おちおち死んでられまへん
おちおち死んでられまへん
<斬られ役ハリウッドへ行く>
福本清三、小田豊二著
集英社文庫 2007年
不肖なんであれ、その道一筋に生きて来たプロと言う存在に弱い。 今風に言えば、リスペクトする傾向にある。
己の役どころを心得ていて、やるべきことをきっちりと勤めあげる。 必ずしも陽の当たらない位置居たりするけれど、でも、その人が居なければ始まらないプロ。
本書の著者、東映京都撮影所に大部屋俳優として半世紀近く勤める福本清三さんもそんなプロ中のプロの一人である。
長年に渡り映画、テレビドラマに脇役として出演して来た福本さん。 中でもテレビ時代劇のラスタチ(番組クライマックスの大立ち回り)では、主演俳優に絶妙の呼吸で斬り掛かり、逆にバッサリ斬り倒される、そんな斬られ役の第一人者である。
本書は、福本さんが柔らかな関西弁で語るのを、小田豊二さんが聞き書きする形式で通しているため、福本さんの腰の低い、そしてユーモラスな人柄が直に伝わって来る。
特筆すべきは福本さんの慎ましさ、礼儀正しさ、優しさ、なにより感謝の心。
役者と言う仕事につき物の華やかな、敢えて言えば虚飾のイメージに反して、驚くほど謙虚で実直なのです。
かつての映画黄金時代から、長年に渡り脇役一筋に勤めてきたこの役者さんのその人生観、斬られ役としての経験談からは、愚痴や他人への悪口が一切出ない。 この本は、だから読んでいて、実に気分が良い。
長年に渡り、名斬られ役で鳴らした福本さんのファンは少なくなく、近年は東映太秦映画村で催される殺陣ショーでも活躍している。
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2002年。 定年を間近に控えた福本さんに、思いも掛けぬビッグチャンスが廻って来た。
トム・クルーズ主演のハリウッド作品、「ラスト・サムライ」への出演オファーである。
福本さんに振られたのは、主人公の警護/監視役を忠実に勤める寡黙な老侍、サイレント・サムライ役。
以下の引用は、40年を超える大部屋俳優人生の文字通りクライマックス・シーンとなった撮影風景。
映画「ラスト・サムライ」ご覧になった方もおられると思います。 出来得れば、映画のシーンを思い起こしながら読んでみて下さい。
<<< 引用はじめ
一番印象に残っているのは、私がトムさんを武士の家に案内するシーン。私が先にあがって、そのあとをトムさんが続く。私はこの時、胸の奥がじーんとしましたわ。
だって、そうでっしゃろ。
このシーン、トムさんを私が案内するんでっせ。
トムさんと私、ふたりだけですわ。ただ、歩いていく。
ただそれだけのシーンなんやけど、これ、私にとってはものすごいことなんですわ。
わかりますか。これまで私がやってきたことと言えば、スターさんとからんだシーンは立ち回りやないですか。それがただふたりだけで歩くんですわ。それも、世界のトム・クルーズと。
五台のキャメラがトムさんと私を追うんでっせ。
こんなこと、あってええんかいなって思いましたわ。
引用おわり >>>
万感胸に迫りますね。
福本さんの謙虚な姿勢はしかし、ハリウッド・デヴューを飾った後もまったく変わらない。
そこのところが、なにより凄いと想う。