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July 29, 2018

読書:ヘンな論文

 
  
ヘンな論文
 
 
 サンキュータツオ 著
 

    2015年   角川学芸出版
 
 

サンキュータツオ:
「美しい夕景を見たとき、それを絵に描く人もいれば、文章に書く人もいるし、歌で感動を表現する人がいる。
しかし、そういう人たちのなかに、その景色の理由を知りたくて、色素を解析したり構図の配置を計算したり、空気と気温を計る人がいる。それが研究する、ということである。」

        ▽▲▽▲▽▲

世に数多あるの論文の中から、絶品、あるいは珍品とも呼べるこれらを掘り出した、この本の著者の嗅覚/眼力、スゴイと想います。

そして、これらの論文が図書館で、閲覧可能なように供されているっていう事実も素晴らしい。 宝物はすぐ傍に眠っていて、それを掘り起こすかどうかはアナタ次第と言う事。

以下、各章毎の表題と、そのネタとなった論文の題名、著者名、掲載誌を併記した上でコメントさせて頂きます。(ヘンな論文に、お堅い表題の取り合わせがオモシロくって(^^ゞ)

        ▽▲▽▲▽▲

一本目 「世間話」の研究

  「奇人論序説 ーあのころは「川原町のジュリー」がいたー」
     飯倉義之 2004年『世間話研究』第14号


「ジュリー」ってのは無論、あの沢田研二のこと。
かつて京都川原町に棲んで居た(故人)という伝説のホームレス、人呼んで「川原町のジュリー」(ソックリなのだとか)のことを、あらゆる伝手を辿って調べ上げました。

これだけなら噂話。 文字通りの世間話に留まりそうなもんですけれど、それをアカデミックにまとめ、こうして研究論文としてアウトプット。

テーマこそ街の雑学的なものながら、これ、至極まっとうな論文と想います。
まさに「川原町のジュリー」を通したひとつの郷土史、地域社会論となっている。

おそらくは、こういう伝説的な存在って、どこの街にも居るんでしょうね。
それは特定の人物だったり、場所であったり・・・・

「川原町のジュリー」的存在、必ずや我が街にも居るハズで。
でも、ここまでディープな「世間話」って、そこまで喰い込むのには、かなりハードル高そう。(笑)
子供の頃からずっとひとつ処に住んでいればなぁ、っとか想うのはこういう時です。

        ▽▲▽▲▽▲

二本目 公園の斜面に座る「カップルの観察」

  「傾斜面に着座するカップルに求められる他者との距離」
     小林茂夫、津田智史 2007年『日本建築学会環境系論文集』第615号


港の見渡せる(ロマンティックな(^ァ^))公園の斜面に座り込み愛を語らう、幾組かのアベックの、互いの距離感(場所の陣取り方)と、その振る舞いは?(笑)。

これって、確かに建築・都市デザインにまで応用出切るテーマなんですね。
その方面的に、貴重なデータなんでしょうけれど、それにしても、こんなテーマまで大真面目に論文になってしまう面白さ。(笑)

観察にあたっては、配下の学生たちに二人ずつ男女ペアを組ませて、件の公園に投入したらしいです。
これ、観察する側もアベックにせざるを得ないワケですね。(これが単独、特に男子学生に独りで観察なんかさせようモンなら、確実に覗きと誤解されちゃいますからね(笑))

学業の為とは言え、図らずも(?)ペアを組まされる男女学生たちが、周囲のアベックたちの行動を逐一観察/記録・・・・

まるで、これからラブコメでも始まりそうな、この設定からして、もう可笑しい。(^ァ^)
ちょっと羨ましいゾ?(笑)

        ▽▲▽▲▽▲

三本目 「浮気男」の頭の中

  「婚外恋愛継続時における男性の恋愛関係安定化意味付け作業
     ーグランデッド・セオリーアプローチによる理論生成ー」
   松本健輔 2010年「立命館人間科学研究」21


浮気男の心理を研究したんですって。(^^ゞ
まずは、よくもまぁ研究が成り立つ程の、何人もの浮気男たちを見つけたものと感心させられます。
と言うか、ここに集められたのは、浮気男でかつ、その武勇伝(?!)を研究者に語ってしまう程のお喋りサンと言う共通点があるワケですね。

浮気男の心理と向き合う内、その深部に潜む、悔恨や満たされない心根までも探ってしまう研究者。

        ▽▲▽▲▽▲

四本目 「あくび」はなぜうつる?

  「行動伝染の研究動向 あくびはなぜうつるのか」
   本多明生、大原貴弘 2009年『いわき明星大学人文学部研究紀要』22


アクビって人に伝染しますよね。 ハイ、ごもっとも。
で、その研究論文なのだそうで。

ここでは被験者に、第三者が欠伸をするビデオを見せて、それがうつるかどうか確かめたりするんですけれど、それで大丈夫なのかなぁ?
オレが被験者だったら、緊張してしまって、アクビどころではないと想う。(笑)

この論文の、医学からでも、また動物学からでも無いアプローチは、なんか方向が違うのでは、と想わせられますけれど。
でも、一見して無駄とも想われる実験を繰り返して、可能性をひとつひとつ潰してゆき、真実に近づくのが学問と言うもの。

因みに、犬や猫の欠伸まで取り上げていますけれど。 イヌ・ネコのするアクビって彼(女)らにとって言語の一種なんじゃあ?(笑)
これって動物行動学の視点から眺めたほうが良かったのでは? なんて想いました。

        ▽▲▽▲▽▲

五本目 「コーヒーカップ」の音の科学

  「コーヒーカップとスプーンの接触音の音程変化」
   塚本浩志 2007年『物理教育』第55巻 第4号


日々の生活の中で、ふと湧いた疑問。 身近なテーマに自由な発想。 これ、夏休みの自由研究みたいなのが微笑ましい限りです。
実際、生徒のふとした疑問からスタートした、著者と生徒との共同研究らしいですね。

専門の計測機(お高いんでしょ?)を持ち出し、実験を重ねて精度の高いデータを求め、それらを解析した末、遂にナットクの研究成果をアウトプット。

研究の成果も然ることながら、幾つも仮説を立てて、実験を重ね、次第に核心に近づいてゆく姿勢に感動させられました。

研究課題を追い掛けて、突き詰めてゆく過程を知ることの出来た、素晴らしくスリリングな一章でした。

※ 因みに、表題の「~音程変化」は、「~音高変化」と記すのが適切ではないでしょうか?

        ▽▲▽▲▽▲

六本目 女子高生と「男子の目」

  「男子生徒の出現で女子高生の外見はどう変わったか
     ー母校・県立女子高校の共学化を目の当たりにしてー」
   白井裕子 2006年『女性学年報』第27号


世は男女共同参画社会に向かって邁進!
著者の出身高校も(卒業してから後に)女子高から共学へと切り変わったそうです。
男女共学? 大いに結構じゃないですか。

しかし、そのことで、女子高時代には確かに在ったと言う(傍に異性が居ないことで実現した)女たちの自主独立の気風/気概が失われてしまったそうな。

研究により明らかとなったのは、目の前に異性が居ることで、女の子は女らしくという風潮が自ずから現れるという現象。
それを受けて、今時の母校の女子たちはふがいない! と、この女子高(時代)出身の著者は義憤に駆られるのであります。

女性ならば、社会に出る前に一度、男抜きの社会、オンナ主体の社会というものを経験しておくことも、これはこれで貴重な財産足りうるのかも、ですね。
あるいは、これこそが女子高というものの存在価値であって、無論それは、男子校の場合にも言えることなのかも。
因みに私、男子校出身者です。

        ▽▲▽▲▽▲

七本目 「猫の癒し」効果

  「大学祭における「猫カフェ」の効果
    ー「猫カフェ」体験型のAAE(動物介在教育)が来場者に及ぼす影響ー」
   今野洋子、尾形良子 2008年『北翔大学北方圏学術情報センター年俸』


学園祭で猫カフェ。(^ァ^)
って、今時如何にもありそうな企画ですけれど。
これはその猫カフェを研究対象としてものした論文です。

但し、あんまり面白くはなかったですねぇ。(^^ゞ
データの取り方が、利用者の感想主体で、そこに科学を感じ難いんです。
当たり前な結果が出たとして、それはそれで(研究として)意義あるものなんでしょうけれど。
「カワイイは正義」は大正論として、でもワタシ的に、それのみでは論文として物足らないと想うのです。

        ▽▲▽▲▽▲

八本目 「なぞかけ」の法則

  「隠喩的表現において“面白さ”を感じるメカニズム」
   中村太戯留 2009年『心理学研究』第80巻 第1号 日本心理学会


なぞかけによって起こる笑いがテーマだって言う割りには、被験者に聴いて貰うなぞかけの内用がイマイチ面白くないのね。(^^ゞ
これ、調査対象を(手近な?)学生たちに絞っているのが原因かと想います。 その分、奥の浅いものになっちゃってる。
年齢や職業など、調査対象をもっと広く取ったら、果たしてどんな結果になったか、ちょっと興味アリマス。

なぞかけを聴いて、実際に笑いが起こるまでのスピード、所要時間に着目した点はとっても良かったと想います。

        ▽▲▽▲▽▲

九本目 「元近鉄ファン」の生態を探れ
  「オリックス・バファローズのスタジアム観戦者の特性に関する研究
   ー元大阪近鉄バファローズファンとオリックス・ブルーウェーブファンに注目してー」
   永田順也、藤本淳也、松岡宏高 2007年『大阪体育大学紀要』第38巻


プロ野球の近鉄とオリックスって合併してたんだ? え! いつの間に?(^^ゞ
恥ずかしながら、そんなことも知らなかった罰当たりなワタシです。orz

プロ球団の合併直後というタイミング。 その時に元の、各チームのファンの気持ちは果たして如何ばかりであろうか? また、統一後の新チームと、どう向き合うのか?

合併なんて何十年に一度? 滅多にはあり得ないコトだけに、研究者として、正に千載一遇のチャンスでありましょう。

セレブな元オリックスファンと、庶民派の元近鉄ファンという、あまりにも判り易い対立構造。
十二分に予想され得たコトながら、やはり、そういう結果になりますか。(笑)
着眼点が実にオモシロイ。

        ▽▲▽▲▽▲

十歩目 現役「床山」アンケート

  「現代に生きるマゲⅢ~大相撲現役床山アンケートから~」
   下家由紀子 2008年 『山野研究紀要』第16号 山野美容芸術短期大学


みんな大好き大相撲。(^ァ^)
中でも、床山さんの存在に着目したのは好かった。
でもアンケートの内容がちょっと物足らなかったですね。
これ、まずはアンケートのたて方が上手くないと想うんですね。
これでは、回答する側が飽きてしまいそうで。
実際、得られた回答も、ありきたりでイマイチ面白くなかったですし。(^^ゞ
アンケートの工夫次第で、もっと面白くなるハズ。 と想いました。

それにしても、もはやエンタメに対するような態度で、論文に臨んでいるワタシ。(^^ゞ

        ▽▲▽▲▽▲

十一本目 「しりとり」はどこまで続く?
  「最長しりとり問題の解法」
    乾 伸雄、品野勇治、鴻池祐輔、小谷善行 2005年
   『情報処理学会論文誌:数理モデル化と応用』vol.46


世間的は意外ではあっても、コンピュータの世界では間々見られる、そんな現象ってあるよね。
才能に恵まれた天才/秀才が、好んでアホなジョークを頻発したり、(仲間にしか通じない)馬鹿なスラングを偏愛したり。

ここで言うしりとり。
確かにしりとりとしての定義を満たしてはいるものの、だからって、そこに面白さは見当たりません。
只、最長しりとりの解法なんて言う、どうでも好さげなことを導くのに才能とエネルギーを注ぎ込む。 そんなことに嬉々として(?)取り組むのって、如何にもコンピュータの世界の人々のやることっぽいと想う。(笑)

まぁ、定義さえ満たしていれば、コンピュータ・サイエンス的にはそれで一向に構わないってコト。 最長しりとりの解法も、ルービックキューブの攻略法だって、コンピュータ的には同じ扱いなワケです。

        ▽▲▽▲▽▲

十二本目 「おっぱいの揺れ」とブラのずれ

  「走行中のブラジャー着用時の乳房振動とずれの特性」
   岡部和代、黒川隆夫 2005年『日本家政学会誌』56 No.5

なんとま、よくもこんなテーマを。(笑)
でも、下着メーカーならば間違いなく注目するであろう有用な論文でもあります。

こういう地道な研究があってこそ下着の改良が進むワケで、そしてこれ、市場的に物凄く大きいでしょ。 だから研究する価値は十二分にありだと想う。

それにしても、こういうテーマが、他のアカデミックな論文と並んで現れる学会誌って
ホントに面白い。

        ▽▲▽▲▽▲

十三本目 「湯たんぽ」異聞

  「湯たんぽの形態成立とその変化に関する考察Ⅰ」
   伊藤紀之 2007年『共立女子大学 家政学部紀要』第53号


出ました!
サンキュータツオがヘンな論文を渉猟する中で釣れた大物!

たかが湯たんぽ、されど・・・・ です
湯たんぽの歴史、伝来、時代・地域差、形式の分類など等。
豊富な知識、見識、そして教養を総動員した湯たんぽ研究。
興味の赴くまま、研究テーマは様々に派生してゆき、留まることがありません。
素敵だナァ、こういうのって。

極めてユニークなテーマだけに、先行の研究など見当たらないらしいですね。
この著者がパイオニアとして、切り開いて来た分野です。
因みに、著者は我が国における家政学のパイオニアの一人でもあるそうな。

本書の白眉と言える論文がこれでした。
 
 

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Comments

おはようございます

 ヘンな論文、こんなのがあるんですね!
面白すぎますhappy01

全部読んでみたくなりました。

Posted by: みい | July 31, 2018 at 09:46 AM

>みいさん

はい、面白かったです。(^ァ^)
どれも、ヘンな研究なんだけれど、本人は大真面目。
世の中、いろんな人が居るモンですねぇ。(笑)
 
そして、お固い学会誌に、大真面目な顔して載るってのが、また可笑しいです。
 
そんな「ヘンな論文」を紹介して、読んでいるこっちを笑わせる、その上で、研究する事、学ぶことの本質について語る、サンキュータツオ氏の手腕にも脱帽でした。(^ァ^)

Posted by: もとよし | July 31, 2018 at 01:47 PM

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