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March 16, 2010

譜めくりの女

 
 
 譜めくりの女
 LA TOURNEUSE DE PAGES
 
 
   監督:ドゥニ・デルクール
   出演:デボラ・フランソワ (譜めくり)
       カトリーヌ・フロ (ピアニスト)
  
          2006年  フランス
 
 
今回は譜めくりストのお話しです。
そう、主役たるピアニストの脇に控え、演奏中の奏者に代わって楽譜の頁をめくってゆく、「譜めくり」の人が主人公。 音楽家を主役に据えたドラマは少なくないですけれど、譜めくりという着眼点は斬新です。

         ▽▲▽▲▽▲

世に「執着」という言葉がありますね。
(あえてネガティブに言うならば)ひとつものごとに拘ってしまい、それを容易に思い切ることが出来ないこと。 ゆき過ぎれば、時に自ずから閉塞した状況へと陥ってしまうことも。
そういうことならば多かれ少なかれ誰にでも・・・・とも想いますけれど、この映画ではその想いが異常なまでに突き詰めた姿で(愛憎混めて)提示されます。

主人公は早くにピアニストへの道を諦めたうら若い女性。
主人公の執着は、その挫折の原因となった小さな(傍から見れば)事件を経て、その切っ掛けとなった高名な女流ピアニストへと向けられます。
そして女流ピアニストにとっては、譜めくりの存在がいつしか執着となり果て・・・・

         ▽▲▽▲▽▲

派手なところがいささかもない、一貫して控えめな描写はフランス映画ならでは。 その静謐さは、例えばハリウッド作品よりもむしろ一部の日本映画に近いものがあると想います。
演出も台詞も控えめで、うんと薄味のドラマ造り。
余白をして語らしめる。

映画の主題とはまた別に、演奏シーンの自然さが(これまでに見たどの映画よりも)とりわけ印象的です。
そしてピアノ三重奏団の人間関係や、本番のプレッシャーに押し潰される想いのピアニストの心理描写など。
監督が音楽家(ヴィオリスト)だからなのでしょうか。 生活の中にある音楽(の演奏)の描き方、その呼吸が実に巧みと想いました。

         ▽▲▽▲▽▲

さて、主人公のうら若きフメクリストをして突き動かしたもの・・・・私には、単なる意趣返しとは言い切れない気がしています。
我々は一般に、映画の登場人物の行動一々に明快な整合性、社会的な倫理性など求めてしまいがちですけれど、ここでは拘らずに見たほうがイイみたい。 映画と対峙する時、ついつい捉われてしまうんですよね。
これがむしろ文学、小説ならばもっとすんなり受け止めることが出来るのかもしれませんけれど。

         ▽▲▽▲▽▲

<余談>

ピアノの鍵盤の蓋と、チェロのエンドピン。 それらの、ある使い道について。
どちらも、その道の関係者であれば、誰しもがココロに留めていることではありますが。

ホントにやっちゃうとは・・・・

そんなこと、あの少女の執着に比べれば、どれほどのモンでもないってコトなのですね。
この演出、音楽を知らない人がやったなら許せない気がします。 けれど監督さんはヴィオリストなので、ならば無理ないかと。 ヘンに納得してしまう私です。
スウィングガールズ」(こちらは何度見ても愉しい!)で楽器をオモチャにしたシーンの、あのちょっとヤな感じ、あれとはまた別種の感覚を味わいました。
 
 

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Comments

ご都合主義というか、色々とつっこみどころのある作品でしたが(^^;)、何だか通奏低音のように不気味さと静かな官能が流れているような作品でしたね。

もとよしさんの「余談」説。
なるほど、と思いました。
素晴らしい洞察ですね(^^)

Posted by: バルカローレ | March 17, 2010 at 12:00 AM

>バルカローレさん

>何だか通奏低音のように不気味さと静かな官能が流れているような作品でしたね。

通奏低音って、ホントそうですね!(^ァ^)
派手さはないものの、ずっと一貫したカラーがあって。

何度かある演奏シーン。 その場の(音楽的な)緊張感は、ドラマ全編を通してずっと持続している気がして。 なるほどこの作品の監督さんは音楽家なんだと、実感することしきりであります。

Posted by: もとよし | March 17, 2010 at 06:23 AM

こんばんは!
 譜めくりの女、観てませんが、もとよしさんの記事を読んでいると観てみたいなあと思いました^^。
音楽家が監督なのですね。監督の独特の感性がこの映画を魅力的なものにしているのでしょうね。
「譜めくりの女」が主人公というのも興味深いです。

Posted by: みい | March 17, 2010 at 09:02 PM

>みいさん

>音楽家が監督なのですね。

ことさら構えたところのない演奏シーン、特に演奏の前や後に交わされる台詞や演技の自然さは、演奏の現場の空気を肌で知っている音楽家ならでは、と想いました。

なにしろ寡黙な映画で(^^ゞ、サスペンスの割に派手な見せ場もないし、あまり後味の良い結末でもないので、是非ともお薦め、とは言い難いんですけれど。(^^ゞともあれ「のだめ~」の世界とは正反対のストイックさ。 ワタシとしては、こういう音楽ものもまたアリです。(笑)

Posted by: もとよし | March 17, 2010 at 10:32 PM

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