康の母
三郎太郎:久松家嫡男
源三郎:次男
長福丸:三男
<久松家家臣>
竹之内久六:実は出奔した水野信近

<熊の若宮>
竹之内波太郎:熊の若宮当主

<織田家>
織田信長:織田家当主
徳姫:長女 竹千代に嫁ぐ
濃姫:信長の正室 斎藤道三の娘
<織田家家臣>
織田信盛
木下藤吉郎
滝川一益
長谷川橋介:隻腕の小姓
太田又介:弓の名手
楓:濃姫の腰元 実は斎藤義龍の間者

<今川家>
今川氏真:今川家当主
<今川家家臣>
関口刑部少輔親永:瀬名の父
吉良義安
鵜殿藤太郎長照:西郡城で元康に討たれる
鵜殿長忠:西郡城で元康に討たれる
万千代:伊井直親の嫡男
三浦義鎮:氏真の色小姓
岡部元信
田中次郎右衛門:義元の敗退後、岡崎城から退却する
飯尾豊前
吉良御前:飯尾豊前の妻 椿 亀姫 竹千代と束の間恋仲に

<水野家>
<水野家家臣>
浅井六之助道忠

<その他>
随風:諸国行脚中の僧侶
明智十兵衛光秀:浪人


登場人物が、また一段と増えたけれど、これは、駿河への侵攻を目論む家康が家中の再編成を行うに際して、主要な武将の名をずらりとあげてみせたためである。 徳川軍、なかなか壮観ではないか。
かつての竹千代の側小姓達が、今では立派な武将に成長して徳川軍を支えている。


天下泰平まであと22巻。

| | Comments (6) | TrackBack (0)

May 16, 2005

「徳川家康」第3巻 朝露の巻

「徳川家康」 第3巻 朝露の巻 (山岡荘八著 講談社文庫)

竹千代改め元康の、家臣と共に生きる覚悟を描く一巻。

駿河の今川家に預けられた竹千代。 岡崎の家臣たちの窮状を気に掛けつつ、人質の身として8歳から16歳までを過ごすのである。 何かと不自由な身ではあったけれど教育の面では恵まれて、学問は大原雪斎、武道は奥山伝心の教えを受ける。 但し、信長がうつけを通していた同じ年頃を、竹千代は終始目立たぬ用心をしていなければならなかった。 この、敵地で過ごした長い歳月が、後のタヌキ親父を生む萌芽となったかもしれない。

岡崎では今川の軍勢が我が物顔の振る舞い、時には乱暴狼藉にまで及ぶ中で、松平家の家臣、岡崎の領民達は貧窮に喘いでいた。 故国の窮状を聞かされ、当主としての責任を自覚し始める竹千代。
亀姫と束の間の恋を味わい、そして義元の肝煎により鶴姫と結婚。 元康の結婚生活は、しかし穏やかではなかった。 何しろ、妻は義元の姪と言うのに自分は今川家の人質に過ぎず、しかも、その妻は出自を笠に来て威張るタイプ(ヤな女)と来ている。 居心地の悪さは並大抵ではないだろう。

やがて、元康に決断の時が迫る。 来るべき義元の上洛戦では、義元本隊の露払いをさせられる運命の松平勢であるが、その際、信長軍と正面切ってぶつかれば全滅は免れ得なかった。 松平家の窮状を救うには、今川家の支配下を強引に去るしかないのだが、その時、妻子を岡崎に連れ帰る手立てがないのである。 万が一の場合は妻子を見殺しにせねばならないとしても、自分一人を信じて十数年間辛抱して来た家臣達が大事と言い切る元康。 元康は、大原雪斎の教えを通して、家臣との信頼関係を何よりも重く見るようになっていたのだ。 それにしても、なんとも厳しい話しである。 そんな内心を義元に悟られぬように警戒しつつ、傍目には泰然自若と構える元康。 早くもタヌキぶりを発揮である。

織田家では、信長のうつけぶりに手を焼く忠臣平手政秀が、新しい時代の到来を確信しつつ諌死を遂げる。 いよいよ木下藤吉郎も登場する。 それにしても、山岡作品の藤吉郎はのっけからスーパーマンぶりを存分に発揮し過ぎて、なんだか他の登場人物達から浮いている気もするけれど・・・
桶狭間の戦いが始まった。 信長は元康を、早くも将来の重要なパートナーと考えていて、その軍勢とは直接ぶつからぬように配慮する。 そして田楽狭間での、織田軍まさかの大勝利。 この一戦により、元康たちの運命が大転換を遂げるのだ。


松平元康   「爺・・・・・
          わしの決心はもう決まって居るのだ。
          打明けよう。他言するな」
酒井雅楽助  「ご本心・・・・・と仰せられるは」
松平元康   「わしはな、妻子には縛られぬ。その域
          からは脱し得た・・・・・
          わしを縛るものは唯一つ、岡崎に残った
          家臣たちの、今日までの忍耐じゃ。
          わかるかわしの言うことが。」
酒井雅楽助  「はい、よっくわかりまする」
松平元康   「わしはな、駿府の城下を離れた刹那から、
          そちらたちだけのものになろう。
          妻も想わぬ、子も捨てる・・・・・」
酒井雅楽助  「殿!」


<<あらすじ>>
信長のうつけぶりに手を焼く平手政秀は、信長が既に自分の理解の届かぬところまで成長を遂げた事を確信して諌死を遂げる。

駿府で人質の身となっている竹千代は武道では奥山伝心にシゴカレ、学問では大原雪斎の教え受ける充実した毎日を送っていた。 ある日、本多忠高の後家が幼子(鍋之助)の手を引いて岡崎から訪ねて来た。 貧しい身なりの後家から岡崎の家臣、領民達の窮状を聴かされる竹千代。

竹千代は元服して松平元信を名乗る。 元信は亀姫に惹かれつつも、今川家の嫡子氏真に弄ばれていたのを承知で鶴姫と結婚する。 やがて、岡崎への墓参を果たすが、歓喜する家臣、領民達に対して何もしてやる事の出来ない元信の心は切なかった。 彼らの為に、いつか妻子を捨てねばならないと覚悟を決める元信。 駿府に戻った元信は元康と改名する。 嫡男、竹千代の誕生。 元康の初仕事となった大高城への兵糧輸送任務は、頭脳プレーで織田方の裏をかき大成功を納めた。

織田家では、木下藤吉郎が早くも頭角を現し始める。 今川家との決戦が近付く中、前田利家は愛智十阿弥を斬って出奔する。 いよいよ義元の上洛が始まった。 木下藤吉郎は信長から、義元軍の行軍ルートを探索する任務を授かる。 そして田楽狭間での、まさかの義元軍敗退。 この大勝利によって、織田信長は一気に全国区へと踊り出た。


<<登場人部>>
<松平家(岡崎城)>
竹千代:松平家当主 元服して次郎三郎元信 改名して蔵人元康
松平広忠:故人 松平家先代当主 最も戦国大名に向かない男
松平清康:故人 松平家先々代当主
瀬名:信元の正室 今川義元の姪
竹千代:松平家嫡子 元康と瀬名の長男
亀:信元と瀬名の長女
華陽院:源応尼 故清康の妻、広忠の義母、故水野忠政の元妻、於大の方の母(複雑!)

<松平家家臣>
酒井雅楽助正家:主家想いの賢臣
酒井左衛門尉忠次:元康の叔母の夫
鳥居忠吉:家臣中の最長老
鳥居元忠:鳥居忠吉の三男 駿府で竹千代の傍に仕える
植村新六郎
大久保新八郎:豪放磊落な好漢
本多平八郎忠豊:故人 広忠の安祥城攻めの折、広忠の身代わりとなって戦死
本多平八郎忠高:故人 忠豊の子 今川の安祥城攻めの折、戦死
本多鍋之助:忠高の子 元服して平八郎忠勝(ただ勝つから、忠勝)
本多の後家:今川の安祥城攻めで戦死した本多平八郎忠高の後家
平岩七之助:駿府で竹千代の傍に仕える 後の平岩親吉
阿部大蔵:老臣
安倍甚五郎
榊原孫十郎長政
石川安芸
石川彦五郎家成:安芸の息子
石川与七郎:後の石川数正
長坂彦五郎:血槍九郎と呼ばれる槍の達人
平岩金八郎
天野甚右衛門
内藤与三兵衛
野々山藤兵衛
内藤小平次
天空:岡崎城下、大樹寺の和尚

<久松家(阿古居)>
久松弥九郎俊勝:久松家当主 誠実な好男子
於大の方:俊勝の正室 元康の母
三郎太郎:久松家嫡男
源三郎:次男
長福丸:三男
<久松家家臣>
竹之内久六:出奔した水野信近

<熊の若宮>
竹之内波太郎:熊の若宮当主

<織田家>
織田信長:織田家当主
奇妙丸:織田家嫡男
茶筌丸:次男
三七丸:三男 茶筌丸とは同日の生まれ
濃姫:信長の正室 斎藤道三の娘
類:生駒出羽の娘 信長の側室
奈々:吉田内記の娘 信長の側室
深雪:信長の側室
岩室:故信秀の側室

<織田家家臣>
平手政秀:平手の爺 信長のうつけぶりを嘆いて諫死する
平手監物:政秀の長男
平手五郎右衛門:政秀の二男
平手弘秀:政秀の三男
柴田権六朗勝家
林佐渡守通勝
前田犬千代:元服して又左衛門利家 愛智十阿弥を斬って出奔
簗田政綱:桶狭間の戦いで今川方の位置を伝える
愛智十阿弥:小姓 美貌で毒舌家 利家に斬られる
生駒出羽
佐久間大学盛重:丸根の砦を守って元康に破れる
織田玄蕃信平:鷲津の砦を守って朝比奈泰能に破れる
藤井又右衛門:足軽組頭
木下藤吉郎:厩の掃除番、沓取り、山林方、台所奉行を歴任
服部小平太:桶狭間の戦いで義元に一番槍を付ける
毛利新助:信長の傍に仕える 桶狭間の戦いで義元を討ち取る
八重:藤井又右衛門の娘
阿松:前田利家の許婚者
お勝:岩室殿の元召使 斎藤道三の側女
大雲:織田家縁、万松寺の和尚

<今川家>
今川義元:今川家当主
今川氏真:今川家嫡子
<今川家家臣>
大原雪斎:今川家の柱石 竹千代の師
関口刑部少輔親永:竹千代を預かる
吉良義安
朝比奈泰能
鵜殿長照
三浦備後守
浅井政敏
岡部元信
葛山信貞
堀越義久
瀬名:親永の娘 義元の姪 鶴姫(勝気) 竹千代と結婚
椿:義安の娘 亀姫(おっとり)竹千代と束の間恋仲に
智源:駿府城下、智源院の住持 竹千代の師
奥山伝心:浪人 駿府城下に寄宿し、鬼コーチとして竹千代を鍛える

<その他>
随風:諸国行脚中の僧侶


松平元康、既に二児のパパである。 長い長い物語りなのだからして、竹千代の少年時代をじっくりと描くのかと思っていたのだけれど、なんだか、あっという間にここ迄来てしまったの感がある。 恋に浮かれず、妻子に流されず、何より家臣を大事にする。 それが元康と言う人である。


天下泰平まであと23巻。

| | Comments (4) | TrackBack (0)

May 05, 2005

「徳川家康」第2巻 獅子の座の巻

「徳川家康」 第2巻 獅子の座の巻 (山岡荘八著 講談社文庫)

「徳川家康」第二巻は竹千代の幼年期~少年期を描く。 竹千代流浪の半生の始まりであり、松平党我慢の一巻でもある。

松平広忠@最も戦国大名に向かない男。 戦には負けるわ、家庭内も上手く行かないわで、相変わらず散々の星まわりである。 周囲に向けても不幸を振り撒き続けて、もう目も当てられない状況が続く。 乱行の末、遂には家臣に殺害されてしまう広忠だが、戦国大名として生きねばならない苦悩から開放された、その最期は意外に安らかなものであった。

一方、幼い竹千代は早くも物事に決して動じない大物ぶりを見せ付けてくれる。 織田家への捕らわれの身で信長との出会いを果たし、今川家の人質となってからは、その存在感で周囲の人々を惹き付け始めた。 その竹千代の性格は、とにかく大物らしいと言うだけで、今ひとつハッキリとしないのである。まぁ、未だ幼児なのだから仕方ないのだけれど。

織田家に捕らわれた竹千代の助命嘆願に奔走する於大の方、そして、今川家の人質となった竹千代の身を案じて駿府入りする華陽院。 作者はこの二人に理想的な女性像を託しているような気がする。 今川家の柱石、大原雪斎と竹千代の祖母華陽院との邂逅。 この二人は、戦国の世を各々異なる角度から見詰めながら、お互い平和を願っていたのことを知る。 やがて、幼い竹千代の教育は当代きっての教養人でもある大原雪斎に託されることになる。

主君広忠を失った松平家に早速介入して来る今川家は、保護と言う美名の下、事実上岡崎城を占領してしまう。 この辺り、大国のエゴに振り回される小国の悲しさが容赦なく描かれるのである。 竹千代を取り返し、主君に頂く日だけを夢見て逆境に耐え抜く松平党の人々。 物語はいよいよ、竹千代を中心に廻り始めた。


織田信長  「人生すべてこれ座興かもしれぬ。
         ところでお許はこんどわしに何を土産に持って参った?」
於大の方  「はい。 母のこころ・・・・・・それ一つでござりまする」
織田信長  「よし、くれい」
於大の方  「差上げまする。 お受け取りを・・・・・・ (涙)」
        「差上げまする。 (涙) 母のこころ・・・・・・母のこころ・・・・・・ (号泣)」
織田信長  「もろうた。もろうた。 (大笑)
         お許の土産をたしかにもろうた。 もうよい (大笑)」


<<あらすじ>>
久松家に嫁いだ於大の方の元に、ある日、竹之内久六と名乗る男が仕官を請うて来た。 会ってみると、水野家を出奔して小川伊織を名乗っていた兄の信近である。 何やら思うところあるらしく、身分を偽ったまま久松家に使えることになる。
戸田家から田原御前(真喜姫)を娶った松平広忠だが、新妻にどうしても馴染む事が出来なかった。 広忠は於大の方を失った傷心の癒えないまま、家臣の反対を振り切って安祥城攻めを敢行。 織田信秀の率いる織田軍の反撃に会い絶体絶命となったところを、本多平八郎忠豊の犠牲によって辛うじて生還する。
一方、於大の方も広忠と竹千代のことが忘れられず、夫久松俊勝の誠実さに応えられない罪悪感に苛まれる日々を送る。
竹千代は今川家への人質としてへ駿府へと送られる途上を織田方にさらわれる。 同行の金田与三左衛門は三河武士の意地を見せて自害した。
一旦は主君から遠ざけられた片目八弥。 お春の犠牲によりカムバックを果たすが、主の心を理解出来ぬまま、遂に広忠を殺害してしまう。
織田方に捕らえられた竹千代の助命嘆願のため、信長に謁見する於大の方。 その信長は城下にうつけぶりを轟かす一方で、捕らわれの竹千代とは不思議と気が合うのであった。 信長、斎藤道三の娘濃姫と結婚。
今川家に岡崎城を取り上げられ、野に放り出された松平党の面々は、安祥城攻めの最前線に投入されて苦戦を強いられる。 激戦の末、遂に安祥城を落として城主織田信広を捉える中、先頭に立って戦った本多平八郎忠高は壮絶な戦死を遂げる。
松平竹千代と織田信広の人質交換を済ませると、竹千代、今度は今川方の人質となった。(やれやれ) 
華陽院、竹千代を案じて駿府入りする。 駿府では関口刑部少輔親永に預けられる竹千代。 親永の娘鶴姫と出会い、元日の賀では義元に気に入られる。 一方、尾張では信長の廃嫡運動が進む中、信秀が急死。 信長はその葬儀の場でも乱行に及ぶのである。


<<登場人部>>
<松平家(岡崎城)>
松平広忠:松平家当主 先代からの今川家寄り 最も戦国大名に向かない男
松平清康:故人 松平家先代当主 広忠の父
竹千代:松平家嫡子
華陽院:故清康の妻、広忠の義母、故水野忠政の元妻、於大の方の母(複雑!)
田原御前:真喜姫 広忠の後妻 広忠とは不仲
楓:田原御前の侍女(性格悪し)
お春:広忠の側室 岩松八弥の元許婚者
随念院:広忠の伯母
<松平家家臣>
酒井雅楽助正家:主家想いの賢臣
本多平八郎忠豊:広忠の安祥城攻めの折、広忠の身代わりとなって戦死
本多平八郎忠高:忠豊の子 今川の安祥城攻めの折、戦死
鳥居忠吉:家臣中の最長老
阿部大蔵:老臣
阿部四郎兵衛
阿部四郎五郎
阿部新四郎重吉
植村新六郎
大久保新十郎
大久保新八郎:豪放磊落な好漢
大久保甚四郎
石川安芸
松平外記
岩松八弥:小豆坂の合戦で片目を失い、以来片目八弥と呼ばれる一途な忠臣 お春の元許婚者
阿部徳千代:竹千代の側小姓 竹千代と共にさらわれる 後の善九郎
天野三之助:竹千代の側小姓 竹千代と共にさらわれる
天野又五郎:竹千代の側小姓 三之助の兄
石川与七郎:竹千代の側小姓
平岩七之助:竹千代の側小姓
松平与一郎:竹千代の側小姓
内藤与三兵衛:竹千代の側小姓
野々山藤兵衛:竹千代の側小姓
金田与三左衛門:竹千代を駿府に送る途中、織田方に奪われて自害する。

<久松家(阿古居)>
久松弥九郎俊勝:久松家当主 誠実な好男子
於大の方:俊勝の正室 松平家離縁後に俊勝と再婚
<久松家家臣>
竹之内久六:久松家に仕官して来た男 その正体は出奔した水野信近

<熊の若宮>
竹之内波太郎:熊の若宮当主 美青年 謎の多い人物

<織田家>
織田信秀:織田家当主
織田信長:信秀の嫡子
織田信行:信秀の子(嫡腹の次男)
織田信広:信秀の子(妾腹の長男) 安祥城城主だが今川方の捕虜となる
土田御前;信秀の正室
濃姫:信長の正室 斎藤道三の娘
岩室:信秀の側室
<織田家家臣>
平手政秀:いわゆる、平手の爺
前田犬千代:信長の側小姓
柴田権六朗勝家:信行派
林佐渡守通勝
加藤図書助:竹千代を預かる

<今川家>
今川義元:今川家当主
<今川家家臣>
大原雪斎:今川家の柱石 竹千代の師
関口刑部少輔親永:竹千代を預かる
吉良義安
瀬名:親永の娘 鶴姫(勝気)
椿:義安の娘 亀姫(おっとり)

<戸田家>
戸田弾正左衛門康光:戸田家当主
戸田宣光:戸田家嫡子
戸田五朗政直:康光の次男


大国の政策に振り回される小国の辛さが、第一巻から引き続いて、これでもかと描かれている。
この第二巻で特に印象的なのは、逆境を耐え抜く松平党の人々の辛抱強さと、幼い竹千代の見せる大物ぶりである。 山岡荘八の描く三河武士像と言うものに注目してみたい。


天下泰平まであと24巻。

| | Comments (3) | TrackBack (0)

April 29, 2005

「徳川家康」第1巻 出生乱離の巻

「徳川家康」 第1巻 出生乱離の巻 (山岡荘八著 講談社文庫)

山岡荘八の「徳川家康」を読み始めた。 (おそらくは)なにより長いことで有名な、文庫版で全26巻にもなる、あの小説である。

未曾有の長編の第一巻は家康の誕生前夜、両親である松平広忠と於大の方の縁談話しから離別までを中心に話が進んで行く。
しかしこの「出生乱離の巻」。 戦国時代絵巻らしく豪快な戦闘シーンがあるかと思いきや、駿河の今川、尾張の織田と言う大国に挟まれて生きて行かねばならない小国の悲しみを弱者の視点で描いて、全編が諦観に満ちていているのである。
名君と称えられた先代松平康清へのコンプレックスと、やる気まんまんの家臣団の間で追い詰められる、最も戦国大名に向かない男、松平広忠の苦悩。

他家の大名が羨む程の鉄の団結を見せる松平家家臣団は、一人一人が魅力的な、個性溢れる男達として描かれている。 やがては天下の覇者となる三河武士ここにありと言う感じだ。
今川義元と言うと、よく公家かぶれのダメ大名として描かれるけれど、ここでは大国を取り仕切るに相応しい大人の風格あり。
そしてもう一方の織田家と言えば、桶狭間までは弱小国なのだと思っていたら、ここでは今川家に張り合う急進勢力となっているのが意外であった。 その織田家を引っ張るのが当主信秀は、息子の信長を彷彿とさせる猛将ぶりを見せ付けてくれる。 そして、早くも大器の片鱗を見せ付ける吉法師の登場。
まあこの辺は、大国間に揉まれる松平家や広忠のダメ当主ぶりと言う設定を生かす為なのかもしれない。


石川安芸 「殿!」
松平広忠 「なんだ」
石川安芸 「堪忍が大切でござりまするぞ」
松平広忠 「予は堪忍するために生まれてきたのかッ」
石川安芸 「御意のとおりでござる」
松平広忠 「いつまで・・・いつまで堪忍すればよいのだ。 死ぬまでか」
石川安芸 「御意のとおり」


<<あらすじ>>
岡崎の松平家は駿河の今川家、尾張の織田家と言う大国の間に挟まれた中、名君と慕われた先代清康の代から、今川に随身する政策を取って生き抜いて来た。 当代の主、松平広忠は水野忠政の娘、於大の方を娶る事になる。 二大国に挟まれた小国同志、手を携えて行こうという政略である。
最初は政略結婚に頑なだった広忠だが、於大の方の聡明さに、次第に心を開いてゆく。 織田と今川の小競り合いと言うべき小豆坂の戦いと前後して嫡子竹千代が誕生した。 同じ日、岡崎城の片隅ではこれも広忠の子である恵新が側室を母として生まれる。
数年後、於大の方の父、水野忠政が死去して水野家は信元の代となり織田家へ随身する事になる。 勢い広忠は、今川家への配慮から於大の方を離縁せねばならなくなった。
幼い竹千代を残して水野家に戻る於大の方。 最愛の妻との別れから乱心する広忠に、許婚お春を奪われた忠臣片目八弥の悲劇。 その一方で、竹千代が家中の期待を一身に担う。 広忠は心ならずも戸田弾正の娘、真喜姫と再婚する。


<<登場人物>>
登場人物があまりに多岐に渡るので、整理しておくことにする

<松平家(岡崎城)>
松平広忠:松平家当主で先代からの今川家寄り 最も戦国大名に向かない男
松平清康:広忠の父 松平家先代当主で故人
竹千代:松平家嫡子
華陽院:故清康の妻 広忠の義母 水野忠政の元妻 於大の方の生母(複雑!)
於大の方:広忠の正室 水野忠政の娘
百合:於大の方の召使 竹千代の出生時に、於大の方の命により鳳来寺峰の薬師の普賢菩薩を盗み出す
小笹:於大の方の召使
お久の方:広忠の側室 於大の方とはライバル関係
勘六:広忠=お久の方の長男
恵新:広忠=お久の方の次男 竹千代と同じ日に生まれたために生まれて直ぐ僧籍に入れられる
お春:広忠の側室 岩松八弥の元許婚者
<松平家家臣>
酒井雅楽助:主家想いの賢臣
本多平八郎
鳥居忠吉:家臣中の最長老
阿部大蔵:老臣
植村新六郎
大久保新十郎
大久保新八郎:豪放磊落な好漢
大久保甚四郎
石川安芸
松平乗正:お久の方の父
岩松八弥:小豆坂の合戦で片目を失い、以来片目八弥と呼ばれる一途な忠臣 お春の元許婚者
須賀:老女

<水野家(狩谷城)>
水野忠政:水野家当主 今川家寄り
水野藤五郎信元:忠政の嫡子 忠政没後は水野家当主で織田家寄り(悪役!)
水野藤九郎信近:忠政の子 今川家寄りだったが、信元と対立して出奔後は小川伊織を名乗る
水野忠近:忠政の子
<水野家家臣>
土方縫殿助:忠政の寵臣
土方権五郎:忠政の没後、石山御堂に入る
杉山元右衛門:小笹の父
杉山元六
牧田幾之助
芥川権六郎:信元の懐刀 忍者
於俊:土方権五郎の娘 忠政の没後は石山御堂に入るも、小川伊織と出会い出奔

<熊の若宮>
竹之内波太郎:熊の若宮当主 美貌で謎めいたバイプレーヤー
国:波太郎の妹 水野信元に捨てられる

<織田家>
織田信秀:織田家当主
吉法師:信秀の嫡子
<織田家家臣>
平手政秀:信秀の重臣 言わずと知れた吉法師の爺
久松弥九郎

<今川家>
今川義元:今川家当主
<今川家家臣>
大原雪斎:禅僧にして今川家の柱石

<松平家(他)>
松平信定:広忠の大叔父、織田家に随身

<戸田家>
戸田弾正左衛門康光
戸田宣光:康光の嫡子
真喜姫:康光の娘、広忠の後妻に入る

<その他>

随風:諸国行脚中の僧侶 後の天海僧正か?


と言う訳で、第1巻 出生乱離の巻 は竹千代の誕生編と言う事になろうか。
信長や秀吉と違って、最初から周囲に愛され期待されている家康であった。 ただ、その周囲が常に逆境にあって、それを盛り立てて行かねばならない運命を背負わされているのである。 こういった主人公の設定は、この小説が書き始められたのが、戦後間も無くと言う事と関係しているのだろうか? 因みに、自分的にはむしろ、すぐにへこんでイジケル広忠の方に親近感が無くはないのである。

竹千代、未だ赤ん坊である。 しかし、家康よ、早く成長して活躍しろ、などとは思わない。 そのくらい、周囲の人々が魅力的に描かれているのだ。 未だ幼い竹千代と、松平家の人々、その、いじらしいくらい忠義な家臣達にはこれから長い試練が待っている。


天下泰平まで、あと25巻。

| | Comments (6) | TrackBack (0)