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November 25, 2018

読書:もっとヘンな論文

 
  
もっとヘンな論文
 
 
   サンキュータツオ 著
 
     2017年   角川学芸出版
 
 
サンキュータツオのヘンな論文集第二弾です。

まことに慶賀すべきことに、前作「ヘンな論文」は好評裏に迎えられているようで。
あちこちで紹介され/取り上げられて、実にイイ感じで受容されているみたいですね。
今回も、他の誰もが顧みることのなかった、世にもユニークな論文の数々が紹介されました。

前作「ヘンな論文」で、取り上げた論文を面白おかしく(そこは芸人と言う、本書執筆者のキャラクター上)紹介したことで、これは著者から嫌がられるカモ、といった懸念もあったみたいですね。
でも、こうして取り上げらることで、対象の専門分野に限らず、各界から注目されることもあるなど、論文執筆者側からも喜ばれているみたいです。
ウィンウィンの関係が出来上がっているようで。 好きかな、よきかな。(^ァ^)

今回も例によって各章毎の表題と、そのネタとなった論文の題名・著者名・掲載誌を併記した上でコメントさせて頂きマ~ス。(笑)

        ▽▲▽▲▽▲

<一本目> プロ野球選手と結婚する方法

 向井裕美子(2008)
  「プロ野球選手と結婚するための方法論に関する研究」

   明治学院大学 卒業論文


まずは女子大生の卒論からですよ。
女の子ならば当たり前に夢見る/時に想い悩む、結婚ということ。
その理想の相手としてプロ野球選手を想定して、その実現方法について考察するって、テーマがド直球過ぎでしょ。(笑)
でも、プロ野球選手と結婚する方法くらい私にさえ判る。 まずは女子アナになれってことですよねぇ。(違)

ともあれこの研究、古くは王・長島。 ちょっと以前ならばイチロー、松井といったスーパースターは別格として、ここでは一般的(?)な野球選手の暮らし/人生模様を分析。

プロ野球選手の皆さんがどんな相手とどうやって出会い、ゴールインするかについて究明してみせます。
 
        ▽▲▽▲▽▲
 
<二本目> 「追いかけてくるもの」研究

  三柴友太(2009)
  「「追いかけてくるもの」研究ー諸相と変容ー」

   『昔話伝説研究』第29号 昔話伝説研究会


独り夜道を歩いていると何者かが追い掛けて来る、的な伝説はあちこちにあるようですね。(なんか 水木しげる っぽい?)
各地に伝わる同様の伝説を収集(追い掛けて来るのが、車やバイクだったりするのが現代的!)、二十一世紀の伝説として分析してゆきます。


※ ここで、わたしの採取した事例をば。(笑)

ワタクシ、若い頃はバイクに夢中で、北海道へとツーリングに出掛けたりしたモンです。
その折に知り合ったライダーさんから聴いた話しで、「仮面ライダー」の噂を聴いた事があります。

なんでも、仮面ライダーがバイクで道道を走っているんだとか。(笑)
で、ツーリング中の他のライダーに「私は普段あまり走らないんだが。 (こうして出会うことの出来た)君は運が好いよ (^ァ^) 」的な意味のことを語って走り去って行くらしいです。
生憎と私は目撃出来なかったですけれど。 会ってみたかったねぇ。(笑)

        ▽▲▽▲▽▲

<三本目> 徹底調査! 縄文時代の栗サイズ

 吉川純子(2011)
  「縄文時代におけるクリ果実の大きさの変化」

   『植生史研究』第18号ー第2号


古代人が遺跡に残した食物の中に栗があったってのは、私も知識として知っていました。
でも、その<大きさの変化>に着目するとは!
筆者はここで「クリの大きさ指数」なる計算式を発案。
なんかヨク判んないんですけれど(笑)、ガチに理系の世界ですよ!
そして、一口に縄文時代と言っても長期(127世紀もの超長期間!)に渡るわけで、その間の気象の変化という事も関わって来る問題でしょうね。

        ▽▲▽▲▽▲

<四本目> かぐや姫のおじいさんは何歳か

 東崎雅樹(2012)
  「竹取の翁の年齢について」

   神戸学院大学人文学部 卒業論文
 
 
これも卒論です。
あの「竹取物語」に登場する竹取の翁。
翁とか言うから、私なんて漠然と、お年寄りとだけ想っていたんですけれど。 その具体的な年齢については、かねて学会でも論争のタネとなって来たらしいですね。 なんでも研究するモンだ。(笑)

卒業論文に取り掛かるに当って、著者はここで学生さん(初学者)らしい、常識に囚われないアプローチを取り入れました。
作品そのものを、改めて徹底的に読み込んだ結果、そこまでお年寄りじゃあなかったろうって結論に。
つまり千年前にこれを書いた作者って、話を結構大袈裟に「盛る」タイプだったんじゃあないかって勘ぐり始めます。(笑)
不詳となっている「竹取物語」作者の人間性までが浮かび上がって来ます。 お見事。

        ▽▲▽▲▽▲

<五本目> 大人が本気でカブトムシ観察

 佐々木正人(2011)
  「「起き上がるカブトムシ」の観察ー環境-行為系の創発」

   『質的心理学研究』第710号


子どもたち大好きカブトムシ。(^ァ^)
これ、オレも夏休みの自由研究でやってみたかったね。(笑)

たかがカブトムシですよ。
ひょいとひっくり返したヤツが、なんとか自力で起き上がるまでの工程を、大の大人がわざわざ研究しますか? したんだね。(笑)
捕まえて来たカブトムシを部屋に放して遊ぶ、みたいな行為から、研究論文をまとめるんですけれど、その文体が実にオモシロイ。

通常、我々がなんらかの文章を読解する場合(例えば横たわった体位から、立ち上がるまでの行為)その主体は(特別な例外を別として)両手両足を備えた者、という前提で読むわけですけれど、それがここでは、脚を6本(手は無い)持つ主体について、緻密な文章で描かれます。 これは、新しい文学/六本足文学の誕生だ。(笑)

それにしても、夏休みの自由研究みたいなこの論文から、唯一無二のオモシロさを見出したサンキュータツオの慧眼!

        ▽▲▽▲▽▲

<六本目> 競艇場のユルサについて

 安藤昌子(2007)
  「曖昧さが残る場所ー競艇場のエスノグラフィーー」

   『現代風俗学研究』第13号


ギャンブルの現場でなければ、見えないものがある。

我が家の近所には中山競馬場がありまして、開催日なんか、近所の路を競馬ファンが次々と通過してゆきます。
一方、近隣の船橋には船橋競馬場。 そして、その近くには(既に閉鎖されていますけれど)オートレース場もありました。
競艇なら、これまた近隣の新習志野(ボートピア習志野)ですね。
競輪場は無いですけれど、以前私が住んでいた多摩川沿いには京王閣競輪場ってのがありました。(^^ゞ
ともあれ、賭け事一通りが揃っている当地って、ひょっとしてギャンブル天国?(笑)

さて本稿の著者は、研究のフィールドとして選んだ競艇場に通う内、その魅力の虜となってしまい、ついには、そこの売店でバイトまでしたらしいです。(笑)
これは、熱心に研究を続ける内に、その対象に取り込まれてしまったパターンですね。(笑)

果たして、今の競艇場はお年寄りなど、他に行く所が無くなってしまった人々にとっての、オアシス的な存在となっているんだとか。 競艇場の懐深さ。
こういうのって競艇場に特有の現象で、他のギャンブルには見られないものなんだそうな。
研究対象に対する愛を感じさせられる論文。

        ▽▲▽▲▽▲

<七本目> 前世の記憶をもつ子ども

 大門正幸(2011)
  「「過去生の記憶」を持つ子供について ー日本人児童の事例ー」

  『人体科学』vol.20
 
 
あなた、生まれ変わりって信じますか?

え~、ここへ来てオカルトですかぁ?(違)
オレ的に、ちょっとばかり苦手なんですけれど。(^^ゞ

なんにせよ、事象を根拠もなしに否定することこそ、一番非科学的な行為。
反証する根拠無しに、「そんな馬鹿な」とか、「ありえない」とか、断定する姿勢それ自体、科学とは相反するってワケです。

そこで、筆者はこれを(ニガ手とか言わずに (^^ゞ )真っ向から研究するわけですね。
研究方法にも色々とあるけれど、これは研究対象となる相手、つまりサンプルがたった一人(=生まれ変わった少年)というパターン。
言わずもがなですけれど、とてもとても真面目で地道な研究です。

        ▽▲▽▲▽▲

<八本目> 鍼灸はマンガにどれだけ出てくるか

 有馬義貴ほか(2011)
  「マンガの社会学:鍼灸・柔道整復の社会認知」

  『健康プロデュース雑誌』第6巻 第1号


マンガを沢山集めまして、その中で鍼灸を扱っている作品がどれだけあるのかを調べるという研究です。
鍼灸というものを世に広めたい/盛り上げたいの一念から始まったのかもしれません。
けれどもこの論文、サンプルが極端に過ぎて、イマイチ納得出来なかったですねぇ。(^^ゞ
扱った数として充分かと言うと、マンガはまだまだ幾らでもあるわけで。
でも実は、サンプル中に幾つか読んでみたいタイトルもありまして。 (研究とはあまり関係ないんですけれど (^^ゞ )

ところで、こういうのって事前にデータベースとか構築されていれば、即座に検索出きるんじゃないでしょうか?(それが文字による検索なのか、画像なのかは、好く判らないけれど)
ことマンガに関して、データのインフラ化ってのがまだまだ未開拓だなって想いました。

因みに著者の勤務校、私と遠~い縁のあるトコロでした。(^ァ^)

        ▽▲▽▲▽▲

<九本目> 花札の図像学的考察

 池間里代子(2009)
  「花札の図像学的考察」

  『流通経済大学 社会学部論叢』第19巻 第2号


花札のデザインに関する研究です。
その遊び方とか、とんと判らない私ですけれど、図案の幾つかについては知っていました。 中々味わいのあるデザインですよね。

そんな花札の図像についての研究論文。
そもそも、花札のデザインってひとつと決まっているの? ってギモンがあります。
例えばこの論文の対象となるのって、任天堂とかから出ている花札一種類が対象のようですけれど、他にメジャーとなり損ねた図案とか、あるんじゃないでしょうか。

花札って、ホントはもっと多彩な種類があるのでは? なんて想うわけです。
そんな非主流派花札の由来とか、土地毎の特長とか、時代による変遷とかも、研究対象となるんでは? なんて、素人なりに考えちゃいました。

        ▽▲▽▲▽▲

<十本目> 「坊ちゃん」と瀬戸内航路

 山田迪生(2009)
  「「坊ちゃん」と瀬戸内航路」

   『海事史研究』第66号


今回の白眉はこの論文。

押しも押されもしない国民文学「坊ちゃん」。
その坊ちゃんが東京から松山へと向かった道程って、夏目漱石が松山に赴任した際に使ったコースと重なるんでしょうけれど、ならば具体的にどんな経路を辿ったのか?

通説では、広島経由の海上ルートで松山に渡ったとのことですけれど、船舶史の研究家である著者は、そこに(往時の客船事情に詳しい方ならではの)疑問を抱いて研究を開始。
漱石と言えば数多の研究者によって調べ尽くされている筈の文豪ですけれど、ここに未だ知られていない盲点があったワケです!

長年蓄えた専門知識を生かし、さらに研究者間のネットワークをも駆使して、従来の定説を見事にひっくり返して見せる著者。
文豪が東京から松山へと向かう旅、その(わずかな期間とはいえ)文学史上の空白を明らかにしてゆく過程のスリリングさ!

本当に見事で、ヘンな論文ハンターのサンキュータツオがすっかり惚れ込んでしまう程の、滅多に出会えない逸品と言える論文でした。
仕舞いには、人間・夏目漱石の存在感、その日常さえ浮かび上がって来る、素晴らしい研究。
と言うか、ホントに面白かった。
 
 

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