映画:キングコング対ゴジラ
キングコング対ゴジラ
King Kong vs. Godzilla
監督:本多猪四郎(本編)
円谷英二(特撮)
脚本:関沢新一
音楽:伊福部昭
出演:高島忠夫(桜井修)
佐原健二(藤田一雄)
藤木悠 (古江金三郎)
浜美枝 (桜井ふみ子)
若林映子(たみ江)
小杉義男(フェロ島民・酋長)
沢村いき雄(フェロ島民・祈祷師)
根岸明美(フェロ島民・チキロの母)
大村千吉(コンノ・通訳)
有島一郎(パシフィック製薬・多胡宣伝部長)
堺左千夫(パシフィック製薬・宣伝部員)
加藤春哉(パシフィック製薬・宣伝部員)
平田昭彦(重沢博士)
松村達雄(牧岡博士)
松本染枡(大貫博士)
田崎潤 (陸自・東部方面対総督)
山本廉 (陸上自衛官)
田島義文(第二新盛丸船長)
1962年 日本
最初ゴジラは、核兵器の恐怖と、そして戦争の重い記憶を引き摺るようにして、海から姿を現しました。
平和と繁栄を謳歌する日本を、再び戦時の焼け野原に戻す勢いで大いに暴れ廻り、禁断の究極兵器と共に再び海へと没したのでしたね。
それが1954年(映画「ゴジラ」)のこと。 それから二年後には、経済白書が「もはや戦後ではない」と宣言しています。
そして1962年、戦後十七年目に造られたのが、この映画「キングコング対ゴジラ」です。 監督は再び本多猪四郎が務めました。
東宝はゴジラもの三作目を造るにあたり、アメリカから往年の大スター(!)キングコングを招いて、夢の競演を実現させました。
日米を代表する怪獣が同じスクリーンに。 ここに至ってゴジラも、戦後との決別を果たしたわけです。
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南洋幻想って、ありますね。 日本人が古来抱いて来た、南の海への憧憬。
この映画には、キングコングの棲む南海の孤島の住民たちが大挙登場します。
それは、どこからどう見ても日本の俳優が半裸に褐色のメイクをして演じる島の人々の姿。
もちろん、リアリズムからは程遠いんですけれど、でも私はこういうベタで素朴な演出って好きなんです。 コングを鎮める唄と踊りもまた素晴らしい。
私の中の南洋幻想が共鳴するんでしょうか。
島の住民らと、日本からコングを訪ねて来た高島忠夫・藤木悠らが交流する辺りは(ハリウッド作品だと、まずありえない)日本映画ならではの展開ですね。
音楽は伊福部昭。 そのプリミティブさが堪らない魅力! 持ち味である土俗的な味わいと、南洋のイメージとが見事に繋がります。
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怪獣ものと、サラリーマンものという、二つの要素を併せ持つこの映画。
これって、どちらも東宝のお得意とするジャンルじゃありませんか!
無論のこと東宝は、これまで両ジャンルで培って来た人材とノウハウとを、この映画に結集させました。
例えばサラリーマン社会を描く日常パート。
生き馬の目を抜くテレビ/宣伝の世界を、都会的でスマート、ユーモラスで軽みのある、要するに東宝サラリーマン映画の粋なスタイルで描いて見せるんです。
登場するのは何れも練達の俳優陣ですけれど、中でも宣伝部長・有島一郎の可笑しさは、暫しの間これが怪獣映画であることを忘れさせる程で、その笑いの破壊力たるや凄まじいものがあります。
あんまり愉しくって、観ている途中、もう特撮パートはイイよって気になっちゃいました。(笑)
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一方、怪獣を描く特撮パートは・・・・
娯楽路線へとハッキリ舵を切った今回のゴジラ。
小顔(!)で目つきも鋭く、精悍に引き締まったフォルムです。(その結果、トカゲっぽさが強調されましたかね)
身のこなしがスピーディで、これはアクションシーンが映えますなぁ。 でもその反面、怪獣らしい重量感は弱まったと言えるでしょうか。
総天然色化されて、ゴジラの色が判るようになったのは嬉しいんですけれど、でも色の加わった分、特撮シーンの粗が目立ちやすくもなりましたね。
それからキングコングです。
そもそもゴジラを創った円谷英二特技監督に多大な影響を与えたのが、1933年公開の元祖怪獣映画「キングコング」でした。
そのコングも、ここに約三十年ぶりの映画出演となります。
キングコングの版権を所有する米国RKO社は、東宝に対して破格のギャラ(?)を要求したのだとか。 ハリウッド・スターを招聘するのと変わりませんね。
そしてこのコングは、ゴリラと言うよりはニホンザル風。
そのおサルらしい所作(!)があんまり巧みで、ついつい見入ってしまいます。
但し、その毛皮がどうにも怪獣っぽく見えません。 この点は、ちょっと興醒めだなぁ。 まぁ毛の表現にリアリティが欠けるのは、毛皮モフモフ系怪獣たちの共通して抱える宿命ではありますけれど。
とはいえ見所も沢山ありまして、例えば筏に乗せられ海を往くシーンとか、ヘリで空輸されるシーンなど、とりわけ名場面と想いますね。
そして1933年の元祖コングばりに美女(浜三枝)を捕まえ、国会議事堂によじ登るなど、キングコングとしての矜持(?)を通してもみせます。
それと、この映画はヘリコプター(ミニチュアの)の飛行するシーンが幾つも出て来るんですけれど、その扱いがどれも上手いなぁと、ここは感心しました。
ともあれここに、東西の千両役者が揃い踏みするわけであります。
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キングコング vs ゴジラ。 そこは怪獣映画ですから、両者の対決シーンは(惜しみなく!)たっぷりと見せてくれますけれど、とはいえ凄惨な印象はありません。 ゴジラの吐く火炎も、本作では控えめですし。(コングの毛皮が燃えちゃいますからね(笑))
それぞれ日米のスターですし、無理はさせられないって(製作者側の)配慮でしょうか。(笑)
キャスト陣もステキです。
佐原健二の安定感。 高島忠夫のバイタリティ。 藤木悠はギャグ担当。
浜美枝と若林映子はこの後、ボンドガールへと大抜擢されましたね。
でも、一番印象に残ったのは有島一郎ですなぁ、やっぱり。
(南洋もの)怪獣映画 + サラリーマン喜劇映画。 東宝の魅力が結集した、堂々の娯楽作品です。
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