未だやってたのかよ、なんて、呆れられるかもしれないけれど、ひっそりと走り続けていた。 それで、今朝漸く題詠マラソン2005のボード上に100首の短歌をアップし終わった。 題詠マラソン2005、これにて完走である。
この題詠マラソン2005には8ヶ月と言う、100首詠むのには充分かと思われる期間が設けられているけれど、私が作歌に掛けた時間は、実はそれほどでもない。 スタートした当初、勢い込んで詠み始めたのは良いけれど、途中ですっかりバテてしまって、まるで詠めない日々が続いたり、あげく、題詠マラソンに参加していると言う意識が薄れてしまったり。 中断していた期間が随分とある。 辛うじて、形ばかりは完走したとは言え、我ながらあまり熱心なランナーとは言えなかったと思う。
なんとか完走出来て、今はそこそこの満足感を味わっているけれど、でも、100首それぞれの拙さは、まあともかくとして、その中に、自分らしくない歌の混ざっていることについては、我ながら忸怩たる気持ちでいる。
自分らしくない、と言うのはつまり、普段の自分ならばまず使わないような単語、語順、言い回しを持った歌があったりして、今になって改めて読み直してみると、とても自作とは思えないような気分になる。 締め切りに追われて大急ぎで造ったりすると、自分を見失って、こういう結果になるものなのかもしれないね。
出題された100のお題と、もとよしの詠んだ100首は以下の通りである。 今すぐにでも手直ししたい、あるいは他と差替えたい歌が幾らもあるけれど、ここでは、題詠マラソン2005へ参加した記録として、そのまま上げておくことにする。
001:声
絵本読む声聴きあふて病院の待合室がひとつになつた
002:色
「この柄で色違ひつてありますか?」熱帯魚売り場にスコール兆す
003:つぼみ
「あとごふん」布団の中の云ひ訳はいつかな咲かぬつぼみのこころ
004:淡
「淡い」とふ言の葉一つ想ひ出に十五の春が過ぎて往くなり
005:サラダ
サラダ巻選ぶ君見て他愛ない話題に逸らす回転寿司屋
006:時
云ひ出して後には引けぬ奴が好きで仲裁人は時の氏神
007:発見
月の無い夜に小さき星明かり発見したと言ふべき鈴音
008:鞄
どちらかを持たうと言へば躊躇せず軽き鞄を渡す君なり
009:眠
頬杖を突いた瞬間眠るのに慣れて仕舞つた秋雨の庭
010:線路
廃線と思しき線路その跡を儚き者らが辿り往くのだ
011:都
移動する手段に敢へて加へたる都電の中の豊かな気持ち
012:メガホン
怪気炎上げる一座のメガホンの柄が気になる東京メトロ
013:焦
焦つても焦らなくても似たやうなもだと想ひしかし焦つた
014:主義
好きなもの後から食べる主義守る吾の見詰める集合写真
015:友
吠え止まぬ犬に向かつて友好の印しみたいに護謨毬放る
016:たそがれ
なにかしらすがつてみたくなるなんてよくあることでたそがれどきは
017:陸
着陸のジェット旅客機唐突にずどんと降りて澄ましをるなり
018:教室
教室の扉やたらと重い日は深呼吸ひとつしてから入るべし
019:アラビア
アラビア種牝馬の瞳哀しげなままでこちらを見やうとしない
020:楽
忙しい最中頁を捲らせる楽譜、告白タイムは今だ!
021:うたた寝
海峡を渡る鳥たちうたた寝の間に通り過ぎて往つたか
022:弓
武具は知らず楽器としての弓ならば先で人突くこと無きにしも非ず
023:うさぎ
裃を着けたうさぎが仰々しく吾の置かれた立場を諭す
024:チョコレート
ブラザーの大きミシンのフレームに嵌め込まれたるチョコレートの夢
025:泳
うつ伏せの眠りから覚め嗚呼君が畳の上を泳いで来るよ
026:蜘蛛
ああこれが蜘蛛の糸かと想ふたら爾来廻りに優しくなれた
027:液体
遠慮して手を出しかねた欠き氷の液体に戻る過程ねめつけ
028:母
テレビ観る母の目の前横切つて仕舞つた今日は仏蘭西語講座か
029:ならずもの
この辺でクールダウンと行きたくてならずものなる仮面を外す
030:橋
銀の笛抱き都電の夢見れば面影橋はとうに過ぎたり
031:盗
盗まれた自転車のこと語るさへ屈託なしに済ませる君は
032:乾電池
乾電池切れたふりしてひと休み背中に子供乗つけたまんま
033:魚
魚偏に貫で目刺と読むのだと云つて感心されて慌てて
034:背中
本領を見せず平気でゐる奴のここらで誰か背中押してやれ
035:禁
「近頃の若い奴ら」と言ふ台詞禁句とした日想ひだしてる
036:探偵
池袋駅に探偵降り立ちて探偵小説作家も続く
037:汗
手の中の汗に気付いた青銅の像若人の踊るさま観て
038:横浜
先輩の暑中見舞いの結句には「横浜快晴」字が唄つてる
039:紫
ふくさ解く手付きが好くて見詰めをる古代紫抗いもせず
040:おとうと
おとうとでゐれば良かつたあの頃の自分の瞳見下ろしてゐる
041:迷
嬉々として巨大迷路に飛び込んだ、何時出れるやらどうにかなるやら
042:官僚
回れ右して去つてゆく官僚のやがて追ひつく蟻の行列
043:馬
本棚の「竜馬がゆく」全八巻に積もつた埃吹き飛ばした日
044:香
マニフェスト?だつて私は猫だものテレビの前で香箱つくる
045:パズル
磊落はジグソー・パズルお終ひのピース足らぬと気付き笑ふ声
046:泥
泥んこになつて遊んだ遠い日々もはや忘れてどぜう汁飲む
047:大和
大和煮の鯨缶詰吾が部屋の特等席に鎮座まします
048:袖
真つ先に袖をまくつておきながら寒い寒いと云ひ出す男
049:ワイン
とつときのワイングラスを愛でやうにも満つべき美酒が無い曼珠沙華
050:変
聴きも知らぬ変奏曲が流れをる行方も知れぬ地下道を往く
051:泣きぼくろ
泣きぼくろ左右の頬に持つ君の俯くままに止まる想ひ出
052:螺旋
捻じ曲がる螺旋階段何時からか目的もなしに歩める吾は
053:髪
今やこの貴重なる髪切つてゆく床屋に篤と解き聴かせたきこと
054:靴下
見付からぬ片割れなんどこの際はどふでも好くて靴下のこと
055:ラーメン
品書きは醤油ラーメンそれだけの店で決起の計画を告ぐ
056:松
五人まで並べ上げたらあと一人想ひ出せない、なに松だつけ?
057:制服
反抗期と云ふぢやなしでも制服を着崩すことに夢中の日々よ
058:剣
剣先のスルメ両手に握り締めひとつここらで勝負に出るか
059:十字
三十字以内で述べよ故郷から逃げて戻つて又出た顛末
060:影
サッカーのテレビ観戦止めてみる魚影に小石投げ込むやうに
61:じゃがいも
じやがいもを訊ねて来たと云ふ女見たかいまるでにんじんぢやないか
062:風邪
風邪に効く薬はないか萎びてる蜜柑一つが千両だつて
063:鬼
金堂の屋根を支える隅鬼の一人は千年余にして果てり
064:科学
科学的根拠は知らず只今は祈る心で茗荷噛み締む
065:城
江戸城は誰が建てたと訊ねれば大工さんさと答へやがつた
066:消
容赦なく使い続けた消しゴムの遂には何処かに隠れてしまひ
067:スーツ
三つ揃ひスーツ着こなす時にさえポケットに忍ばすバンダナひとつ
068:四
混声の四部合唱のソプラノが残り発声練習極まる
069:花束
ぽつねんと花束のある公園のベンチに誰が座れると云ふのか
070:曲
曲間のサーフェスノイズもはしきよしLPレコード聴いた想ひで
071:次元
三次元感覚持たぬお互いが身振り手振りで大いに語る
072:インク
想つてもみない形となるものが運命それにインクの染みも
073:額
父がゐて猫の額に譬うべき我が家の庭で物干す残像
074:麻酔
麻酔薬効き始めるのを待つてゐる歯医者の椅子のあはれ硬さや
075:続
続編のあるを心得読んでゐる正編の終章もどかしもはや
076:リズム
草臥れたコピー機械が後打ちのリズムで白い紙を吐き出す
077:櫛
櫛の歯の欠けたみたいに並んだら合唱団の練習始まる
078:携帯
バッテリー切れたつ切りの携帯のディスプレイには孤独と云ふ文字
079:ぬいぐるみ
ぬいぐるみ買つて帰つたその夜から一線越へてしまつたワタシ
080:書
読めぬ書の前に佇む吾をまた鹿爪らしく見てゐる子供
081:洗濯
気が付けば洗濯物が山成して早く洗えと促す週末
082:罠
罠だつて知つてるさ、でも覗き込むショーウィンドーの靫葛(ウツボカズラ)を
083:キャベツ
千切りのキャベツ上達する頃に独り暮らしは飽いてくるかも
084:林
どこからか誰か見てゐる果実なす林彷徨ふ羽虫の吾を
085:胸騒ぎ
胸騒ぎしたらまあるいお腹撫でそこから上に手はやらないで
086:占
占ひに任すのもありその代はりお代はちやんと置いてゆくこと
087:計画
そのかみのアポロ計画兎らは笑ひこらへて隠れてゐたさ
088:食
悪食の鴉ゴミ箱漁り終へ次はこちらへ歩いて来るぞ
089:巻
忙しさ極まる日々に読み出した徳川家康二十六巻
090:薔薇
薔薇園を一巡りして来たと云ふ暢気な君が付けて来た棘
091:暖
ドタバタと炬燵を出せばそれだけで体、心も暖かなりし
092:届
気紛れに放つた小石なんとまあ向かふ岸まで届いてゐたか
093:ナイフ
ありていに喋り尽くしてこのうへはマック・ザ・ナイフ唄ふしかなく
094:進
何処よりか祭囃子の聴こへ来るやうに尽きせぬ行進曲なり
095:翼
トビウオの胸鰭翼となる日まで収斂進化信じて止まぬ
096:留守
留守番は楽し人気もなき部屋の吾は束の間みなしごハッチ
097:静
「静かに」と記せし白扇墨痕も鮮やかなるを呑み教壇へ
098:未来
十歩先往つてるやうな君に訊く未来はどんな風が吹いてる
099:動
背を向けて項垂れてゐるゴリラ見て動物園つて侮れないと
100:マラソン
たとふればマラソン周回遅れなしのルールと決めて棄権はしない
なんだか、いろいろと文句を垂れてしまったけれど、それでも歌を詠むと言うのは楽しいし、そうして出来上がった歌が、例えどれ程の愚作であっても、そこに自分らしさが込められている限りは、どれもみなカワイイものである。
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