« 台風15号舐めてました (>_<) 2 | Main | 九月の通院 »

September 14, 2019

読書:潜水服は蝶の夢を見る

 
  
潜水服は蝶の夢を見る
Le scaphandre et le papillon
The Diving Bell and the Butterfly
 
 
      ジャン=ドミニック・ボービー 著
 
 
                1997年   フランス
 
 
未だ眼の具合が回復しない私。
視野の半ば以上に渡って、ものが二重に見えているんです。
眼科医院には通ったんですけれど(今は治療そのものは一時休止して)少し様子をみましょうってことになっています。

そんな中、ゆっくりゆっくり読み進めたのが本書「潜水服は蝶の夢を見る」でした。
時々、片側の目を瞑って字を追ったりしてね。(こうすると、ちゃんとひとつに見えるんです(笑))
ともあれこの本、信じ難い、途轍もない一冊でした。

        ▽▲▽▲▽▲

「ELLE」(エル)という雑誌をご存知でしょうか?

フランス発の婦人誌。
ファッションの本場(!)パリの空気を伝える、世界のトップ・ファッション誌なんだそうで。
60箇国以上に渡り、43もの(各国向けの)版が出版されています。

我が国では「ELLE japon」と称した日本版が発刊されているそうなんですけれど、オレなんかまったくの未読・・・・ というより、書店でその手の雑誌の置かれたコーナーに近寄ったことすらありません。(笑)

        ▽▲▽▲▽▲

さて本書の著者ジャン=ドミニック・ボービーは、執筆前まで本家本元・フランス版「ELLE」誌の編集長を務めていたという男性です。

若い頃こそ硬派なジャーナリズムの世界で活躍したものの、あちこち経巡った末に落ち着いたのが、ファッション誌「ELLE」の編集長という仕事。

多彩な人生経験を積んだ四十代にして、二人の子供、離婚暦もあり。
如何にものヤリ手、口八丁手八丁で、更にちょいとイケメンらしいんですけれど、天下の「ELLE」誌編集長ともなれば、そりゃモテるでしょうよ。(笑)
人生の酸いも甘いも噛み分けて来た、チョイワルなトップ女性誌編集長なわけですね。

さて、功成り名を遂げて、今正に人生の絶頂期に居る男が、ある日突然の発症に見舞われます!
身体の自由が一切利かなくなってしまったジャン=ドミニック。
医師からは「ロックト・イン・シンドローム」なる難病と診断されます。

        ▽▲▽▲▽▲

こうして寝たきりとなった彼。
歩いたり喋ったりはおろか、指一本動かすことすら出来ませんけれど、それでもアタマは明晰ですし、視覚/嗅覚/聴覚なども未だ自由を失っていません。
つまり、身体のインプットの方は(いろいろと制限付きながら)受け付けても、アウトプットの一切が出来なくなってしまったんです。

半生を言論/出版の世界で生きて来た(例えそうでなかったとしても、ですが)この男にとって、これは過酷に過ぎる運命の変転でした。
そんな中、唯一残されたコミュニケーション方法が、左の瞼の動きを使ってメッセージを発信するというもの。

ジャン=ドミニックにとって今や身体中で唯一、自らの意のままになるのが左眼。
そのマブタをパチパチ開閉させて、そのオン・オフを用いてウイ/ノン(イエス/ノー)やアルファベット各文字を指して会話するっていうんですけれど、これって介護の世界で、こういった症状の患者さん向けに開発された手法らしいですね。

こうやって会話を成立させていくのって(もう気の遠くなりそうな)とても手間の掛かる作業(!)ですけれど、身体の自由を封じられた「ロックト・イン・シンドローム」患者にとって、コミュニケーションの手段は(もはや)これしかないんです。

        ▽▲▽▲▽▲

ベッドに横たわったまま、まったく身動きの取れないジャン=ドミニック。
喋れず、手の自由も利かない以上、残された左目のマブタの動きで意思を伝えるしかありません。

始めは医師や看護師や介護士、そして見舞い客との簡単なやりとりから。
やがて編集者をベッドサイドに呼んで、文章を書き留めて貰うということを始めます。(「病牀六尺」は、それでも自分で筆を執ることが出来ましたから、あれよりも更に過酷な状況ですね)

瞼を開閉させることで、アルファベットのを一文字一文字を伝えてゆくって言うんですから、これは大変な根気と労力ですよね。
そこからは、止むことのない創作意欲。 生きている証左を残したいというマスコミ人としての意地と執念を感じさせられますね。

著者は本書に綴られた一篇一篇について、まずはアタマの中で文章を完成させておいて、そのアルファベットの一文字一文字を、瞼の開閉(延べ二十万回にもなるそうな)だけで、ベッドサイドに控えた担当編集者に伝えたと言います。

そんな、世にも稀な事情の中で綴られた文章。 それは、ハンディを感じさせない、あまりにも巧みなものでした。
アウトプットにおっそろしく手間の掛かる分、ギリギリに研ぎ澄まされた表現になるのかもしれませんね。

        ▽▲▽▲▽▲

序章と28編の散文は、
・闘病生活、・ベッドから見た病院の暮らし、・(発症する以前の)想い出、・家族への想い(とりわけ老父と子供たち)、・昨夜の夢、そして ・発症した(あの、運命の)日のこと、
などなど、その内用は多岐に渡っており、それらが、冷徹な観察力/洒脱とユーモア/皮肉とウィット/趣味の好い文学性を持って描かれます。

「入魂の一冊」という表現の、これほど相応しい作品を他に知りません。
人間の意志の力というものを強く実感させられる、掛け値無しに驚くべき一冊でした。
 
 

|

« 台風15号舐めてました (>_<) 2 | Main | 九月の通院 »

Comments

こんにちは
なんかすごい本ですね!
雑誌エルは買ったことはないけれどいつも書店で立ち読みしてます。
編集長でしたか~
今度書店に行った時探してみますね。

眼の具合よくなるといいですね。
無理しないでくださいね。
 

Posted by: みい | September 15, 2019 01:56 PM

>みいさん
 
ありがとうございます。
眼の具合と相談しながら、無理のない範囲内で愉しんでいます。(^^ゞ
 
ELLE誌のこと、やはりご存知でしたか!(^ァ^)
(私などには、まるで縁のない雑誌でしたけれど)愛読者の方ならば、著者の数奇な運命に、尚のこと感じ入るものがあるのではないでしょうか? お手に取る機会がありましたら、是非。(^ァ^)

Posted by: もとよし | September 15, 2019 08:17 PM

Post a comment



(Not displayed with comment.)




« 台風15号舐めてました (>_<) 2 | Main | 九月の通院 »