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August 22, 2006

アポロ13 奇跡の生還

「アポロ13 奇跡の生還」
 ヘンリー・クーパーJr.著
 立花隆訳(下訳 鶴岡雄二)
 
13:THE FLIGHT THAT FAILED
 HENRY S.F.COOPER,JR.
 
 
先にアップした「アポロ13」と同様、これは13号のミッションに関する一冊。
但し、本書はアポロ13号の事故発生から生還までに内容を絞っていて、しかも、発生した事実だけを淡々と述べ、積み上げていくと言う、ストイックな表現手法に徹している点が、船長のラベルが中心軸にあって内容の多岐に渡った「アポロ13」とは大きく異なる。

本のまえがきで、訳者はこのように述べている。
< しかし、私にいわせれば、アポロ11号の成功より、アポロ13号の失敗のほうが、アメリカの宇宙技術のすごさを示していると思う。別の表現をすれば、このような失敗に対応できるだけの技術力を持っていればこそ、アポロ11号の成功があったといえるのである。>
全世界の注視するなかで失敗してしまったアポロ13号のミッションだけれど、しかし絶望的な状況からの生還こそが、むしろ最高の成果であると主張する視点は実に刺激的だし、昨今のリスクマネジメントに対する意識の高まりともマッチして、いろんな意味で興味の尽きない本と思う。

NASAが宇宙船を打ち上げる度に、テレビのニュースなどに映るヒューストンの管制センター。 大教室みたいなところに大勢の職員が同じ向きに座って、正面のスクリーンには地球を中心にした宇宙の概念図に、宇宙船の航路が描かれている。 昔からお馴染みのシーンである。
各職員の前には各々の担当分野別のコンソールが置かれて、アポロ計画の当時など、テレビに映る職員の姿を、畏敬の念をもって見詰めた覚えがある。

あの、ずらりと並んだ宇宙船のスペシャリスト達は、席毎に細かな役割が与えられていて、現場では概ね略称で呼ばれる。 前列から順に挙げてみると、

 <第一列(トレンチ)>
  ガイドー     :誘導主任
  ファイドー    :飛行力学主任
  レトロ      :逆推進ロケット主任
 <第二列>
  イーコム    :指令船の電気系統や環境系統などの担当
  テルミュー   :着陸船システム主任
  GNC、コントロール :誘導航行主任
  キャプコム   :宇宙船通信士
  フライト・サージャン :航空宇宙専門医
 <第三列>
  インコー    :計器および通信主任
  フライト・ディレクター:飛行主任
 <第四列>
  上級職員
  広報担当
 
と言う具合。
 
管制席の第一列目には特にトレンチ(塹壕)と言う異名があるそうで、宇宙船の航行を直接担当する重責を担っている。 トレンチに詰めるレトロ、ファイドー、ガイドーらは、宇宙船のエンジンを噴射させる際など、まるで自分達が実際に宇宙船を飛ばしている気分になると言う。 究極の宇宙船ごっごだね。
第二列は、宇宙飛行士の生命を預かる、船内環境まわりを担当。
第三列には、現場の最高指揮官である飛行主任が座り、ミッションの全体を統括する。

本書では、上に挙げたようなNASA特有の略称が、もう、これでもかってくらいに頻出して、その分、読者は苦労を強いられることになる。(読んでいて、「イーコム? え~と、それってなんの役割だっけ?」とかなってしまう) でもその分、現場の雰囲気、緊迫した会話のスピード感はしっかりと伝わって来るね。 
因みに、先にアップしたラベル船長の「アポロ13」では、略称ではなしに正式名称で表記されることが多かった。 この手法だと判りやすい反面、会話のスピード感や雰囲気には、やはり欠けると思う。ま、これは本の評価と言うよりは、翻訳の姿勢に関する問題な訳だけれど。 自分的には、「アポロ13 奇跡の生還」の略称を容赦なしにビシバシ使うやり方は、結構楽しめたと思う。

本書の場合、アポロ13号の事故発生から着水までの事象のみを淡々と描いて話しが決して脱線しない(「アポロ13」とは異なり)ので、事故と救出劇そのものに関しては、本書の方が余程判りやすいと言える。 その反面「アポロ13」と比べて、本書の描写はあまりにもそっけないと思う人もいるかもしれないけれど、大気圏再突入や着水の場面など、抑えた筆致が、むしろ「アポロ13」を上回る感銘を呼んでいると思う。

ミッションの終わりに至って、3人の宇宙飛行士はもちろんのこと、管制センターの面々もまた燃え尽きていたらしく、ある職員は13号の事故後5日経ってもなおアドレナリン出まくりのハイテンション状態が収まらなかったそうだし、また、イーコムの一人は事故後2週間経っても、毎晩事故発生の夢にうなされたと言う。 宇宙での事故発生から南太平洋への着水までの5日間が、管制センターの面々にとって如何に濃密な日々であったかを物語っていると思う。

本書は事故についての事象のみを淡々と追っているようで、実は、その中で奔走する人々を描き切っている、読み応え十分の優れたルポタージュと思う。

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