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January 08, 2007

旅行者の朝食

「旅行者の朝食」 

  米原万里著

     文春文庫 (2002年)


作家であり、またロシア語通訳者でもあった米原万里さんの、食物に関するエッセイ集。
幼少時にチェコスロバキアの小学校に通い、長じてはロシア語通訳として第一線で活躍した米原さんならではの、ロシア・東欧の食事情についての薀蓄が興味深い。

それにしても、通訳とは、優れた語学力の他に、知性やユーモアをも要求される仕事なのでしょう。 骨太の筆致でぐいぐいと描くような文体は実に頼もしく、だからといって、押し付けがましさなど少しも感じないのである。

人間、こと食に関しては保守的なものである。 現代の日本に居ては、なかなか実感し難いの感があるけれど、歴史的に見れば、そういうことになる。
今でこそ欧風の料理に欠かせないジャガイモも、ヨーロッパの食卓に定着したのは、意外に新しい。 16世紀に新大陸からもたらされた当時から、救荒作物として期待され、国家の肝煎りで栽培を奨励されたものの、気味悪がって誰も食べてくれなかったのである。 ロシアにおいては、一般にまで浸透したのは、実に19世紀も半ばになってからのことであった。

米原さんがチョコスロバキアで過ごした小学生時代、たった一口食べただけで、その虜になったと言うお菓子、ハルヴァ。 爾来二十数年、仕事で訪れる各国でも捜すが、終ぞ再開出来ないその幻の味とは。

美味しいものの紹介ばかりではない。
この本の題名にもなった「旅行者の朝食」は、ソ連時代に多く出回り、でも、あんまり不味いんで誰も食べたがらなかったという缶詰の名前である。
不味いんだったら改良して美味しくするとか、あるいは生産中止にでもなりそうなものだけれど、そこは計画経済のことで、売れまいが、人気が無かろうが、同じ物をひたすら生産し続けた。 そのムダさ加減はロシア小噺のネタになっていたらしい。
こうなると、果たしてどんなに拙いのか、試してみたくなるというもの。(?!) 好奇心に駆られた米原さんが、買い求めた「旅行者の朝食」を開けてみると・・・・

ソ連ネタでは他このにも・・・・
グリム童話の中に、パンを踏んで地獄に堕ちた娘の、ちょっと怖い話しがあったのを覚えていますか。
国民を飢えさせないことをスローガンに掲げたソ連政府が、パンを格安で供給し続けた結果、皆パンを粗末にするようになってしまった。
硬くなったパンは惜しげも無く捨ててしまうし、家畜の餌よりも安いものだから、飼料の替わりにパンを与えて一儲けを企んだりする。 パンを、それこそ水溜りを跨ぐための踏み石代わりに使うみたいに浪費しはじめた。 で、経済的に立ち行かなくなったその国は、やがて崩壊したわけですな。
我が国だって、と米原さんは警鐘を鳴らす。 減反やら補助金行政で、農家の米造りへの誇りを失わせるようなことをしているではないか。 この国もまた崩壊への道を辿ってはいないか、と。

後半は国内編となって、米原さんとそのご一族の、見事な健啖ぶりをユーモアを交えて描く。 読んでいて、人間、喰わなきゃあなんにも出来ないわい、と思わせられるのである。
終章の「叔父の遺言」、そのお終いに来て、ホロリとさせるところがなんともニクイ。

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Comments

こんにちは。
 米原万里さんの本は、数冊書棚にあるのですが、これは未読です。早速書棚を見るとありました(笑
もとよしさんの記事を読んで、すぐ読みたくなりました。今晩から読みます^^
それにしても、万里さんには、もっともっと長く生きて欲しかったですね。妹さんによる闘病の様子を何かの雑誌で読んだのを思い出しました。

Posted by: みい | January 09, 2007 at 04:10 PM

>みいさん

みいさんも、米原万里さんをご存知でしたか。(^^)

米原さんは、プレッシャーの多い通訳の仕事の合間に、各国の料理を食されるのは勿論、ご自分でも料理を楽しまれたようですね。
ロシアや東欧に独特の食材を用いたりして、興味をそそられます。

昨年まで週間文春に闘病日記(?)を連載されていましたね。 なので、ご病気なのは知っていましたけれど、訃報には流石に驚きました。

Posted by: もとよし | January 09, 2007 at 09:28 PM

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