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June 02, 2014

小説:風が強く吹いている

 
 
風が強く吹いている
 
 
   三浦しをん 著
 
 
      2006年   新潮社
 
 
前々より気になっていました、三浦しをん さんの「風が強く吹いている」を読みました。
 
 
 
 ※ 寛政大学の男子学生向け下宿「竹青荘」。 老朽化の進んだこのボロ下宿で暮らすのは、日頃から運動とは無縁で、不精を絵に描いたような学生たち。
そこへ、十人目の下宿人(ワケありの元長距離走者)一年生・走(カケル)が転がり込んで来ます。
カケルの持つランナーとしての卓越した才能に惚れ込むハイジ(元長距離走者で、下宿人たちのリーダー格)は、ある日、住人一同の前で宣言します。 この下宿の皆で箱根駅伝を目指そう!
 
 
 
素人集団が一致団結して競技に取り組み、悪戦苦闘を重ねながら勝利を目指す。
スポ根ものによくありそうなプロットという気がしますけれど、その目標が箱根駅伝となるとまったくハナシが違ってきます。

伝統ある箱根駅伝。 なにしろ存在感があり過ぎます。
駅伝という競技自体(素人のワタシが申すのもナンですけれど)ゴマカシの効かない、偶然性の立ち入る余地の、殆ど無いものではないでしょうか。
参加各校とも(取り分け、常連校ともなれば)練習プラン、コース分析、区間毎のバックアップ体制などなど、練りに練ったシステムを構築して臨んでいるハズ。
まして、ハイジら寛政大学チームの走者は(往路/復路の区間数と同じ)竹青荘の十人のみ。 万が一怪我人や故障者が出たとして、選手交代の余裕さえありません。
その上、メンバーの殆どがど素人でレース経験なし。
これ、小説の設定ながら、ハードルを想いっ切り高くしていますよ。

        ▽▲▽▲▽▲

竹青荘の住人(十人の駅伝走者)たち。 それぞれが 漫画オタク、クイズ王、双子、司法試験合格者、外国人留学生 などなど、個性的に描き分けられており、想い出すだけで楽しくなって来ます。
私は、彼らの特徴/特技が、小説中で(それこそ、あっ!と驚くようなアイデアで)駅伝に生かされるんじゃあないだろうかって、愉しみにしつつ読み進めたんですけれど、意外とそうでもなかったです。
こと駅伝に関して、トレーニングやレースについては、至極淡々と描かれていて、これはこれで著者のスタンスなんでしょうね。

あと、ここは著者の優しさを感じるところですけれど、十人のメンバーそれぞれにしっかり見せ場を造っている。 キャラの配置に無駄がありません。
著者の、登場人物ひとりひとりに注ぐ情愛を感じさせられますね。

        ▽▲▽▲▽▲

なかなかヤル気を出さないメンバーのお尻を叩き、年間を通しての練習プラン立案から、健康管理(要するに、日々の賄い)、レースの采配まで。 脚に古傷を抱える司令塔・ハイジの、痛々しいまでの大活躍。
この小説のメイン・キャラはランニングの申し子・走(カケル)かもしれませんけれど、ここはハイジの見せる天才的コーチぶりに入れ込んでしまいますね。

        ▽▲▽▲▽▲

さて、半ば以上が素人という状態で、一体どうなることかと案じられた寛政大チームですけれど、いざ走り出せば、これが大健闘。 この連中、意外と(!)速い。 皆、やれば出来るじゃん!!

でもこの小説、走っている間の辛さ、苦しさについては、あまり描かれていませんね。
自分の学生時代。 走らされて死ぬほど苦しかった事を想うと、この小説世界の駆けっこは、相当に楽天的と言えます。
こういうところは著者の個性から来ているのか、あるいはこの小説のポリシーなのか。
あるいは、長距離については、とにかく辛い記憶しかない、私のようなタイプ(結構、多いのでは?)に配慮しての選択なのかもしれません。
ともあれ、運動不足のグータラ大学生たちが、精強なランナーズに生まれ変わるだけの、なにかパンチ力というか、ブレイクスルーを経験させて欲しかったという気もします。

終始一貫して語れるのは、駅伝走者として区間を走る間の孤独感と、タスキがつなげる連帯感。 著者の切々とした訴えが、読む者の胸に届いて来ます。
この小説は終始一環明るくて、過度に深刻になったりしないのがイイ。 こういうバランス感覚、素敵ですね。
 
 

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Comments

こんばんは~

 三浦しをんさんの本は、好きで読んでますが、これは気になっていたけど読んでません。
長距離は、苦しいし、辛いものですよね。
わたしも、学生時代思い出しても辛い苦しい、記憶しかない(笑)なのに、夫は走ってますが^^。

今度書店で、探してみますね。

Posted by: みい | June 02, 2014 at 07:39 PM

>みいさん

そうでした! ご主人が現役のランナーでしたね。(^ァ^)

小説中で語られるランニングのトリビア・・・・ランナーとしての暮らしぶり、練習の工夫あれこれや、レース中の駆け引きなどを知った私は、長距離種目について、以前より身近に感じられるようになりました。

この小説、オススメです。(笑)

Posted by: もとよし | June 02, 2014 at 10:39 PM

長年駅伝ファンの私としては見逃せない本ですね。
三浦しおんという作家の作品はほとんど〔思い違いでなければ”舟を編む”がそうならば読みました^^ゞ〕読んではいないのであらためて興味がわきます。

もとよしさんも若かりし頃ランナーでしたか!
走ることのご経験があればいっそうの思い入れを持って読める本なのでしょうね。

Posted by: おキヨ | June 03, 2014 at 11:52 AM

>おキヨさん

この小説、駅伝ファンのおキヨさんが読まれたら、二倍は愉しめそうですね。(^ァ^)

お正月の駅伝中継には中々映ることのない、後方集団の中での戦い。 復路の繰上げスタートというルールの切なさ。 翌年のシード権獲得を廻る駆け引き。 そして勿論、力走する選手とチームの心理。

来年の箱根駅伝の中継。 レースを見る視点が、これまでとは違っているハズで、今から楽しみです。(笑)

Posted by: もとよし | June 03, 2014 at 04:57 PM

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