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September 09, 2010

陰陽師

 
  
  陰陽師
 
     夢枕獏 著
 
 
         1988年   文春文庫
 
 
夢枕獏の陰陽師シリーズ第一作。
陰陽師が妖怪変化・魑魅魍魎を退治してゆくという連作短編集なんですけれど、久しぶりに読み返してみたらこれがバカに面白かった。

さてこれは時代小説、といってもここでの舞台は平安時代、京の都です。
同じ時代ものでも、例えば戦国時代や江戸時代を舞台にした作品であれば、その歴史/風俗について、読者には必ず予備知識(過去の小説/テレビ/映画などから得た)がありますよね。 書く方も読む方共々、互いに勝手が判っている分、やりやすいってもんです。

それが平安時代となると、そう単純にはゆきません。
景色/風俗もさることながら、世界観/時代の空気感が今ひとつ掴めないもどかしさを感じてしまいそうですけれど。 でも作者はそこのところ、この厄介とすら想えるハードルを、巧みに飛び越えてみせたようです。

なにしろ作中に、今昔物語あたりから取材したと思しきエピソードを絡ませながら、平安京の静謐さ、漆黒の闇、妖しのものたちの抱く呪いや哀しみを、訥々とした語り口で、ありありと描いてみせますから。

それから小倉百人一首。
そもそも一般ピーポーにとって、平安の和歌イコール百人一首って位置づけですよね。(?)
勝手の判らぬ平安朝へのガイド役として、これほどふさわしいものはないでしょう。
名高い壬生忠見(「恋すてふ我が名はまだき立ちにけり人知れずこそ思ひそめしか」)その人も現れ出でます。

え~、そもそも古典/古文の素養くらいはまぁ、我々誰しもが少々持ち合わせているワケですな。
(あんなに退屈だった日本史や古文の知識が、よもやこんなところで役に立つとは! と、シミジミ想っちまいましたネ)
一般には馴染みの薄い平安朝の、それもダークサイド方面を描きながら、標準的素養の持ち主ならば誰でも楽しめるように描き切ったのはスゴイ力量、と想います。

さて主人公は二人の男。
陰陽師として名高い安倍晴明、そして源博雅。
闇の領域を棲家とするクールな晴明と、常識の世界に居て情の判る男博雅。
二人はあからさまにホームズとワトソンのポジションです。
物語の進行も、なんだか毎回判で押したようなワンパターンが見て取れるけれど。
でも、それが心地よい。

その他に蝉丸法師(こちらも百人一首でお馴染みですね)など、平安朝オールスターキャストの登場です。
ちなみに、江戸時代~幕末ものでこんなオールスターゲームをやったら流石に野暮でしょうけれど、それがここ夢枕平安朝ワールドでは一々嬉しくなってしまいます。(異郷で同胞に出合った気分とでもいうんでしょうか)

収録の全七篇の中では「梔子の女」が、話もシンプルで最も美しいと想いました。
 
 

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