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July 28, 2007

固いおとうふ

 
 
 固いおとうふ
 
   中島らも著
 
    1987年~1997年 双葉社
 
 
中島らもがあちこちの雑誌に書いた軽いエッセイを一冊にまとめたもの。
執筆時期的に、飲酒中のものと断酒中のものとに大きく区別出来るものの、統一したテーマと言えるものはこれといってなく、また、「今夜、すべてのバーで」でみせたような怜悧な切れ味は、ひとまず治められている。

ところで、時々差し挟まれるこの人のギャグのことを、私はちっとも面白いと思わない。 それよりもむしろ、なにげない独白の中に余程傑作で、また好いものがあると思う。(本当はそれも計算ずくやっていて、ちっともなにげなくないのかも、だけれど)

読んでいて感じたのは、この人はつくづくエエカッコしだな、ということ。 文章から、作者のどこか他人とは違う、普通じゃあない自分を見せつけたいという抑え切れぬ衝動が伝わって来るのだ。
それが好い方に働く場合があれば、上手くいかないない場合もある。 だがしかし、生憎と後者の目が出たとしても、こちらは、しょうがねえなあ、って感じでお終いまで付き合ってしまう。 中島作品にはそんなところがある。
おっそろしく人を食った、底の知れない面があるかと思えば、また、コワイくらいに素直で真摯な面をも併せ持っている。 おそらくはそれを保つために、中島はあんな生き方を選んだのか、などとと考えさせられるのだ。
  
 
 ・・・・・・
 
「らもさん、これうまいですよ、豚キムチ!」
「はあ、豚キムチですか」
「豚肉とキムチをザッと炒めたやつでね、これが酒にもご飯にも、よう合うんですわ」
「いただきます」
 破戒僧が殺生戒も畏れずすすめてくれた豚キムチは、ほんとうにうまかった。 そいつを肴に一杯二杯と飲むうちに、さっきまで自分ひとりで緊張していたのがふんわりとほぐれていった。
僕の横では、死刑廃止運動のTさんが熱心に僕をオルグしている。 生返事をしていると、そこへスナックのママさんが割り込んで来て話がわけわからなくなってきた。
 ふと自分の右側を見ると、二十前後の、かしこそうな顔の女の子が僕の袖をつかんで、つんつん、と引いている。
「なに。 どうしたの?」
「あのな。 なんでそんな自由そうにしてられるの」
「え。 なんでござりますかいな」
「なんにも執着がないみたいで、自由そうでうらやましいねん。 なんでそうなるの」
「それはたぶん、自分のことがあんまり好きでないからやろうね」
「自分のこと、好きとちがうの」
「うん。 そやから、自分を可哀そうに思ったり、大事にしてあげたりせえへんから」
「ふうん。 それって、気の毒やね」
「そうかもしらんけど、その”気の毒”やとも思わへんねん」
 いま考えても不思議なのだが、この女の子はいきなり横にきて、いきなり僕の心の敷居をまたいではいってきた。 普通、ノックくらいはするものなのだが。
 
 ・・・・・・
 
 
上記は然るお寺で講演を持った後の、レセプションのエピソードからの抜粋である。 あからさまに人を食ったギャグよりも、中島のこうした、心情を吐露しているのかエエカッコしか、判然としないビミョーな辺りが面白いと思う。

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Comments

らもさんのこの本は読んでません。
 
もとよしさんの書評拝見して、興味が沸いてきました^^
今度、チェックしてみます。
>軽いエッセー
 というのもいい^^

Posted by: みい | July 31, 2007 at 03:44 PM

>みいさん

「今夜、すべてのバーで」は作者の入院体験を元にかかれたそうですけれど、このエッセイはその後、アル中状態から生還して以降の日々から生まれています。

ここに至っても、アルコールを避けるでなし、礼賛するでもなし。 達観しちゃってるのはスゴイと思います。(^^;
いずれにせよ、こういう、過去に書き溜めた小文を集めて、一冊の本に仕立てるというのは、まるまる不労所得って感じで、なんかウラヤマシイですね。(笑)

Posted by: もとよし | July 31, 2007 at 06:49 PM

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