September 08, 2018

読書:生協の白石さんとエコごはん

 
 
生協の白石さんとエコごはん
 
 
  白石昌則 + 東京農工大学出版会 著
 
 
    2009年   ソニー・マガジンズ
 
 
東京農工大学内の生活協同組合に勤務、店内の掲示板に張り出された(ユーザーとお店とを繋ぐ)「ひとことカード」欄に、当意即妙の回答を付けていた、あの生協の白石さん。

その後の配置換えによって東京農工大を離れ、今は別の職場に勤務されているらしいですね。
そうは言っても、ユーザーからのどんな無茶ぶりな質問にも、真摯かつユーモアに富んだ、絶妙のアンサーを見せてくれた「ひとことカード」の鬼才・白石さんですよ。

これほどの人材を首脳陣(?)が放って置く筈も無く、現在は農工大広報大使というものを拝命。
ここではソニー・マガジンズ編集部に寄せられた様々な(例によって、あまり脈絡の無い(笑))質問に答えてゆきます、それに簡単なお料理レシピ(今時珍しく文字オンリーの)を加えたのが本書。
テーマは(今らしく)「エコ」です。

        ▽▲▽▲▽▲

<白石さんに寄せられた質問>

Q.5
ロハスって、ドミニカから来た助っ人外国人ぽくないですか?
中日か広島あたりにいそうです。

A.(白石さんの答え)
何年も前のことですが実際に、ロペスという外国人バッターが広島にいました。チャンスに強かったと記憶しています。ただしドミニカではなく、アメリカ出身です。一方、ロハスの発想もアメリカ発祥のようです。思いがけず、同郷ですね。いずれにしてもCARPにはロペス。COOPにはロハスが収まり良いかと思われます。

        ▽▲▽▲▽▲

さてさて、本書が世に出たのは2009年のこと。
世は既にエコ、エコ、エコと、エコロジー大流行りでした。

次世代を担う若者たちにも、是非ともエコ意識/将来への危機感を持って欲しいもの。
ましてや、お仕事が学生さん相手の白石さんです。 「ひとことカード」のアンサーの方もエコ志向に。
加えて、若い人向けの/地球にもお財布にも優しく/手間も時間もかからない、豊富なレシピの数々を公開!

省エネや時短とか言っても、こうして本にまとめる以上は、余程お洒落な料理でも紹介するのかと想っていたら、あにはからんや、ホントの本当に滅っ茶簡単な内容でした。(笑)

レシピによってはこれ、私が日々拙宅のキッチンで生み出す、世にも怪しい・イイカゲンな、なんちゃって料理と、大して変わんなくない? ってのもありました。
読んでみて、ちょっと安心しちゃったワタシ。(笑)
まぁ、お金も技もない学生さん向けのレシピですものね。

例えば、お料理の途中で切り落とした野菜(身の方は無論、それはそれで美味しく頂くワケです)の皮やクズの部分は、捨てたりせずに溜めておいて、それはそれで別の一品の材料にする。 好きだなぁ、こういうの。(笑)

アブラを盛大に消費する揚げ物なんかは(なにしろ後始末がエコじゃないですし)なるべく避けるのは勿論として、魚やお肉の包装に使われたプラ・パックさえ調理に応用。 後片付けの簡便さや洗い物の節水にさえ気を配るんです。

今時文字だけでお料理レシピを発表しているという今時珍しい、果敢なチャレンジャーぶりです。

白石さんの回答的には「生協の白石さん」に及ばないものの、その後の白石さんの活躍ぶりを知るという意味で、愉しい読み物でした。
 
 
 
     生協の白石さん     白石昌則著  (白石さんの前著です)
 
 

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August 20, 2018

小説:海賊とよばれた男

 
 
海賊とよばれた男
Fueled: The Man They Called Pirate
 
 
   百田尚樹 著
 
 
       2012年   講談社
 
 
欧米先進諸国に追いつけ追い越せとばかり、急ピッチで近代化を進めていた当時の日本。
産業の振興を進めるには石油が不可欠ですが、そこは資源に恵まれない我が国故、輸入に依存するしかない訳です。
しかし諸外国の採った輸出禁止政策(が一因となって)により、追い詰められる日本。 遂に太平洋戦争へ・・・・

石油。 各企業は競ってその独占を計り、時に国際政治のカードともなります。
なにせ <石油の供給ストップ> イコール <近代国家として機能停止> みたいなモンですから。
石油の確保というのは国家の一大事でもあったわけですね。
お金さえ払えば売って貰えるってもんじゃあ無かった。(ココ、大事!)

戦後、国内石油会社は次々と欧米大手石油会社の傘下に入り、石油の安定確保を図ります。
しかし、それは自国のライフラインを外資に委ねてしまうってこと。
こんなことでマサカの事態(有事とか)に対処出来るんでしょうか?
だがここに、欧米メジャーの軍門に下ることを断固拒否した石油会社があった!!

        ▽▲▽▲▽▲

本書は、モデルとなった出光興産の創業者一代記、あるいは出光の社史みたいになっていますけれど、「石油」という視点から見た日本の戦前・戦中・戦後史でもあります。

石油の供給を巡る企業間、時には企業 VS 国家(!)の闘い。
初めて(世界に先駆けて!)中東まで自社タンカーを派遣し、イランから直に石油を買い付けたんだってぇ?! こんな大冒険、もはや世界史の一頁に記すべきイベントじゃあないですか。

それにしても戦後(自分が生まれる少し前に)日本がこれほどヤバイ綱渡りをしていたとは!
ま、こんなこと(オレがものを知らないだけで)ご存知の方にとっては、周知の事実なんでしょうけれど。
大河ドラマなんかより余程オモシロイじゃん。(笑)(ドラマとしてあんまり取り上げられた例を聞かないのは、モデルとなったのが実在の企業であり、ご存命の方も多い故ですかね)

石油業界を保護主義に導こうとする通商産業省(経済産業省)の護送船団方式とは逆に、自由化こそが正しいと反論する主人公。
これ、以前に読んだ小説「官僚たちの夏」(城山三郎)とは逆方向から眺めた昭和史ですね。
本書は軍人・政治家・官僚でなく、商人の側から見た戦前・戦中・戦後ということで、私にはとても新鮮でした。

        ▽▲▽▲▽▲

さて、主人公(外資になびかず独立を貫こうとする気骨の人です!)の石油会社は途中何度か資金難、経営の危機に見舞われます。
が、その度に銀行等が援助を申し出て(交渉の末)会社はギリギリのところで救われる!
交渉相手のトップから、破格の好条件を引き出して見せる主人公の人間的魅力、凄すぎます。 って言うかこの小説、同じパターンを何度も使い過ぎ。(笑)

そんな主人公(の石油会社)の前には幾多のライバル会社が立ち塞がり、また役人から疎んじられたりもして、とにかく敵が多いんです。
その敵役というのが、揃いも揃って姑息で卑怯で、おまけに売国的な奴らに描かれていまして、なんか、とっても物足らなく感じました。
人間の描き方があんまり浅くって、なんかジュブナイルっぽいんですね。

また、全体的に感情表現や心理・内面の描写が下手過ぎですかね。
文章が稚拙に過ぎるのも気になりました。
以前、同じ著者の「永遠の0」を読んだ時はそうでもなかったのになぁ。

        ▽▲▽▲▽▲

ネットでこの小説の評判を調べてみたら、・主人公凄い。・この会社凄い。・自分もこんな会社で働いてみたい。 なんて、おそらくは若い人からの感想があがっていましたけれど、そうかぁ~?(笑)

小説では徒手空拳のスタート、何も無いところから自分の会社を立ち上げ、やっと中堅企業にまで育てたと想ったら、敗戦により全てパー。orz

戦後、どん底から這い上がって、艱難辛苦の末、遂に押しも押されもしない大企業となってメデタイわけですけれど、そこまでついて付いてゆくのって、大変だと想うよ~(笑)
って言うか、ゴール(未来)が見えないまま、ここまで突っ走れるってスゴイと想うわけです。

いろいろと文句を垂れてしまいましたけれど、本書は戦後の日章丸事件あたりから俄然、面白くなって来る。 手に汗握る展開!

石油から見た昭和史、なかなか読み応えがありました。
 
 

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July 31, 2018

読書:声優魂

 
 
声優魂
 
 
  大塚明夫 著
 
 
    2015年  星海社
 
 
ご存じでしょうか?
当代人気声優のひとり、大塚明夫さんのこと。
 
例えご存じなくとも、ドラマやアニメでの吹き替えを一聴すれば「あぁ、あの声!」と、必ずやピンと来る筈。
 
そんな大塚明夫さんが、これまでに声を当てて来た、膨大な数に上るキャラ。
あなたなら、まずはなにを連想しますか?
 
アニメや、海外の映画/ドラマのキャラクター?
あるいは「Fate/Zero」のライダーか、「攻殻機動隊」のバトーさん?
はたまた大ヒットしたと言うゲームに登場するキャラクター(このジャンルばかりは、ワタシも判らないっす(^^;)?
それともムーミン・パパ?(^ァ^)

        ▽▲▽▲▽▲

例えば、功成り名を遂げた俳優や映画監督ならば自伝。
芸人ならば芸談。
そしてタレントならばエッセイと。(笑)
人は次代に向けて何等かのアウトプットを遺したがるもの。
では、声優さんはと言うと・・・・声優論って、まずは聴かないものですね。

それでは本書はどうか?
まずは現役バリバリの声優として極めて辛口の精神論(?)から始って、著名声優(あの大塚周夫さん)の息子として生まれた明夫さんが、紆余曲折を経て、遂に声優となるまでの変遷も。 ここは特に面白かった。

        ▽▲▽▲▽▲

大塚明夫、紛れもなく気骨の人です。

一体、声優とはファンが考えている以上に地道で苦労の絶えない作業らしく。
それでも若い声優志望者は後を絶たず、声優志望者の為の学校ってのがあって、それが今や大賑わいなんだとか。

そこで硬骨漢・大塚明夫、ここで声を大にして若者たちに教え諭します。
「声優だけはやめておけ」。

一見して過激だけれど、明快でかつ奥の深いアドヴァイス。
その深い部分については、本書の中でた~っぷりと語られます。

        ▽▲▽▲▽▲
 
 
 
大塚明夫:
「ガンダムを一機作るより、量産型ザクをたくさん揃える方が安上がりだし手間もいらない。しかしザクでは世界は変わらない」
 
 
 
昨今、誰も彼もが安易に声優を目指し、集まって来ると言う、そんな若者たちの風潮に対して、危機感を募らせている大塚さん。
 
ろくに社会を経験してもいない若者が、オレも/アタシもと安易に考える程、声優とはそんなにイイもんではないと言い切ります。
それどころか、そもそもワリに合うような仕事ですらないよ、とまで。
 
若い人向けの声優入門講座かと思いきや、声優になるなと言い切る本書。
安易な考えで声優を志望する若者が後を絶たず、それだけ事態は深刻ってことでしょうか。
アイツ等、これくらい言って聞かせないと、判んないだろうからナっていう。
 
でも、それでも尚、居るんでしょうね。 声優を志す若者。
どんなに止めろと言われようが、決して諦めようとしない、声優バカたち。
そうと心得た上での「~やめておけ」発言なのかと想います。
 
ゼロから始めて、唯一無二の存在へと辿り着いた人気声優の、超辛口声優論。
これからの活躍がますます楽しみなのと共に、過去の出演作、アニメ/映画の数々を、また見返してみたくなりました。
 
 

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July 29, 2018

読書:ヘンな論文

 
  
ヘンな論文
 
 
 サンキュータツオ 著
 

    2015年   角川学芸出版
 
 

サンキュータツオ:
「美しい夕景を見たとき、それを絵に描く人もいれば、文章に書く人もいるし、歌で感動を表現する人がいる。
しかし、そういう人たちのなかに、その景色の理由を知りたくて、色素を解析したり構図の配置を計算したり、空気と気温を計る人がいる。それが研究する、ということである。」

        ▽▲▽▲▽▲

世に数多あるの論文の中から、絶品、あるいは珍品とも呼べるこれらを掘り出した、この本の著者の嗅覚/眼力、スゴイと想います。

そして、これらの論文が図書館で、閲覧可能なように供されているっていう事実も素晴らしい。 宝物はすぐ傍に眠っていて、それを掘り起こすかどうかはアナタ次第と言う事。

以下、各章毎の表題と、そのネタとなった論文の題名、著者名、掲載誌を併記した上でコメントさせて頂きます。(ヘンな論文に、お堅い表題の取り合わせがオモシロくって(^^ゞ)

        ▽▲▽▲▽▲

一本目 「世間話」の研究

  「奇人論序説 ーあのころは「川原町のジュリー」がいたー」
     飯倉義之 2004年『世間話研究』第14号


「ジュリー」ってのは無論、あの沢田研二のこと。
かつて京都川原町に棲んで居た(故人)という伝説のホームレス、人呼んで「川原町のジュリー」(ソックリなのだとか)のことを、あらゆる伝手を辿って調べ上げました。

これだけなら噂話。 文字通りの世間話に留まりそうなもんですけれど、それをアカデミックにまとめ、こうして研究論文としてアウトプット。

テーマこそ街の雑学的なものながら、これ、至極まっとうな論文と想います。
まさに「川原町のジュリー」を通したひとつの郷土史、地域社会論となっている。

おそらくは、こういう伝説的な存在って、どこの街にも居るんでしょうね。
それは特定の人物だったり、場所であったり・・・・

「川原町のジュリー」的存在、必ずや我が街にも居るハズで。
でも、ここまでディープな「世間話」って、そこまで喰い込むのには、かなりハードル高そう。(笑)
子供の頃からずっとひとつ処に住んでいればなぁ、っとか想うのはこういう時です。

        ▽▲▽▲▽▲

二本目 公園の斜面に座る「カップルの観察」

  「傾斜面に着座するカップルに求められる他者との距離」
     小林茂夫、津田智史 2007年『日本建築学会環境系論文集』第615号


港の見渡せる(ロマンティックな(^ァ^))公園の斜面に座り込み愛を語らう、幾組かのアベックの、互いの距離感(場所の陣取り方)と、その振る舞いは?(笑)。

これって、確かに建築・都市デザインにまで応用出切るテーマなんですね。
その方面的に、貴重なデータなんでしょうけれど、それにしても、こんなテーマまで大真面目に論文になってしまう面白さ。(笑)

観察にあたっては、配下の学生たちに二人ずつ男女ペアを組ませて、件の公園に投入したらしいです。
これ、観察する側もアベックにせざるを得ないワケですね。(これが単独、特に男子学生に独りで観察なんかさせようモンなら、確実に覗きと誤解されちゃいますからね(笑))

学業の為とは言え、図らずも(?)ペアを組まされる男女学生たちが、周囲のアベックたちの行動を逐一観察/記録・・・・

まるで、これからラブコメでも始まりそうな、この設定からして、もう可笑しい。(^ァ^)
ちょっと羨ましいゾ?(笑)

        ▽▲▽▲▽▲

三本目 「浮気男」の頭の中

  「婚外恋愛継続時における男性の恋愛関係安定化意味付け作業
     ーグランデッド・セオリーアプローチによる理論生成ー」
   松本健輔 2010年「立命館人間科学研究」21


浮気男の心理を研究したんですって。(^^ゞ
まずは、よくもまぁ研究が成り立つ程の、何人もの浮気男たちを見つけたものと感心させられます。
と言うか、ここに集められたのは、浮気男でかつ、その武勇伝(?!)を研究者に語ってしまう程のお喋りサンと言う共通点があるワケですね。

浮気男の心理と向き合う内、その深部に潜む、悔恨や満たされない心根までも探ってしまう研究者。

        ▽▲▽▲▽▲

四本目 「あくび」はなぜうつる?

  「行動伝染の研究動向 あくびはなぜうつるのか」
   本多明生、大原貴弘 2009年『いわき明星大学人文学部研究紀要』22


アクビって人に伝染しますよね。 ハイ、ごもっとも。
で、その研究論文なのだそうで。

ここでは被験者に、第三者が欠伸をするビデオを見せて、それがうつるかどうか確かめたりするんですけれど、それで大丈夫なのかなぁ?
オレが被験者だったら、緊張してしまって、アクビどころではないと想う。(笑)

この論文の、医学からでも、また動物学からでも無いアプローチは、なんか方向が違うのでは、と想わせられますけれど。
でも、一見して無駄とも想われる実験を繰り返して、可能性をひとつひとつ潰してゆき、真実に近づくのが学問と言うもの。

因みに、犬や猫の欠伸まで取り上げていますけれど。 イヌ・ネコのするアクビって彼(女)らにとって言語の一種なんじゃあ?(笑)
これって動物行動学の視点から眺めたほうが良かったのでは? なんて想いました。

        ▽▲▽▲▽▲

五本目 「コーヒーカップ」の音の科学

  「コーヒーカップとスプーンの接触音の音程変化」
   塚本浩志 2007年『物理教育』第55巻 第4号


日々の生活の中で、ふと湧いた疑問。 身近なテーマに自由な発想。 これ、夏休みの自由研究みたいなのが微笑ましい限りです。
実際、生徒のふとした疑問からスタートした、著者と生徒との共同研究らしいですね。

専門の計測機(お高いんでしょ?)を持ち出し、実験を重ねて精度の高いデータを求め、それらを解析した末、遂にナットクの研究成果をアウトプット。

研究の成果も然ることながら、幾つも仮説を立てて、実験を重ね、次第に核心に近づいてゆく姿勢に感動させられました。

研究課題を追い掛けて、突き詰めてゆく過程を知ることの出来た、素晴らしくスリリングな一章でした。

※ 因みに、表題の「~音程変化」は、「~音高変化」と記すのが適切ではないでしょうか?

        ▽▲▽▲▽▲

六本目 女子高生と「男子の目」

  「男子生徒の出現で女子高生の外見はどう変わったか
     ー母校・県立女子高校の共学化を目の当たりにしてー」
   白井裕子 2006年『女性学年報』第27号


世は男女共同参画社会に向かって邁進!
著者の出身高校も(卒業してから後に)女子高から共学へと切り変わったそうです。
男女共学? 大いに結構じゃないですか。

しかし、そのことで、女子高時代には確かに在ったと言う(傍に異性が居ないことで実現した)女たちの自主独立の気風/気概が失われてしまったそうな。

研究により明らかとなったのは、目の前に異性が居ることで、女の子は女らしくという風潮が自ずから現れるという現象。
それを受けて、今時の母校の女子たちはふがいない! と、この女子高(時代)出身の著者は義憤に駆られるのであります。

女性ならば、社会に出る前に一度、男抜きの社会、オンナ主体の社会というものを経験しておくことも、これはこれで貴重な財産足りうるのかも、ですね。
あるいは、これこそが女子高というものの存在価値であって、無論それは、男子校の場合にも言えることなのかも。
因みに私、男子校出身者です。

        ▽▲▽▲▽▲

七本目 「猫の癒し」効果

  「大学祭における「猫カフェ」の効果
    ー「猫カフェ」体験型のAAE(動物介在教育)が来場者に及ぼす影響ー」
   今野洋子、尾形良子 2008年『北翔大学北方圏学術情報センター年俸』


学園祭で猫カフェ。(^ァ^)
って、今時如何にもありそうな企画ですけれど。
これはその猫カフェを研究対象としてものした論文です。

但し、あんまり面白くはなかったですねぇ。(^^ゞ
データの取り方が、利用者の感想主体で、そこに科学を感じ難いんです。
当たり前な結果が出たとして、それはそれで(研究として)意義あるものなんでしょうけれど。
「カワイイは正義」は大正論として、でもワタシ的に、それのみでは論文として物足らないと想うのです。

        ▽▲▽▲▽▲

八本目 「なぞかけ」の法則

  「隠喩的表現において“面白さ”を感じるメカニズム」
   中村太戯留 2009年『心理学研究』第80巻 第1号 日本心理学会


なぞかけによって起こる笑いがテーマだって言う割りには、被験者に聴いて貰うなぞかけの内用がイマイチ面白くないのね。(^^ゞ
これ、調査対象を(手近な?)学生たちに絞っているのが原因かと想います。 その分、奥の浅いものになっちゃってる。
年齢や職業など、調査対象をもっと広く取ったら、果たしてどんな結果になったか、ちょっと興味アリマス。

なぞかけを聴いて、実際に笑いが起こるまでのスピード、所要時間に着目した点はとっても良かったと想います。

        ▽▲▽▲▽▲

九本目 「元近鉄ファン」の生態を探れ
  「オリックス・バファローズのスタジアム観戦者の特性に関する研究
   ー元大阪近鉄バファローズファンとオリックス・ブルーウェーブファンに注目してー」
   永田順也、藤本淳也、松岡宏高 2007年『大阪体育大学紀要』第38巻


プロ野球の近鉄とオリックスって合併してたんだ? え! いつの間に?(^^ゞ
恥ずかしながら、そんなことも知らなかった罰当たりなワタシです。orz

プロ球団の合併直後というタイミング。 その時に元の、各チームのファンの気持ちは果たして如何ばかりであろうか? また、統一後の新チームと、どう向き合うのか?

合併なんて何十年に一度? 滅多にはあり得ないコトだけに、研究者として、正に千載一遇のチャンスでありましょう。

セレブな元オリックスファンと、庶民派の元近鉄ファンという、あまりにも判り易い対立構造。
十二分に予想され得たコトながら、やはり、そういう結果になりますか。(笑)
着眼点が実にオモシロイ。

        ▽▲▽▲▽▲

十歩目 現役「床山」アンケート

  「現代に生きるマゲⅢ~大相撲現役床山アンケートから~」
   下家由紀子 2008年 『山野研究紀要』第16号 山野美容芸術短期大学


みんな大好き大相撲。(^ァ^)
中でも、床山さんの存在に着目したのは好かった。
でもアンケートの内容がちょっと物足らなかったですね。
これ、まずはアンケートのたて方が上手くないと想うんですね。
これでは、回答する側が飽きてしまいそうで。
実際、得られた回答も、ありきたりでイマイチ面白くなかったですし。(^^ゞ
アンケートの工夫次第で、もっと面白くなるハズ。 と想いました。

それにしても、もはやエンタメに対するような態度で、論文に臨んでいるワタシ。(^^ゞ

        ▽▲▽▲▽▲

十一本目 「しりとり」はどこまで続く?
  「最長しりとり問題の解法」
    乾 伸雄、品野勇治、鴻池祐輔、小谷善行 2005年
   『情報処理学会論文誌:数理モデル化と応用』vol.46


世間的は意外ではあっても、コンピュータの世界では間々見られる、そんな現象ってあるよね。
才能に恵まれた天才/秀才が、好んでアホなジョークを頻発したり、(仲間にしか通じない)馬鹿なスラングを偏愛したり。

ここで言うしりとり。
確かにしりとりとしての定義を満たしてはいるものの、だからって、そこに面白さは見当たりません。
只、最長しりとりの解法なんて言う、どうでも好さげなことを導くのに才能とエネルギーを注ぎ込む。 そんなことに嬉々として(?)取り組むのって、如何にもコンピュータの世界の人々のやることっぽいと想う。(笑)

まぁ、定義さえ満たしていれば、コンピュータ・サイエンス的にはそれで一向に構わないってコト。 最長しりとりの解法も、ルービックキューブの攻略法だって、コンピュータ的には同じ扱いなワケです。

        ▽▲▽▲▽▲

十二本目 「おっぱいの揺れ」とブラのずれ

  「走行中のブラジャー着用時の乳房振動とずれの特性」
   岡部和代、黒川隆夫 2005年『日本家政学会誌』56 No.5

なんとま、よくもこんなテーマを。(笑)
でも、下着メーカーならば間違いなく注目するであろう有用な論文でもあります。

こういう地道な研究があってこそ下着の改良が進むワケで、そしてこれ、市場的に物凄く大きいでしょ。 だから研究する価値は十二分にありだと想う。

それにしても、こういうテーマが、他のアカデミックな論文と並んで現れる学会誌って
ホントに面白い。

        ▽▲▽▲▽▲

十三本目 「湯たんぽ」異聞

  「湯たんぽの形態成立とその変化に関する考察Ⅰ」
   伊藤紀之 2007年『共立女子大学 家政学部紀要』第53号


出ました!
サンキュータツオがヘンな論文を渉猟する中で釣れた大物!

たかが湯たんぽ、されど・・・・ です
湯たんぽの歴史、伝来、時代・地域差、形式の分類など等。
豊富な知識、見識、そして教養を総動員した湯たんぽ研究。
興味の赴くまま、研究テーマは様々に派生してゆき、留まることがありません。
素敵だナァ、こういうのって。

極めてユニークなテーマだけに、先行の研究など見当たらないらしいですね。
この著者がパイオニアとして、切り開いて来た分野です。
因みに、著者は我が国における家政学のパイオニアの一人でもあるそうな。

本書の白眉と言える論文がこれでした。
 
 

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July 21, 2018

読書:刑務所通いはやめられねぇ

 
 
刑務所通いはやめられねぇ
 
 ~笑わせて、泣かせる落語家慰問~
 
 
    桂 才賀 著
 
 
            2008年  亜紀書房
 
 
著者の七代目・桂才賀師匠は現役の落語家さん。

海上自衛隊勤務を経て、九代目(先々代)桂文治に入門、後に古今亭志ん朝門下へ。
なんでも、80年代には「笑点」の大喜利メンバーを勤めていたんだそうな。(知りませんでした)

この方の高座って、私は伺った経験がないけれども、全国各地の刑務所/少年院の慰問活動を続けて、もう(2008年の執筆時点で)25年にもなるそうで、気骨の人なのは間違いないやね。
        ▽▲▽▲▽▲

刑務所の慰問って、そんなのがあるんですね!
そういえば、かなり以前に伺った三遊亭歌武蔵師匠の高座で、そんなエピソードを聴いた事があるような。

ともかく才賀師匠、本業の寄席の合間に一座(「芸激隊」と言うそうで)を引き連れて各地を廻って来た、その方面では第一人者ってことらしいです。
しかもこれ、ギャラ(どころか交通費すら)なしの純粋なボランティア活動であります。
プロの落語家をして、なにがそこまで惹きつけられるんでしょう。

刑務所/少年院という世界。
果たして、そこにあるのは、寄席とはまったく違う客筋でした。
そりゃそうです。 片やわざわざ寄席まで脚を運んで、木戸銭を払ってくれるお客さん。
一方、こちらは罪を犯して収監された受刑者です。

数年から、場合によっては出口の見えない程の長期刑までの、外部とは完全に隔絶された世界に棲む受刑者たち。
それを笑わそせよう、頑なな心を解きほぐして、更正に向けて役立てても貰おうってんですから。
(なぜ受刑者に慰安が必要か?、この辺の師匠の考えは、読み応えありました)
ともあれ、容易には笑ってくれない受刑者たちと相対した時の、笑顔のハードルの高さと、それをクリアした時の達成感はかなりのものがあるんじゃあ?

        ▽▲▽▲▽▲

ここでは、慰問の際の演目とか構成とか、そして如何にウケたかなど。 こと細かに記されています。
それが、落語家・桂才賀のキャラクター上、やたらノリノリで自画自賛気味になっているんですけれど、これってワタシ的に(正直言って)あんまりオモシロイものではないと想う。
しかも長い。 つまり割かれているボリュームが多過ぎる。 この辺は、もっと簡単に紹介するだけで良かったと想うナ。

師匠も、そうは想わないんですかね?(^^;
だって、舞台に立つ人って大概言うじゃないですか。
自分らの高座(ライブ)ってものは、音や映像で見たって、その好さ(スゴサ)は伝わってこない。 だから、是非にも会場まで足を運んでくれって。
まして、それをこうして書籍という形で、文字で表現されてもねぇ。(^^ゞ

でも、普段とは勝手の違う客筋を相手に、芸人として、プロとしての意地。
意地でも笑わせてやる! ウケてやる! っていう試行錯誤と、この場での経験は、必ずや芸の肥やしになっているんでしょうね。

また、報われない刑務管の暮らしにスポットを当てたのも良かった。

        ▽▲▽▲▽▲

桂才賀師匠の他、三遊亭歌武蔵師匠、鏡味仙志郎師匠ら、寄席で見掛けた顔も登場する本書。
もちろん、才賀師匠と同様、手弁当で全国の刑務著/少年院を廻る仲間たちです。

普段寄席で見掛ける芸人さんの、もうひとつの顔がここにはありました。
 
 

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July 17, 2018

小説:アクロイド殺害事件

 
 
アクロイド殺害事件
The Murder of Roger Ackroyd
 
 
  アガサ・クリスティ著   1926年 英国
    大久保康雄 訳
 
           創元推理文庫
 
 
推理小説と言ったら(ワタシ的に)なんたってシャーロック・ホームズ!
今でこそ縁遠くなってしまっていますけれど、かつては、その内の何作かを(子供の頃に触れたジュブナイル化されたものを含めて)読んだものです。
著者のコナン・ドイルは、推理小説に留まらず、SF作品もものしていますね(「宇宙戦争」とか)。
でも、代表作となると、やっぱりホームズものか。 幾つか読んでいる筈の、その内容とか、今となっては、まるで覚えていないんですけれど。(爆)

さて、ドイルと同じく英国人作家のアガサ・クリスティと、その登場人物エルキュール・ポワロについても(女流作家の創造した在英ベルギー人名探偵として)やはり知識にあるんです。 ですから多分、ポワロものの何冊かは読んでいる筈。
でも、数ある名作の中で、一体どれとどれを読んだんだか、さっぱり想い出せないんですね。(滝汗)

あ!「オリエント急行殺人事件」。 これだけは、読んだとハッキリ言えます。 今でも結末を覚えてますから。(笑)
でも、その一冊だけなハズがないんですよ。 他にも、なにか読んでいると想うんですけれどねぇ・・・・(悩)

        ▽▲▽▲▽▲

クリスティの著したポワロものの内、代表作として有名なのが、この「アクロイド殺害事件」。
かねて、その存在を知ってはいましたけれど、内容については完全に未読でした。

これ、推理小説の古典と呼ばれる相応しく、翻訳も多いですねぇ。
今回手に取ったのは、紙がすっかり黄ばんでしまい、製本などもはや崩壊寸前という草臥れきった文庫本。(笑)
大久保康雄訳の創元推理文庫版です。 初版が1959年とは、また随分と古いですな。

        ▽▲▽▲▽▲

この古~い文庫本。 正直、読み進めるのに、めっちゃ難儀しました。
だって、劣化が進んでヨレヨレのページに、掠れ気味の細かい字がび~っしりですよ。
そこから文字を読み解こうという行為だけて、かなりの集中力と眼力、そして気力を奪われるってもんです。(笑)
若い頃は、こんなんでもスラスラ平気で読めたのにねぇ。 はぁ。

しかし、その内容はと言うと、これがとっても充実していました。 ウン、素晴らしかった。

登場人物それぞれの人物像、立場や心理の細やかな描写。
会話の言い回しやら人間関係、台詞の端々から読み取れる、人生の機微とでも呼びたい味わい。
それらが実に好くってですね、今正に極上の小説に触れるているという充実感を味わうことが出来ました。

流石は推理小説の古典、クリスティの、そしてポワロものの代表作として遺るだけあるわいなと感じ入った次第。

        ▽▲▽▲▽▲

一篇の小説として、文学的にサスガ!と感じ入った本書ですけれど、では肝心の推理小説としてはどうなのか。

実は本書を読む以前に、作品評を(主としてネットで (^^ゞ)読んじゃいまして、この「アクロイド~」について言われる世間の評判(「完全に意表を突いた犯人!」とか、「これを読んでダマサれない人はいない!!」とか)を、いろいろ知り過ぎちゃったんですね。
なので、殺人事件の犯人について、途中かなり早めにの段階(登場人物たちが出揃ったあたり)で気が付いちゃいました。(^^ゞ

でも、どうやって犯行に及んだかのトリック(?)についてはさっぱりでした。
実は、読後の今になっても(私にとっては)複雑に過ぎて、よく理解出来ていないという。(爆)

発表当時、このトリックは果たして推理小説として(読者に対して)フェアか、それともアンフェアかって論争をひきおこしたらしいですね。
読み手がガチな推理小説ファンであるほど、著者にダマされ易い作品なのかも。

        ▽▲▽▲▽▲

面白いのは、登場する誰も彼もが、大なり小なりウソをついているという設定。
 
 
 
ポワロ 「先生、あなたもこの種の事件にたくさん関係されるとおわかりになると思いますが、ある一つの点については、みんな共通しているんですよ」

シェパード医師 「それはどういうことですか?」

ポワロ 「事件の関係者は、ひとり残らず、なにかかくすべきことをもっているということです」
 
 
 
皆々、心中に深く秘めた過去・人間関係・見栄・猜疑心・恋等々を(それが事件に関わりの有る/無いに関わらず)抱えていて、それが幾重にも絡み合っている。

つまり、ここで読者に提供される情報には、高確率でウソが混ざっていますってこと。

これじゃ、それぞれの証言を何処まで信じられるのか? 一体何を手掛かりに考えれば好いのか? 中々絞り切れないよ!(笑)

でも、想えば、人間のなすこと故、話しに嘘が混ざるくらい、当たり前のハナシではあるんですね。

そんな「アクロイド~」の世界。
登場する誰しもを、等身大の、生き生きとした、リアルなものに感じられます。
古い時代の、外国のお話しなのに。

        ▽▲▽▲▽▲

この推理小説、今また読み返してみているところなんです。 
こうすると、細やかに張り巡らされた伏線の一つ一つ、気付かなかった微妙な人間関係や感情の錯綜などを読み取ることが出来、面白さは倍増です。(^ァ^)

初読の時よりも再読の方が更に面白い推理小説。
こんなこと考えるのは、私だけでしょうか?(笑)

つまり私、この小説をもっぱら(群像劇形式の)文学作品として、愉しんでしまっているってことかも。 (要は、アタマを使わせられる推理小説についてゆけなかったワタシです orz)
 
 

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November 03, 2017

読書:垂直の記憶

 
 
 垂直の記憶 - 岩と雪の7章
 
 
    山野井 泰史 著
 

       2004年    山と渓谷社
 
 
ある時期、私はオートバイに(以前にもここに書いたことがありますけれど)どっぷりと、それこそ身も心も嵌まっていた時代がありました。 ライダーだったわけですね。

初めは手頃な250ccのオンロードバイクから。
コイツに跨り、あちこちと走り回り経験を積みながら、次第に行動半径を拡げていったんです。 バイクによる遠出=ツーリングの愉しみを覚えたのもこの当時。

        ▽▲▽▲▽▲

そのうちにオンロードバイクから、同じく250ccのオフロードバイクへと乗り換えました。
ツーリング途中で目にする風景、とりわけ山々の景観に心惹かれたんですね。
山間の(舗装された)道路を走る度、見え隠れする林道(こちらは未舗装の)というものの存在が気になってしょうがない私。 どうやら自分は、オンロード向きのライダーじゃあないなって自覚しました。(笑)

こうして2台目の愛車となったオフロードバイクで走破した丹沢山中の林道の数々、実に愉しかったです。 バイクに夢中の時期でした。

さて、そうして林道を走っていれば自然と、今度は登山道というものが目に付き始めるわけです。 はい、クルマ・バイクではなしに、山登りする人・ハイカーさんたちが利用する為の道です。
オフロードバイクを駆って林道を往く途中、時折現れる「登山道入口」の案内板が気になってしょうがない私。
もうこうなったら、飛び込んでみるしかないでしょう!

こうして私の山登りが始まりました。

        ▽▲▽▲▽▲

最初は地元に近い丹沢山塊から初めました。
まずは(得意の)オフロードバイクに跨り、林道を登山道の入口迄移動します。 バイクをそこらに停めて、ヘルメット・グローブ等を外し、オフロードバイク用の頑丈なブーツから、これまた丈夫な登山靴へと履き替えたら、いざ登山道へと踏み出します!

こうして登った丹沢の山々もまた好かったです。 バイク+登山ですから、流石に疲れましたけれど。 でもその分、倍愉しめるってもんです。

        ▽▲▽▲▽▲

仕事がとりわけ忙しい時期でしたけれど、それでも(なんとか休みをやりくりして)山行へと向かいました。
この私のささやかな日帰り登山はやがて、八ヶ岳や北アルプスの縦走へと発展していったんです。

その頃になると、はじめっから山の格好で(電車やバスを利用して)出掛けるようになり、最早バイクの出番はありませんでした。

そうしてとうとう実現した、山頂からその隣の山頂へ、山小屋からまた次の山小屋へと、歩いて繋ぐ縦走。 忘れ得ぬ、素晴らしい体験です。

あれから随分と月日が経ちました。

        ▽▲▽▲▽▲

でもね~、もう今は駄目っす。(笑)
バイクはもちろん、山登りにも行けませんって。
なにしろ病気しちゃったし。(^^ゞ

こんなことなら、丈夫なカラダでいる内に、もうちょっとハードな山登りとか、してみても好かったかもしれませんね。
でもまぁ、しょうがない。 人生いろいろです。

        ▽▲▽▲▽▲

マクラが長くなりました。

本書は著名な登山家・山野井泰史氏が数度に渡って敢行した、ヒマラヤの峰々への登頂記です。

この人の登山スタイルってのは、他の助けを借りない単独行、または(気心の知れた)数人の小グループで岩壁を登攀するというもの。

そうして、一つ頂上を極めたなら次は更に高い峰、より困難なルートへと向かうのです。 一種、求道者の趣がありますね。

本書ではヒマラヤのピーク、その幾つかを目指す姿が描かれますけれど、どのエピソードでも、余計な前ふりとかなしに、いきなり過酷な山登りの描写から入ります。 気取らず飾らず、簡潔にして明瞭。 そういうところ、如何にも山野井氏らしいと想います。

        ▽▲▽▲▽▲

山野井氏にとって初となったヒマラヤ登山。 ブロードピーク(8047m)で体験したそれは、大規模なチームを編成して、ベースキャンプを築いて山頂に臨むという、アルパインスタイルによる海外遠征でした。

実は山野井氏、団体行動の苦手な方のようで。(これは私も同じ)
そして、こういう大規模チームの場合、集団行動から来るストレスたるや大変なものなのだそうで。
大自然の中とはいえ、人間関係って奴はどこまでも付いて回りますからねぇ。
いえ、極限状況に置かれる分、余計にシビアかもしれません。
でも、ヒマラヤ登山のノウハウを学習する為、ここはあえて(苦手とする)大規模チームに参加したという山野井氏。 慣れないグループ登山も、将来の単独登山の為の布石。 用意周到です。

ともあれ、この時の(苦い)経験は決して無駄とはならず、後のヒマラヤ登山に生かされることになるんですけれど、それ以降は単独/または数人からなるフリークライミングに徹します。

        ▽▲▽▲▽▲

そんな山野井氏の山登り。
それは、用意周到な準備の上で、自分の可能性をギリギリまで試す(時には身体の一部を犠牲としながらの)攻めの登山でした。
実際、これまでに何度か命を落としかけ、でもその度に見事生還してみせます。
ここまで(死にそうな目に合いながら)やって、はじめて感じ取ることの出来る「生」ってもの、登った者にしか見えない何かが、そこにはあるんでしょうね。

常人とは根底から異なる、しかし(ある意味)羨ましくも感じさせられる人生観、そして極めて純粋で情熱的な生き方です。
 
 

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August 10, 2017

小説:高円寺純情商店街

 
 
高円寺純情商店街
 
 
  ・天狗熱
  ・六月の蠅取紙
  ・もりちゃんのプレハブ
  ・にぼしと口紅
  ・富士山の汗
  ・真冬の金魚
 
     ねじめ正一著
 
        1986年   日本
 
 
商店街ってのはイイものです。
これという目的が無くっても、一旦入ってしまえば愉しくなって時間を忘れてしまう。 なので、一旦入ってしまうと、これが中々出ては来れないんだよね~。

私が昔住んでいたところの隣駅には、それはそれは大きくて素晴らしい好い商店街があって、時折遊びに行ってました。 未だ、栄えているんだろうか?
今住んでいるところの隣駅にあたる京成大久保駅の付近にも、立派な商店街がありまして、ここも好く訪れます。
一方、京成谷津駅前のは、規模は小さいけれど、綺麗に整備されており、BGMにジャズが流れたりする小粋な商店街です。 ここも偶に行きます。
で、我が地元はと言えば、私が当地・津田沼に引っ越して来た時、既に商店街は姿を消していました。

wikipediaで「津田沼」を検索すると「津田沼戦争」(大手スーパー同士の生き残り合戦)なんて項が出て来るくらいで、市場として決して小さくはなかったと想うんですけれど、津田沼駅前の周辺に24時間(または深夜まで)営業の大型スーパーが続々と出来ちゃいましたからね。 商店街にあるような小店舗なんてひとたまりも無かった筈。
ともあれ、便利さの代償として失ったものは少なくないと想いますね。

        ▽▲▽▲▽▲

本書は詩人、ねじめ正一の自伝的内容の連作短編集です。
著者が多感な少年時代を過ごした当時の、高円寺駅前の商店街。 その内の一軒、削り節が評判の江州屋乾物店。 そこの一人息子・正一少年の視点から見た商店街、父と子、家族、商店主たちの姿。

乾物屋に生まれた子として、手伝いは日課のうちです。 正一少年にもいろんな役が、当たり前のように割り振られます。
他にも往時の乾物屋ならではの、深刻な湿気との戦い。 大手の乾物屋との受注を巡る戦い。 などなど、子供ながら(主として、店の存続に)あれこれと心を痛めます。 大変だねぇ。
その他にも、店員の青年の実らぬ恋に心を砕いたり、隣に化粧品店の仮店舗が出来たら周囲の情景が一変して見えちゃったり、家風呂が壊れて銭湯に行くようにしたら・・・・などなど、純情とはまさにこれです。

文章が流石に綺麗で、読んでいてなかなか気持ちの好い一冊でした。
野菜は八百屋で、鮮魚は魚屋、そして鰹節やタマゴは乾物屋でひとつひとつ買い求めていた頃(って、ボクなんかほとんど覚えていないけれど)の、昭和の商店街・純情だった少年の姿です。
 
 

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August 07, 2017

小説:下町ロケット

  
 
下町ロケット
 
 
   池井戸潤 著
 
       2010年  小学館
 
 
この小説のこと、以前、電車の車内広告やなんかで見たことがあるのを覚えています。
出版社としても大いに力を入れて、肝いり大プッシュしたのではないでしょうか。 ドラマ化もされていますね。

「下町ロケット」と聴いて、こちらで勝手に想像していた、小さな街工場のベテラン職人さんが技術を武器にして不可能との戦い・・・・とかではなかった。
これは、どちらかと言えば 中小企業 VS 大企業 の戦い(納品に至るまでの)だね。 こちらの方が、いっそ現実的なのかもしれないけれど。 ともあれ表題から想像していたのとは、大分違っていました。

        ▽▲▽▲▽▲

小さな町工場のオジサンが一念発起して、長年鍛え蓄えた匠の技で宇宙ロケットを打ち上げる、くらいに考えていたのが、実際は(こっちが勝手に想像していたよりも)もうちょっと大きくて現代的な企業の、ロケットに搭載するある部品(だが、とても重要な)を大企業に納品するお話であったんですね。 たしかにこの方が現実的ではあるわいな。

主人公である経営者の考えなきゃならないことは、技術者出身若社長の夢と言うよりもむしろ、お金・資金・特許・訴訟・ワナと騙し!・幹部の思惑・若い世代との乖離・などなど。 もはや経営者の視点で、せつなくて気の毒になってくるよ。

小説として、読者の期待を裏切るという意味では(ある意味)成功と言えるかもしれませんね。 オモシロいけれど、でも、自力でロケットを打ち上げるとか言う話ではなかった。
ただねぇ、小説は善悪の違いがくっきりとし過ぎです。 あまりにも人間描写が浅くって、もはや非現実的と言えるレベル。 登場人物がイイ奴/ワルイ奴に二極化されていて、これじゃぁ勧善懲悪の世界だよ。

主人公が技術者を志すも、いつしか経営者になっていて、今ではお金の心配ばかりしなきゃならなくなっている皮肉。 その悲哀は好~く判ったけれど。 ともあれ、読む前に想像していた内容とは大分違っていましたねぇ。
 
 

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April 15, 2017

小説:八日目の蝉

 
  
八日目の蝉
 
 
   角田光代 著
 
               2007年
 
 
ワタクシの中で、堅~く封印しておいた筈の角田光代作品。
以前『おやすみ、こわい夢を見ないように』(2006年)を読んだ折り、十二分に懲りてはいるんですけれど、その題名に惹かれて、つい(またしても!)手に取ってしまいました。 はぁ~。

お話しの内容、これが突拍子も無いものなんですけれど、でも、妙にリアリティを感じますね・・・・ひょっとして、本書を書く際にモデルとした事件とか、あったのでしょうか?

小説の序盤、世にも不幸な運命に弄ばれる主人公の選んだ道は・・・・世間一般の価値観、正義/倫理などから見て、あからさまに相反している、ある行いでした。

結果、主人公の数奇にして長~い逃避行が始まるのですけれど、でも私はこの間のシーンの一つ一つに魅了され、いつか夢中になって読み耽っていました。

主人公の選択、それはもう明白に許されざること、絶対ワルイことに違いないんですけれど、でもそこに、ある種、昇華された美しさを感じ取ってしまう。
どこか奇妙な感覚を味わいつつも、強烈に惹かれてしまったんですね。

文章が、静謐で抑えたものであるのに対して、ストーリー展開の方は、もう怒濤のそれ。
スゴイですよ、このお話しは。

ともあれ、私がこれまでに読んだ角田作品(と言っても、連作短編集『おやすみ、こわい夢を見ないように』の一冊のみナンですけれど)とはハッキリと違う味わいです。

これが前半。

        ▽▲▽▲▽▲

明確な二部構成を取っている本書。
後半になってから、かつての私が(『おやすみ、こわい夢を見ないように』で)体験したのと同様の、どよ~んと厭世的な角田世界に突入します。 あちゃ~。

ホント、虚を衝かれた格好でしたよ。
マァ、こうなるよね。 角田作品だもの。(笑)

そうは言っても、ここまで来たら、今更引き返せませんって。
後はひたすらに強行突破。 読破する以外の道は考えられませんでした。

結局のところ、私がかつて読んで辟易した角田ワールドに、またしても連れ戻されることに。 トホホ。

        ▽▲▽▲▽▲

そうは言っても、小説のお終いまで、私はキッチリとお付き合いしましたよ。
哀れな主人公の運命が気になってしまって、このまま放り出すわけには行きませんって。

相変わらずの完全なる女性視点に、終始傍観者の気持ちで立ち会ったワタクシ。
それにしても容赦の無い運命、と言うかプロットにみちみちた小説ですなぁ。

措辞、修辞の巧みさは相変わらずで、やっぱりこの作者の小説力は凄い、と再認識させられました。
好い小説には間違いありませんけれど、今回もまた、なんかこう、複雑な後味が残っちゃいましたね。 
  
 

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