読書:垂直の記憶
垂直の記憶 - 岩と雪の7章
山野井 泰史 著
2004年 山と渓谷社
ある時期、私はオートバイに(以前にもここに書いたことがありますけれど)どっぷりと、それこそ身も心も嵌まっていた時代がありました。 ライダーだったわけですね。
初めは手頃な250ccのオンロードバイクから。
コイツに跨り、あちこちと走り回り経験を積みながら、次第に行動半径を拡げていったんです。 バイクによる遠出=ツーリングの愉しみを覚えたのもこの当時。
▽▲▽▲▽▲
そのうちにオンロードバイクから、同じく250ccのオフロードバイクへと乗り換えました。
ツーリング途中で目にする風景、とりわけ山々の景観に心惹かれたんですね。
山間の(舗装された)道路を走る度、見え隠れする林道(こちらは未舗装の)というものの存在が気になってしょうがない私。 どうやら自分は、オンロード向きのライダーじゃあないなって自覚しました。(笑)
こうして2台目の愛車となったオフロードバイクで走破した丹沢山中の林道の数々、実に愉しかったです。 バイクに夢中の時期でした。
さて、そうして林道を走っていれば自然と、今度は登山道というものが目に付き始めるわけです。 はい、クルマ・バイクではなしに、山登りする人・ハイカーさんたちが利用する為の道です。
オフロードバイクを駆って林道を往く途中、時折現れる「登山道入口」の案内板が気になってしょうがない私。
もうこうなったら、飛び込んでみるしかないでしょう!
こうして私の山登りが始まりました。
▽▲▽▲▽▲
最初は地元に近い丹沢山塊から初めました。
まずは(得意の)オフロードバイクに跨り、林道を登山道の入口迄移動します。 バイクをそこらに停めて、ヘルメット・グローブ等を外し、オフロードバイク用の頑丈なブーツから、これまた丈夫な登山靴へと履き替えたら、いざ登山道へと踏み出します!
こうして登った丹沢の山々もまた好かったです。 バイク+登山ですから、流石に疲れましたけれど。 でもその分、倍愉しめるってもんです。
▽▲▽▲▽▲
仕事がとりわけ忙しい時期でしたけれど、それでも(なんとか休みをやりくりして)山行へと向かいました。
この私のささやかな日帰り登山はやがて、八ヶ岳や北アルプスの縦走へと発展していったんです。
その頃になると、はじめっから山の格好で(電車やバスを利用して)出掛けるようになり、最早バイクの出番はありませんでした。
そうしてとうとう実現した、山頂からその隣の山頂へ、山小屋からまた次の山小屋へと、歩いて繋ぐ縦走。 忘れ得ぬ、素晴らしい体験です。
あれから随分と月日が経ちました。
▽▲▽▲▽▲
でもね~、もう今は駄目っす。(笑)
バイクはもちろん、山登りにも行けませんって。
なにしろ病気しちゃったし。(^^ゞ
こんなことなら、丈夫なカラダでいる内に、もうちょっとハードな山登りとか、してみても好かったかもしれませんね。
でもまぁ、しょうがない。 人生いろいろです。
▽▲▽▲▽▲
マクラが長くなりました。
本書は著名な登山家・山野井泰史氏が数度に渡って敢行した、ヒマラヤの峰々への登頂記です。
この人の登山スタイルってのは、他の助けを借りない単独行、または(気心の知れた)数人の小グループで岩壁を登攀するというもの。
そうして、一つ頂上を極めたなら次は更に高い峰、より困難なルートへと向かうのです。 一種、求道者の趣がありますね。
本書ではヒマラヤのピーク、その幾つかを目指す姿が描かれますけれど、どのエピソードでも、余計な前ふりとかなしに、いきなり過酷な山登りの描写から入ります。 気取らず飾らず、簡潔にして明瞭。 そういうところ、如何にも山野井氏らしいと想います。
▽▲▽▲▽▲
山野井氏にとって初となったヒマラヤ登山。 ブロードピーク(8047m)で体験したそれは、大規模なチームを編成して、ベースキャンプを築いて山頂に臨むという、アルパインスタイルによる海外遠征でした。
実は山野井氏、団体行動の苦手な方のようで。(これは私も同じ)
そして、こういう大規模チームの場合、集団行動から来るストレスたるや大変なものなのだそうで。
大自然の中とはいえ、人間関係って奴はどこまでも付いて回りますからねぇ。
いえ、極限状況に置かれる分、余計にシビアかもしれません。
でも、ヒマラヤ登山のノウハウを学習する為、ここはあえて(苦手とする)大規模チームに参加したという山野井氏。 慣れないグループ登山も、将来の単独登山の為の布石。 用意周到です。
ともあれ、この時の(苦い)経験は決して無駄とはならず、後のヒマラヤ登山に生かされることになるんですけれど、それ以降は単独/または数人からなるフリークライミングに徹します。
▽▲▽▲▽▲
そんな山野井氏の山登り。
それは、用意周到な準備の上で、自分の可能性をギリギリまで試す(時には身体の一部を犠牲としながらの)攻めの登山でした。
実際、これまでに何度か命を落としかけ、でもその度に見事生還してみせます。
ここまで(死にそうな目に合いながら)やって、はじめて感じ取ることの出来る「生」ってもの、登った者にしか見えない何かが、そこにはあるんでしょうね。
常人とは根底から異なる、しかし(ある意味)羨ましくも感じさせられる人生観、そして極めて純粋で情熱的な生き方です。
Comments