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August 05, 2007

博士の愛した数式

 
 
 博士の愛した数式
 
    小川洋子著
 
      2003年


算数、それと数学の勉強ってことについちゃ、あんまりハッピーな想い出がないんだな。 大人になって勉強から開放された今だって、日々の仕事や生活の中で遣う数字や計算など、数学と結び付けて考えているわけではないし。 そんな、数学に対して殊更距離を置きたがるスタンスは、なにも私だけのハナシではない・・・・ですよね?
そしてまた、この小説の著者、小川洋子さんもまたその一人だったりするのかもしれない。
 
 
※数論の博士号を持つ有為の数学者でありながら、交通事故の後遺症により記憶が八十分しか持たないという老人「博士」。 小説は博士と、その家に雇われた家政婦、そして十歳になる息子との交流を、抑えの利いた筆致で描いてゆく。
特殊な病故に世間との交渉を持たず、独り数と遊ぶことを心の糧にする「博士」と、その特異な生活に入り込んで来た語り手の「私」に、独り息子の「ルート」。 数学とはおよそ無縁の世界に住む二人に、博士は折に触れ数学について語って聴かす。 それは極めてユニークで親しみやすく、また時に数の世界の深遠さを垣間見せるものだった。
 
 
慎ましく情感溢れる美文は、まことに静謐で安定した(博士の語る数式のように)美しい世界を創り上げていて、そこには数学者ではない作者の持つ、数の織り成す美学への素直な憧れが見て取れる。

数学への憧れですかい? そういうハナシであれば、こちとらも共感出来ますって。 未知の、美しいものへの憧れならば、人後に落ちない積りだし。
博士が数学への愛を込めて語る、たとえば素数。 博士に言わせれば、それはこの世のなによりも美しいもの。
そして友愛数。 「博士」と「私」をつなぐ因縁の数字がこれだった。 けれど、友愛数って? そもそも謹厳、冷徹をもってなる数学の世界の筈でしょう? そこへいきなり、「友愛」なんていう言葉に出て来られてもねぇ。 ドギマギしてしまうではないか。
それから完全数。 その数自身を除く約数の和が、その数自身と等しい自然数のこと。 滅多にあり得ない、この数字を廻る数奇なエピソードは、小さな冒険譚だ。

どこまでも澄みきって穏やかな、でもうら悲しい、まるで小春日のような小説でした。

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Comments

>数学に対して殊更距離を置きたがるスタンスは、
>なにも私だけのハナシではない・・・・ですよね?
スミマセン・・・
数字が大好きな私です(笑
だって子供の頃の唯一のプライドだったんだもん。


>慎ましく情感溢れる美文は、まことに静謐で安定した美しい>世界を創り上げていて、そこには数学者ではない作者の持
>つ、数の織り成す美学への素直な憧れが見て取れる。
そう、一種のコラボレーションが成立していましたよね。
(コラボとはいわんか・・・)

>それはこの世のなによりも美しいもの。
数学は科学の女王、数論は数学の女王と言います。
私も専門的なことは分りませんが好きです。
才能があったら入りたい世界でしたが、私の数学の才能はアマチュアのそのまた補欠のベンチ外くらいのレベルでした。

Posted by: 晴薫 | August 06, 2007 at 10:50 PM

 音声コンテンツ配信サイト『ラジオデイズ』のご案内とリンクのお願いです

 はじめまして。株式会社ラジオカフェと申します。
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    tencho@radio-cafe.co.jp

 お客様がラジオデイズのコンテンツを通じて、豊かな時間を過ごされることを願っております。

Posted by: ラジオカフェと申します。 | August 07, 2007 at 10:54 AM

>晴薫さん

>数字が大好きな私です(笑

只々ウラヤマシイです。(^^;
「算数」、「数学」と聴いただけで途端に及び腰になってしまう私です。orz あゝいうのが得意だったなら、学生生活もずっと明るかったかも。 って、ちょっと大袈裟ですが。(^^;

数論と言うのは一般に馴染みのない言葉ですけれど、小説中にも出て来た数々の命題。フェルマーやオイラーの話には激しく興味を惹かれます。 折りしも、360年間解かれることの無かった定理が遂に証明されたと報じられ・・・・と言うシーンがありましたね。 数学とはなんてロマンティックなんだろう、と思いました。

Posted by: もとよし | August 07, 2007 at 07:57 PM

こんばんは。
 この本はまだ読んではいませんが、映画は観ました。
昨年だったか?もとよしさんの記事拝見して、映画のシーンが蘇りました。映像で観ると又感動が深いですよ。
長野県の美しい自然の映像が美しい、80分しかもたない記憶、それがどういうことなのか。博士が愛した「数式とこども」、記憶は胸の奥深くに。あるがままを受け入れ今を生きる。
「数」がこんなに美しいなんて知りませんでした。
静かな感動のあるいい映画でした。
「素数のようにりりしく、零のように温かく・・・・」
        小川洋子

Posted by: みい | August 08, 2007 at 09:18 PM

数学を扱っているのに極めて文学的で不思議な物語でしたね~。

この小説を読んだ後、何冊か小川洋子さんの小説を読みましたが、この小説は他の著作とは毛並みが少し違いました。でも、凄く良かったです。

Posted by: バルカローレ | August 09, 2007 at 10:47 PM

>みいさん

映画好かったですか。 私も見てみたいですねえ。(^ァ^)
長野県が舞台というのも、博士の静謐な暮らしぶりを思うと、さもありなんという感じです。 やはり都内じゃ、ありえないハナシですよね。(笑)

そう言えば小説の方も、読んでいて脳裏に綺麗な映像イメージの浮かび上がってくるようなシーンが幾つもありました。
数学について多く割かれている小説なのに、少しも堅苦しいところがなく、思わず先へ先へと読み進めてしまう、まさに珠玉篇でした。

Posted by: もとよし | August 09, 2007 at 10:55 PM

>バルカローレさん

「博士の愛した数式」は文章がとても綺麗で、落ち着きと、意思の強さを感じさせる、独特の雰囲気を纏っていたのが印象的です。

そうですか、「博士~」は小川作品の中でも一味違う異色作だったんですね。 そのうちに小川さんの他の作品も読んでみようと思います。 どんな風に違うのか楽しみです。(^ァ^)

Posted by: もとよし | August 10, 2007 at 08:27 PM

こんにちは。

この作品、映画の方を観て面白かったので、小説の方も読みました。

話の語り手が異なる、締めくくり方が違うとか、比べればいろいろ違いはあるものの、お互いを打ち消し合うようなものではなくて却って新鮮に感じられて、どちらもとても楽しめました。小説の文章、とても美しくて読みやすいと感じましたが、映画の映像もとても綺麗で、また観始めると引き込まれるような魅力がありました。

そう言えば「世にも美しい数学入門」(藤原正彦/小川洋子)という本も用意してあったのですが、まだ読んでませんでした。近々読んでみようと思ってます。

Posted by: くあい | August 12, 2007 at 01:53 PM

>くあいさん

あゝ、ますます映画の方も見たくなって来ました。(笑)
気に入っている小説の映画化って、見れば大概ガックリ来ることが多いですけれど、「博士~」の場合はどちらも上手く出来た、理想的な例のようですね。


>そう言えば「世にも美しい数学入門」(藤原正彦/小川洋子)

藤原正彦さんって、文庫版の解説を書かれている方ですよね。小川さんが「博士~」を書く際の取材中に知り合ったとかで。 あの博士と同様、数論の先生。
面白そうですね。 私もチェックしときます。(^ァ^)

Posted by: もとよし | August 12, 2007 at 10:04 PM

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