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November 11, 2014

小説:永遠の0

 
 
永遠の0
 
 
    百田尚樹 著
 
 
        2006年   太田出版
 
 
 
零式艦上戦闘機。 旧日本海軍を代表する戦闘機として、その人気は高く、メディアなどでも繰り返し取り上げられて来ました。
とは言え、太平洋戦争の戦記もの(小説)となると、この手の作品を好んで読む層はごく限られている筈・・・・なんですけれど、そんな常識を覆したのが本書「永遠の0」であります。 お見事! ベストセラーとなりました。

        ▽▲▽▲▽▲

※ 戦後六十年。 佐伯慶子・健太郎の姉弟は、ある切っ掛けから、戦死した祖父に関する聴き取り調査を試みます。
手掛かりは、祖父・宮部久蔵がかつて零戦の搭乗員であり、終戦の間際に特攻で戦死したという事実ひとつ。
二人は、未だ健在な戦友たちの元を訪ねて廻り、祖父がどんな人物であったかを訊ねます。
次第に明らかになってゆく、身も知らぬ祖父・久蔵の人間像。 そして何故、彼は死なねばならなかったのか・・・・
 
        ▽▲▽▲▽▲
 
私も含めて、本書の読者の多くは太平洋戦争当時の事情や、まして戦闘機の操縦など、詳しくはない筈ですけれど、当時の零戦搭乗員らからの聞き書きという体裁を取っているせいなのかどうか、本書はとても読み易い。 それに、登場する人々がいずれも生き生きと動いて、実に面白いんです。

但し、宮部久蔵の運命について、小説の冒頭から提示されていますから、本書は頁が進むに従って、いささか憂鬱になりますね。
お話としてとても面白いので、読むペースが落ちるってことはぜんぜんなかったですけれど
でも、頁を捲る毎に確実に近づいて来る宮部の悲劇。 面白いのと同時に切ないという、なんとも奇妙な感覚を味わいました。
 
        ▽▲▽▲▽▲
 
佐伯姉弟の祖父・宮部久蔵について、元戦友らの内のある者は臆病者であったと言い切り、また別の者は、宮部はこの上なく用心深い上に、誰よりも優秀であり、立派な人物であったと賞賛します。 そして中には、彼のことを心底憎んでいるという者も・・・・
 
その宮部は、戦争という極限状況の中にあって、己のポリシーを決して曲げようとしなかった奇特な人物でした。
彼の決意・・・・それは、生きて妻子の待つ日本に返るということ。
誰もが戦勝を願い、己が一命は顧みないのが当たり前の時代に、宮部は生きて妻子にまみえることのみを願い、そのことを公然と口にするのでした。
そして、戦闘機搭乗員として卓越した技量を持つ宮部は、その言葉の通り、どんな劣勢の中からでも生還してのけたのです。
 
ところで、本書を読んでいると(小説として抜群に面白いのとはまた別に)無性に腹が立って来ます。
宮部をはじめとする有為の人々が、まるで捨て駒のように扱われ、無謀な作戦によって次々と散ってゆくのが口惜しくて仕方ないんです。
命令とあれば(無念の想いは胸に秘めたまま)粛々と従う軍人たち。
とは言え、誰だって好き好んで死にたくはないですよ。
まして、一旦飛び立てば、生還の可能性のまったくない特攻。
でも、顔で笑って心で泣いて。 故郷の両親には心配を掛けまい。
本書は(極限状況における)一種の日本人論とも言えるんじゃあないかと想います。

読んでいるのは確かにフィクションなんだけれど、宮部久蔵という人物がまるで実在の人物であったかのように、ハッキリしたイメージと確かな説得力を持って読む者に迫って来るのは、しっかりした取材と構成力の賜物でしょうね。
百田尚樹さんは本書がデビュー作と聞きましたけれど、この御仁、並々ならぬ手練れでありますよ。
 
 

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Comments

私は先に映画を観てそれから小説を読みました。
原作はデティールの奥行きがあり読みごたえはありました。
映画は原作をかなりの部分省略の形をとっていましたが凝縮された感があり見応えがありました。
宮部の演じた岡田准一はいささか原作と違う気もしましたが、これはこだわる必要はなく、岡田自身の宮部像を演じきっていて好感が持てました。
原作と映画は別のものとしてみることにしています。

Posted by: おキヨ | November 11, 2014 at 12:10 PM

こんにちは~
 はい、私も本読みましたよ。
映画は観てないです。
百田さんの本は、これが初めてでした。
この時代に生きた人の想いが心に深く沁みました。

Posted by: みい | November 11, 2014 at 04:44 PM

>おキヨさん

ネットで「永遠の0」を検索してみると、原作の小説よりも、映画の話題の方が圧倒的に多いですね。 評価も高いようですし、私も見てみなければと想っています。(^ァ^)
岡田准一さんは、以前「問はず語り」にも書いた「タイガー&ドラゴン」での、服飾店主 ー> 落語家 役が印象に残っています。 ストイックな宮部とは対照的なような、でも一本芯の通っている処が共通しているような。 ともかく楽しみです。(^ァ^)

Posted by: もとよし | November 11, 2014 at 05:40 PM

>みいさん

「永遠の0」、みいさんもお読みでしたか。(^ァ^)
これがデビュー作とは信じられないくらい、充実した内容でしたね。
本書は2006年の刊行。 その後も続々と作品を送り出しているんですから、スゴイ人がいるモンです。
中でも「海賊とよばれた男」が評判のようで、いつか読んでみる積もりです。

Posted by: もとよし | November 11, 2014 at 05:56 PM

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