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July 30, 2005

「江戸アルキ帖」

「江戸アルキ帖」(新潮文庫)
先日、惜しくも亡くなられた杉浦日向子さんの著作の中で、私がもっとも愛する一冊がこれ。 (杉浦さんの作品を、あまねく読み尽くしていると言う訳ではないけれど) 今ではすっかり手垢が付いて、表紙もボロボロになってしまっている。

これはSF仕立ての、日帰り江戸時間旅行記である。 文庫本の見開き二頁分で一編の江戸旅行記と言う体裁で、右頁にショートストーリー、左頁にはイラストが描かれている。 ショートストーリーは、タイムマシンを利用して毎週末、近未来の東京から江戸への日帰り旅行を楽しむ主人公(おそらくは、30代くらいの女性、と言うか、これは杉浦さん本人なのだろう)の一人称形式。
歴史上の事件などには、とんと興味なく、それよりも市井に住まう庶民の暮らし向きや、四季折々の行事などに温かい視線を向ける。 江戸の町並みを愛で、銭湯や蕎麦屋を訪れてみたり、あるいは、これと言って目的もなしに散歩・・・にしては、かなりの強行軍だけれど・・・を決め込んだり。 タイムマシンで好きな時代に出入り出来るからと言って、例えばミーハーに、赤穂浪士の討ち入りを見物に行ったりはしないのだ。 決して。その辺が、如何にも杉浦さんらしい。

主人公の見て来た江戸の町々を描くイラストが、また実に好い感じなのだ。 色鉛筆か、パステル系の画材を使い、落ち着いた、過不足のない筆致で、江戸の風景を淡々と描いてゆく。
そのあまりの見事さに、最初想ったのは、「杉浦日向子って天才だ!」と言う事。 それくらい、一部の隙も無い、完璧な構図のイラストが幾つもあった。 それが、江戸名所図会などから、図柄をそっくり拝借して来たりしているのに気がついたのは、大分後になってからのことである。
でも、こういったものからは、一枚の絵からイメージを膨らませて、時間旅行記にまとめた作者の、江戸に寄せる愛情が伝わって来て、また楽しいのである。 但し、絵の出典くらいは、巻末にでも記しておいた方が良かったのではないか。

この本は、何時でも手の届くところに置いてあって、手持ち無沙汰になった折など、パラパラと頁を捲ってみたりする。 文句なしの、我が愛読書である。

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Comments

こんばんは。
コメントとトラックバックありがとうございました。
『江戸アルキ帖』いいですよね。
そうそう!と思いつつ、こちらの記事を読み、
他のエントリもとても面白く読ませていただきました。
トラックバックさせてくださいね。

Posted by: きたきつね | July 31, 2005 at 10:10 PM

>きたきつねさん
おいでませ、問はず語りへ~(^o^)
私の場合、杉浦さんの作品に未だ未読のものが少なくないのです。(百物語や百日紅も未だ読んでいなかったりします(^^ゞ) 作者を偲びつつ、追々、読んで行こうかと思っています。
よろしくお願いします。

Posted by: もとよし | August 01, 2005 at 12:24 AM

こんばんは、もとよしさん。

この本面白そうですね。
読んでみることにします。
私も杉浦さん、好きでした。

合掌!

Posted by: 晴薫 | August 05, 2005 at 10:28 PM

>晴薫さん
晴薫さんも杉浦さんのファンでしたか。
ご逝去は、本当に残念ですね。

杉浦さん、出来る事ならば、江戸に住み込んでしまいたかったのじゃないかって想います。 「江戸アルキ帖」の中では、時間管理局の方針から江戸への時間旅行は日帰りのみ許されていて、つまり、毎回その日の内に東京に帰って来なくてはならないのですけれど、それが、かえって個々のショートストーリーをイメージ豊かに(~遠きにありて想うもの、ではないですけれど)しているかと想います。

Posted by: もとよし | August 06, 2005 at 03:17 PM

コメントありがとうございました。
もとよしさんの記事を読んで早速図書館に行き、「江戸あるき帖」を借りて読んでます。イラストがやわらかい感じで「大江戸美味草紙」とはタッチが少し違いますね。

Posted by: 920の娘 | August 07, 2005 at 05:24 PM

>920の娘さん
ようこそ問はず語りへ!(^o^)
なるほど、「江戸アルキ帖」のイラストは、杉浦さんの作品の中では一風変わっているのかも、ですね。
私は、「大江戸美味草紙」の方が未読なので、そのうちに読んでみたいと思います。

Posted by: もとよし | August 07, 2005 at 08:15 PM

もとよしさんの記事を読ませていただき、
この本買いました。

過不足のない筆致。
確かにそのとおりだと思いました。
お亡くなりになった今から振り返ると、
なんとなく哀しくなる本ですねぇ。

Posted by: 晴薫 | October 10, 2005 at 09:36 AM

>晴薫さん
「江戸アルキ帖」、お読みになりましたか。
この本は絵も文章も淡々として・・・それこそドラマチックなところなど少しもなくて、その分、こうして江戸の庶民の中に住まうのが夢だったろう作者の、その思いが伝わって来ますね。
晴薫さん同様、私もまた、この本を見る度に哀しい気持ちになってしまいます。

Posted by: もとよし | October 10, 2005 at 10:52 AM

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