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August 26, 2007

魔術はささやく

 
 
  魔術はささやく
 
    宮部みゆき著

        1989年
 
 
ミステリー小説というものを、普段はあまり読まない。 だから、作品の出来と言うことについて、とやかく言うことは、し難いのだけれど。 ともあれ、この作品(日本推理サスペンス大賞受賞作)は、なかなか面白く読むことが出来た。

※主人公は、幼い頃から世の中の辛酸をなめて育った、けれど、心優しくて芯の強い少年。 誰にも秘密にしているけれど、彼は人知れずある技能を身につけていた。 ある日、タクシー運転手を務める彼の叔父が、不可解な人身事故を起こして逮捕されてしまう。

この小説では、少年の居候先となる叔母一家をはじめ、主人公を取り巻く周囲の人々の優しさを描く部分が特に楽しめた。 でも、ミステリーとしては肝心の、犯罪のトリックと言うか、犯行の手口に「アレ」を使っちまうのは安易、と言うか、ルール違反と想うんだけれど。

と言うわけで、この小説をもっぱら人情ものとして評価して、事件の顛末にはとんと興味の湧かない私である。 もしかして、ミステリー小説って、自分にはあまり向かないのかもしれないですねえ。

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August 23, 2007

気まずい二人

 
 
 気まずい二人
 
   三谷幸喜
 
     1997年
 
 
人気絶頂の脚本家による対談集である。 毎回、三谷さんのご指名で各界から迎えるゲストは皆女性。 ならば三谷さん、さぞゴキゲンではないかと思いきや、コチコチに緊張しまくりなのである。

普通、対談と言えば、ホスト側が会話をリードしてゆくものでしょう。 ところが三谷さんは筋金入りの超口下手と来ている。 なので、差し向かいに座った二人の間で、気まずい沈黙が出来たり、ゲストと間合いを取り合ったり、なんていうことが起きてしまう。 この本の変わっているのは、そんな、通常の対談ならばカットされるであろう部分までを収録しちゃってる点。 と言うか、本筋の会話の内容よりも、気まずい時間の場面が可笑しいんだよね。

会話がなにかの切っ掛けでつまづいてしまって、もうこうなると、なにを言ってもシラケたり、ハズしたり、皮肉にしか聴こえなかったり。 そんな、負のスパイラルに陥るようなことって、ありますよね。 この対談では、毎回お約束のようにそれが起きてしまって、これはもう、三谷さんの話し手としての資質によるところ、としか言い様が無い。
対談の中で、どんな話題を振って好いのか判らなくなり、絶句してしまう三谷さん。 焦る! で、ここは何か気の利いたことを話さなきゃ、なんて気負うもんから、余計に焦りまくってしまう。 そして、会話が途切れた時のためにと、あらかじめ用意して来た話題のトホホさときたら、もう。

活字にするにあたって、幾らかの脚色はあったのかもしれないけれど、ここでは、そんな、悪夢のようなバツの悪さ。 奈落へ急降下してゆくホストの姿を活写して笑いを誘う。 ここら辺り、三谷脚本のギャグ感覚に通じるものがあると思う。
 
 
対談のゲストは、以下の皆さん

  八木亜希子 (フジテレビ・アナウンサー)
  十朱幸代 (女優)
  西田ひかる (歌手)
  日笠雅水 (手相観)
  桃井かおり (女優)
  鈴木蘭々 (タレント、歌手)
  林家パー子 (タレント)
  緒川たまき (女優)
  平野レミ (シャンソン歌手)
  森口博子 (歌手)
  加藤紀子 (歌手)
  安達祐美 (女優)
  石田ゆり子 (女優)
 
 
いやはや、ゲストのみなさん、お疲れさまでした。 と言うか、よくぞ三谷さんを見捨てず、お終いまでおつきあい下さいました。
実は、ゲストはこの他にまだ二人いたのだそうで。 でも、よんどころのない事情(!)により、本には収録出来ないのだそうな。 なにがあったのかは知らないけれど、この対談スタイルだと、まあ、ムリもないかな、と思う。
読む側は可笑しいばかりだけれど、喋る側にとってはスリル満点(?)の対談だったかもしれない。

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August 19, 2007

皇帝ペンギン

 
  
 皇帝ペンギン
 LA MARCHE DE L'EMPEREUR
 THE EMPEROR'S JOURNEY
    (MARCH OF THE PENGUINS)


   監督:リュック・ジャケ

      2005年 フランス


暑い日が続くんで、せめて映像から涼を得たいゾと。
選んだのは標題そのまんまに、南極に暮らす皇帝ペンギンの、求愛から抱卵、育雛、そして巣立ちまでを捉えた映画。

なにしろ主人公は「ペンギン」と言うから、その通俗的なイメージから、ほのぼの志向の子育て映画を連想したのだけれど、なかなかどうして、中身は至って地味かつシリアスな作品であった。
「ユーモラス」とか「カワイイ」と言ったイメージだけで臨んだり、娯楽作品を期待したりすると、肩透かしを食らい、と途中で退屈してしまうのは必定。

南極大陸。 一面白と青の世界。 繁殖地に向けて氷原を粛々と歩み続ける、無数の皇帝ペンギンの行列を遠景から捉えたショットは、まるでヒトが群れ彷徨うようで、実に夢幻的な眺めである。
その他、二羽のペンギンがハートマークを描く求愛のダンス。 過酷を極める真冬の抱卵。 海中のペンギン。 雛の誕生。 と、印象に残る映像が続く。

この映画、本国フランスで大ヒットしたそうである。 ペンギンの生態を淡々と追うのではなしに、父ペン、母ペン、雛ペンに別の声優を充てて、それぞれの想いを語らせている。
文学的な味付けが濃いのはお国柄だろうか。 私としては、登場するペンギンの擬人化に、ちょっと付いて行き難いものがあった。

ところで、日本語版の吹き替えは個人的にダメでした。 父親の声はカッコ好過ぎで、母親の声はカワイ過ぎる。 過酷な自然と力強く立ち向かう、ペンギンの両親と言う感じがしない。

極めて良質な映画だけれど、ゆとりのない時に見てもダメ。 自室でDVDを、仏語+字幕なしにして、ボンヤリ流してみたら、ゆったりと好い時間が過ごせそう。

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August 16, 2007

素数ゼミの謎

 
 
  素数ゼミの謎
 
    吉村仁  著
    石森愛彦 絵
 
      2005年  文芸春秋社
 
 
今回の標題をご覧になって、さてはもとよし、「博士の愛した数式」にかぶれて数学の手習いでも始めたかとお思いかもしれませんけれど、然ニ非ズ。 北米に生息する、摩訶不思議な生態を持つ蝉たちについて語った本のお話しであります。 これは子供向けに書かれたものなので、解説がとても丁寧で判りやすく、私のような理数オンチにはありがたい。

素数ゼミとは、北米に生息する17年、そして13年おきに大量発生するセミのことで、一般には周期ゼミ(Magicicada)と呼ばれる。
今年(2007年)はそのジュウシチネンゼミの方の当たり年で、推定で70億匹ものセミが羽化したと言う。(因みに、2007年7月現在の世界人口が66億人)
鳴くのはオスだけとしても、35億匹の耳をつんざく大合唱である。 それが、特定の地域に大発生する。 「閑さや岩にしみ入る蝉の声」なんて、日本で聴くセミの声のように、風流に浸るどころではない。

なぜ局地的に大発生するのか、そしてその周期が17年と13年になったのか。
その謎は、①氷河期を耐え抜いたセミの、幼虫期~成虫期に至る低成長型のライフサイクル。 ②一匹ずつは非力でも、大群をなすことで強みを発揮する。 種の生き残りを賭けたマス戦略。 ③そして、17と13はどちらも「素数」であり、この2グループのみが、異なる発生周期を持つセミとの交雑を最小限に留め得た。 という各々のポイントから、鮮やかに解くことが出来る。

本書に(蛇足ながら)付け加えるならば、3つの謎は、環境に適応し得た種のみが生き残るという、ダーウィンの進化論の命題に繋がってゆく。 (けれどこの辺りは、子供向けということで、教育課程を意識して、あえて語らないでいるのかもしれないですね)
イラストを多用した説明は、明快にして痛快至極。 子供のみならず、大人が読んでも十二分に楽しめる。 お勉強と言うより、スリリングで秀逸無比なミステリーってトコですな。

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August 12, 2007

BAR レモン・ハート 第23巻

 
 
 BAR レモン・ハート 第23巻
 
    古谷三敏  ファミリー企画

       2007年
 
 
コンビニで「BAR レモン・ハート」の新刊コミックを見掛けて、思わず買い込んでしまった。
とあるバーを舞台にした、お酒にまつわる粋なお話しの数々。 薀蓄マスターに、常連の松ちゃんとメガネさん。

このマンガ。 第一話の発表以来、もう二十年も続いているとのこと。
現在23巻。 話数にすれば306話になる、とは言っても、二十年掛けてのことだから、まあ、割合にノンビリとしたペースでここまでやって来たわけだ。
スタートの頃に造ったお酒ならば、もう20年もののヴィンテージ。 円熟も極まったと言う辺りか。

古谷三敏の絵は、相変わらずシンプルこの上なく、しかし説得力は十分。 実に旨い絵と思う。 背景にスクリーントーンをほとんど使わないのも特徴で、それが独特のほのぼのとした空気感を醸し出している。 ただ、このスタイルだと、バーと言う空間に特有のほの暗さまでは表現しづいんだけれどね。

今回収録の13話。 どれも面白いけれど、ロックグラスにクラッシュドアイスを詰めたところにスコッチを注ぐ、スコッチ・ミストの登場する第300話が特にお気に入りかな。
バランタインのスコッチ・ミストに感じ入った老獣医師が、その翌日に再びレモンを訪れて、今度はマスターお薦めのスコッチを試せば、その味わいに若き日々、イギリス留学時代の切ない想い出が蘇る。
お酒を愛するお客と店との、阿吽の呼吸が愉しい一篇。

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August 05, 2007

博士の愛した数式

 
 
 博士の愛した数式
 
    小川洋子著
 
      2003年


算数、それと数学の勉強ってことについちゃ、あんまりハッピーな想い出がないんだな。 大人になって勉強から開放された今だって、日々の仕事や生活の中で遣う数字や計算など、数学と結び付けて考えているわけではないし。 そんな、数学に対して殊更距離を置きたがるスタンスは、なにも私だけのハナシではない・・・・ですよね?
そしてまた、この小説の著者、小川洋子さんもまたその一人だったりするのかもしれない。
 
 
※数論の博士号を持つ有為の数学者でありながら、交通事故の後遺症により記憶が八十分しか持たないという老人「博士」。 小説は博士と、その家に雇われた家政婦、そして十歳になる息子との交流を、抑えの利いた筆致で描いてゆく。
特殊な病故に世間との交渉を持たず、独り数と遊ぶことを心の糧にする「博士」と、その特異な生活に入り込んで来た語り手の「私」に、独り息子の「ルート」。 数学とはおよそ無縁の世界に住む二人に、博士は折に触れ数学について語って聴かす。 それは極めてユニークで親しみやすく、また時に数の世界の深遠さを垣間見せるものだった。
 
 
慎ましく情感溢れる美文は、まことに静謐で安定した(博士の語る数式のように)美しい世界を創り上げていて、そこには数学者ではない作者の持つ、数の織り成す美学への素直な憧れが見て取れる。

数学への憧れですかい? そういうハナシであれば、こちとらも共感出来ますって。 未知の、美しいものへの憧れならば、人後に落ちない積りだし。
博士が数学への愛を込めて語る、たとえば素数。 博士に言わせれば、それはこの世のなによりも美しいもの。
そして友愛数。 「博士」と「私」をつなぐ因縁の数字がこれだった。 けれど、友愛数って? そもそも謹厳、冷徹をもってなる数学の世界の筈でしょう? そこへいきなり、「友愛」なんていう言葉に出て来られてもねぇ。 ドギマギしてしまうではないか。
それから完全数。 その数自身を除く約数の和が、その数自身と等しい自然数のこと。 滅多にあり得ない、この数字を廻る数奇なエピソードは、小さな冒険譚だ。

どこまでも澄みきって穏やかな、でもうら悲しい、まるで小春日のような小説でした。

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August 04, 2007

シムソンズ

 
  
 シムソンズ  Simsons
 
   森谷雄著
 
     2005年
 
 
巷間知られるように、シムソンズは2002年のソルトレークシティ・オリンピックに日本代表として出場した女子カーリングチームである。 北海道常呂町出身のメンバーで構成されたこと、そしてその爽やかな健闘ぶりが話題となり、カーリングという競技を一躍メジャーな位置に押し上げた。

あの当時、テレビで試合が放送された翌日だったか、友人と「まさか、カーリングを見て感動するとは思わなかったよね」なんて言葉を交わした記憶がある。
この小説はそのシムソンズをモデルに書かれたフィクションである。(シムソンズのことは映画にもなったそうで、著者の森谷雄さんは、その映画版「シムソンズ」のプロデューサーも務めたとのこと)

舞台は北海道、オホーツク海に面した常呂町(現在は北見市)。 知床と網走と言う、二大観光地に挟まれた静かな町である。 名物はサロマ湖に、特産のホタテ、そして、なによりユニークなのは、この町ではカーリングと言うスポーツを町民がこぞって楽しんでいると言うこと。
町内には日本初の屋内カーリングホールがあるし、町民の多くがカーリング経験者であり、また、いっぱしのカーリング評論家なのである。 好いなあ、こういう土地。 出来るなら、いつかこんな町に居を定めてみたいもんだと、切に想う。

小説は、常呂町に生まれ育った女子高生四人がシムソンズを結成するところから、最初の公式戦を果たすまでを描いている。 メンバーは、たとえば映画「リンダリンダリンダ」がそうであったように、個性が見事にバラバラな、現代を生きる、等身大の女の子たちである。

テーマは「信じる」こと。 肝心のカーリングの試合シーンはそれほど多くはない。 極々ユルい、そしてこれと言って新味のないスポ根小説と言えるかもしれないけれど、小説が短いのと、簡潔で優しい文体で通しているのとが相まって、上手くバランスが取れていると想う。

出てくる人物が誰もみな好い人ばかりだし、小説全体を充たす、ホワっとした空気感から来る居心地の好さなど、中々に得がたいものがある佳品と想う。
 
   映画版 シムソンズ
 

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