« 海と生きる | Main | 永井荷風と谷崎潤一郎展 »

December 17, 2019

小説:ワンちゃん

 
 
ワンちゃん
 
 
   楊逸 著
 
       2008年  文藝春秋
 
 
 
  ・ワンちゃん
  ・老処女
 
 
 
拙宅周辺にあります何軒かのコンビニ。 その内で最も多く利用しているのは、県道沿いの100円ローソンだったりします。
お店で働いているのは、多くの場合外国人(とおぼしき人々)ですけれど。 当たり前すぎて(フツーに世間話 (^ァ^) を交わしたりしますし)今では何の感慨もなくなりました。
まぁこんなのは、今時どこのコンビにで同様に見られる風景でしょうけれど。

ともあれ、使っている当の日本人ですら、難しくて途方に暮れる (^^ゞ ことすらある日本語。
異郷で、その地の(複雑極まる)言語を習い覚え、使いこなして(レジがバーコード対応されて、やり易くなっているとは言え)働こうって言うんですから、これってもう、スゴイ行動力/バイタリティーと想うワケです。 逞しいねぇ!

        ▽▲▽▲▽▲

さて、本書は楊逸のデビュー作です。
中国ネイティブの著者ですけれど、この作品は最初から日本語で書いたらしいですね。
世に出て早々に文学賞を受賞した他、芥川賞候補にまでなっています(後に別作品で受賞)。
これだけ見ると、順風満帆と言う印象の著者ですけれど、ここまでの道程は(本書の二編の主人公たちの運命と同様)苦労が多かったようですね。

        ▽▲▽▲▽▲

デビュー小説「ワンちゃん」


※ 中国で、遊び人の亭主に散々苦労させられた挙句、ついに日本まで逃げてきたワンちゃん。
日本人と再婚して改名しますけれど、旧姓が王だったので、その後もワンちゃんで通ってます。
中国では女一人ファッション関係の会社を立ち上げ(スゲェ!)、一頃は改革開放の恩恵を受けて羽振りの好かったワンちゃん。
でも、日本に来た当初は言葉も不自由でしたし、まして商習慣とか、まるで判らないワンちゃんです。
(中国でやっていたような)商売はムリとみたワンちゃんが(なにも判らぬまま)徒手空拳で始めたのが、国際結婚の紹介業。
日本で結婚志望の男性を募り、中国で相手の女性を見つけて、くっつけるというものです。

さて、日本でワンちゃんの下に集まったのは、過去に結婚で失敗した男とか、勘違いした(スケベ)男とか・・・・
一方中国側でも、日本に行きさえすれば、裕福で快適な暮らしが出来るものと期待して集まってくる女たち。 あるいは、中国に居づらくなった(離婚、嫁ぎ先との関係悪化などなど)女性も。
お互いの思惑/利害がビミョーに食い違い、あるいは勘違いして、この男女たち、果たしてダイジョウブなのか?(笑)


なんか、日中互いの文化への勘違い/差異にまつわるドタバタが噴出しそうで。(^ァ^)
風刺の効いたコメディになりそうですけれど。(笑)

でも、小説「ワンちゃん」、そうとはなりませんでした。(^^ゞ
お話しが、次第にシビアな展開へと移ってゆくのが、楊逸の持ち味のようですし、そこに妙味・文学性を感じます。
あるいは、ここには、来日して苦労を重ねた著者の経験/人生観が反映されていると言うべきなのか。

お話しは、ワンちゃんが請合う結婚志望の客(とその老母)のエピソードと、ワンちゃん自身の義母とのエピソードとが、交互に進行してゆきます。


客の老母 「うちの介護のことでも考えてやろか、この間、急に結婚する言うて五月の連休に中国へ行くってな。吃驚したけん、けどな、これで落ち着いてくれたら、うちも安心して死ねるんやから・・・・
  ~ 中略 ~
けどな、良い人を紹介してもらわんとな、顔が綺麗な人より優しい人が・・・・一緒に苦労してな、うちのことはなんでもかまわんで良いけ、勝雄と店のことを手伝ってくれたら・・・・あと、孫の顔を見たいけん。腰が悪くても、子守は出来るけん・・・・」

ワンちゃん 「お婆ちゃん、私の紹介、安心ください。良い女を、絶対」


日本人のそれとはビミョーに異なった習慣/倫理観の中で生きるワンちゃん。
異郷で逞しく生きる、なにより心優しいワンちゃんを待っている、シビアな(に過ぎる)運命が、なんとも切ないです。

他の(日本語ネイティブの)小説家とは微妙に異なる文体や、言葉遣い/措辞と、日中の狭間で逞しく生きているワンちゃんのポジション(それはまた著者の立ち位置でもあります)とが重なって感じられ、心を揺さぶられました。

ワンちゃんの人生/旅路は続きます。

        ▽▲▽▲▽▲

単行本化された際の書き下ろし小説「老処女」


※ 中国で生まれ育ち、大学では児童心理学を選択。
日本の大学に留学した後、現在は大学講師を務める主人公。
博士号を目指していますけれど、これが、なかなか上手くいかない様子。
博士と呼ばれるまでは、と独身を貫いて既に四十代。
そんな折、お相手として過不足の無い助教授(日本人)が赴任して来ます。
ここへ来て、結婚を意識し始めた主人公は・・・・


上記の「ワンちゃん」と同様、ここでも<異郷の地で頑張る中国人女性>が描かれ、小説として、より巧みなものとなっている気がします。
でも、よりシビアでストレートな展開を見せる分、「ワンちゃん」(こちらはまだ、淡い悲恋でしたから)よりも余程切なかったですねぇ。
日本まで来て踏ん張る主人公には、やっぱりシアワセになって欲しかったなぁ。
読む者をして、そう想わせるところ。 独特の切ない読後感が、楊逸文学ということなのかもしれませんね。

 
 

|

« 海と生きる | Main | 永井荷風と谷崎潤一郎展 »

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)




« 海と生きる | Main | 永井荷風と谷崎潤一郎展 »