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April 09, 2006

広辞苑の序文

しばらく前の週間文春で、高島俊男さんのエッセイにあった話し。(週間文春 平成18年3月16日号 「お言葉ですが・・・」)
あの(!)広辞苑。 隠れも無い代表的な国語辞典な訳だけれど、その序文は名文だと言うのである。
では、一体どんな具合に名文であるのか、高島俊男さんはこれまでいろんな人にクイズを出してみたけれど、未だかつて一度も正解者が出たことがないと言う。

以下はそのネタバレになるので、クイズに挑戦(?)してみたい方は、広辞苑の序文を調べるなりして答を出した後に読んで頂きたい。


   ▽▲▽▲▽▲ ネタバレ注意! ▽▲▽▲▽▲


昭和二十一年十一月。 内閣訓令により正式に旧かな使いが現代かな使いに改められた。 広辞苑の初版は昭和三十年だからして、当然最初から現代かな使いで編纂されている。
しかし、旧かなから新かなへの移行に抵抗を示した人々もいた訳で、広辞苑の序文を書いた新村出もその一人であった。 自分は、断じて新かなの文章など書きたくはない。 しかし、広辞苑は新かなの辞書である。 まさか序文だけ旧かなで通す訳にもいかない。
このジレンマへの回答として新村出は、新かなと旧かなで表記が相違する語を一切使わずに序文を書きあげると言う離れ技を演じてみせた。

それにしても、これって、作文のハードルとしては相当キツイものになると思う。 なにしろ「ゐる」、「思ふ」、「であらう」、「なのでせう」、「のやうな」と言った、新かなと旧かなで表記の異なる単語はことごとく回避して文章を仕立てなければならない。 それでいて、内容としてこの大国語辞典の劈頭を飾るに相応しい水準でなければならない訳だし。
こちとら、辞書に序文ってモノが載っているのは知っていても、それを読んだことなんぞ一遍も無いと来ている。 まあ、大概の人が同じではないだろうか。 早速、広辞苑の序文を読んでみて納得した次第。
この時代、旧かなから新かなへの切り替えに抵抗した文学者、作家は少なからずいたと思うけれど、新村出の序文に見る、己が文才を駆使しての「これで文句あっか?!」とでも言いたげな抗い方からは、一種のユーモアを感じてしまう。(言葉の大先達に対して、不謹慎な感想だろうか?)

内田百閒が毎日新聞に寄稿した折に、やはり、かな使い衝突語を避けた文章を書いてみせたと言う。 一体、新聞社では、旧かなで書いた原稿を渡されると、勝手に新かなに直した上で新聞に載せるということをやっていたそうで、それに憤った百閒が、かようなプロテストに及んで溜飲を下げたとのことである。 如何にも、百鬼園先生ならばやってのけそうなエピソードと思う。

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Comments

広辞苑の序文、読んだことなかったですねえ。クイズ挑戦しても完敗だったと思う(笑
早速、手元の広辞苑開いてみましたよ。ありました「自序・第一版」読んでみました。新・旧で表記の異なる単語を排除した文章、すごいですね。私には絶対解らなかったです。
もとよしさんの記事を読んで納得、高尚なユーモアやっと解りました(笑

Posted by: みい | April 09, 2006 at 12:28 PM

>みいさん
 
旧かなから新かなへの移行に、忸怩たる思いを抱いた文学者のこととか、今では殆んど知られていませんね。 新村出の序文からは、旧かなを尊ぶ文学者の気概が感じられます。
こういった新旧かな衝突回避戦法。 旧い文章を捜してみれば、他にもあるかも、ですね。(笑)

Posted by: もとよし | April 09, 2006 at 01:40 PM

広辞苑の序文を読んでしまいました。

>新聞社では勝手に新かなに直した上で新聞に載せる
>それに憤った百閒が
いかにも百閒先生が怒るだろう、といことをやる新聞社も新聞社です(笑


ちなみに私が文春で最初に読む記事は「淑女の雑誌から」なのは内緒です。

Posted by: 晴薫 | April 09, 2006 at 06:09 PM

>晴薫さん

ま、まさに淑女の雑誌で。(笑) なんだかアノ頁だけ、別の週間***買っちまったかって感じですね。

ちくま文庫から出ている内田百閒集成は、全編が新かなに直されていますね。 これによって、百閒文学の魅力は五割減。 もう、愚行と言う他無いです。

Posted by: もとよし | April 09, 2006 at 07:40 PM

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