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June 11, 2005

「徳川家康」第5巻 うず潮の巻

「徳川家康」 第5巻 うず潮の巻 (山岡荘八著 講談社文庫)

姉川、三方ケ原と合戦に明け暮れる家康に、家庭を放ったらかしにして来たツケが・・・・・惑乱の一巻。

織田信長の朝倉攻めに付き合う家康。 家康としては、ここで、どうしても、自分の実力を信長にアピールしておかねばならないのだが、家中の一部、特に築山殿にはそれが理解されなかった。 伯父の今川義元を討った信長に尻尾を振っているとだけ見えて、その不満が築山殿をして遂に大賀弥四郎を相手の不倫に走らせてしまう。 
様々な廻りあわせの悪さから築山殿の悲劇が始まった。 しかしここで、決して築山殿一人を悪者にしてはいない作者の視点には共感を覚えるのである。

浅井家の寝返りによって退却を余儀なくされる織田軍だが、岐阜でその留守を守る濃姫は、主君不在の城内で巧みに采配を振るい、防御体制を整える。 戦となれば成す術を知らず右往左往するだけの側室たちと、戦略的思考の持ち主濃姫とを比較する作者の視線は結構シビアだと思う。

姉川の合戦では大活躍をした三河勢。 信長への、と言うよりも天下へのアピール度は充分であったろう。 まさに、三河武士ここにあり! なのである。

そして、武田信玄との三方ケ原の戦いこそは、信玄に黙って枕を跨がせるわけにはいかない、家康の意地を掛けた、一世一代の負け戦である。
家臣達の多くは最初反対したが、家康が一旦こうと決めた後は、従容として戦列に連なった。 壮絶に戦い、ものの見事な負けっぷりをする徳川軍。 襲い掛かる武田軍への恐怖に取り乱し気味の家康は、家臣達の犠牲により、辛うじて浜松城に生還することが出来た。 戦の済んだ後、死んでいった家臣達を想って独り涙する家康。

家康が合戦に明け暮れる間、岡崎城では築山殿の暴走をもう誰にも止めることは出来なかった。 大賀弥四郎との関係に加えて、今度は医師の減敬とも不倫に及ぶ。 その減敬は武田勝頼が岡崎に送り込んだスパイであり、養女あやめを信康の側室にしてしまうのだから、岡崎城はもはや俎上の鯉である。
信康も好い若者なのだが、育てられ方が決して理想的とは言えない。 どうにかならなかったのだろうかと、ここのところは家康を恨みたくもなる。 それにしても、激情に任せて小侍従に斬り付けてしまう信康の姿はあんまりである。

築山殿と大賀弥四郎の陰謀は面白いように進み、遂に武田勝頼の間に密約が交わされる。 家康が、強大な武田家を相手に脇目を振る暇もないのは判るが、その間、家中は大変な事になっているのだと教えてやりたい。 なんとも歯痒い想いが残った。
 
 
 
大久保忠隣 「お館・・・・・本田忠真どの討死なされてござりまする」
徳川家康   「なに、忠真も死んだと・・・・・して、しんがりには誰が
         居るぞ」
大久保忠隣 「内藤信成にござりまする。 殿! いまのうちに早く」
徳川家康   「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
         忠隣、正成、返り合せ! 信成を殺すな」
大久保忠隣 「お館!
         お館は何というバカ大将じゃ。忠真どのも信成どのも、
         お館をご無事に城へお返ししたいばかりとお分り
         なされませぬか」
 
 
 
<<あらすじ>>
木下藤吉郎は足軽頭藤井又右衛門の娘、お八重を娶った。 成り上がり者の藤吉郎を嫌う又右衛門に取り入るに当たって、得意の知略を駆使したことは言うまでもない。

上洛を果たした信長は朝倉攻めを開始する。 これには家康も援軍として加わっていた。 織田家と浅井家は、長政とお市の方の結婚で結ばれていたが、朝倉家への義を重んじる隠居久政に押し切られた形で、浅井長政は遂に朝倉家に味方する事を決める。
織田軍は朝倉軍を追って一乗ケ谷に攻め入ったが、浅井家の寝返りによって事態は一気に急転。 腹背に敵を受けて全滅の危機に陥ってしまう。
もはやこれまでと、敵軍と刺し違える覚悟を固める信長に、家康は、ここは一旦退却することを進言する。
浅井軍が来る前に総退却する織田勢。 危険なしんがりを引き受けたのは木下秀吉である。
濃姫は将軍足利義昭の不穏な動きから信長の危機を察知する。 急ぎ岐阜に帰って織田家の防備を固める濃姫。 急場にあたって成す術を知らない側室たちに比べ、濃姫はこの場を巧みに仕切ることが出来たのである。 この辺り、この当主にしてこの妻ありの呼吸である。
一方岡崎城では、命がけで退却する家康の苦労をよそに、夫の戦略を理解出来ず独り悶々とする築山殿が、勘定方の大賀弥四郎を相手に不義を働いていた。

一旦は退却した信長であるが、立ち直りは極めて早かった。 リターンマッチは姉川の合戦。 家康はその布陣に当たって、敵軍最精鋭の朝倉本隊との対戦を所望する。 家康としては、この戦いで自分の実力を信長にアピールしておかねばならなかったのである。 その三河勢の大健闘により戦は徳川織田連合軍の勝利に終わった。

甲斐の武田信玄が遂に上洛の動きを見せ始めた。 家康の領土は、その上洛のルート上に位置するのである。 浜松城に戻った家康は、休む暇も無く武田信玄との戦いに備えねばならなかった。
武田勝頼は家康との戦いに備えて、岡崎城に間諜として医師の減敬を送り込む。 徳川家を内側から切り崩そうと言う謀略である。 減敬は養女あやめを信康の側室として、信康と徳姫を離間させ、一方自身では築山殿に近付いていった。
家康は武田軍と戦うべきか悩み抜く。 元々、どうあっても戦って勝てる相手ではなかった。 武田軍に黙って領内を通過させれば、戦いは避ける事が出来るが、しかし、それでは信玄に向けて尻尾を振った事になる。 徳川家は何処にも帰属してはならない。それが家康の信念であった。
一部の家臣の反対を押し切って、開戦を決定する家康。 三方カ原の合戦が始まる。 当初は健闘した三河勢だが、一旦崩れ始めるとその後は脆かった。 軍勢はバラバラとなり、家康は家臣に守られて辛うじて城に生還した。 多くの犠牲を払って、天下の何者にも屈っせぬ意地を貫いて見せた徳川家康。
その頃、岡崎城では信康があやめを側室に迎えていた。 勝頼の陰謀が、岡崎城内に徐々に食い入る。 減敬と大賀弥四郎のそれぞれを相手に不義を働く築山殿。
浜松城下を通過して侵攻を続ける武田軍であったが、野田城攻めの途中、武田信玄が病に倒れ、退却を余儀なくされる。
いよいよ勝頼と築山殿との間で密約が成立する。 築山殿は岡崎城を武田軍に渡す代わりに、信康には岡崎の領土を安堵し、自分は武田方に保護して貰う条件である。 お万の方懐妊を知った築山殿は、侍女の喜乃にお万の方暗殺を命じる。
信康を慕うあやめは、自分が甲州から送り込まれたスパイであることを徳姫の侍女小侍従にバラしてしまう。
減敬は、不穏な動きに気付いた信康に斬られる。 その信康は武田方の城を攻めて初陣を果たす。 大賀弥四郎はその隙に勝頼軍を場内に迎え入れるべく、手下の山田八蔵を武田方へ派遣した。 大賀弥四郎の陰謀は成就目前。 弥四郎は得意の絶頂にあった。
 
 
<<登場人部>>
<徳川家>
徳川家康:徳川家当主
徳川信康:徳川家嫡子
瀬名:築山殿 元康の正室 今川義元の姪
徳姫:信康の妻 信長の長女
<徳川家家臣>
伊井万千代直政
夏目正吉:三方が原の合戦で家康の身代わりとなる
外山正重:三方が原の合戦で一番槍を付ける
久松弥九郎俊勝:於大の方の夫
減敬:医師 築山殿と不義を働く 実は甲州の間者
向坂五郎次郎:向坂兄弟の次男
向坂式部:向坂兄弟の長男
向坂六郎三郎:向坂兄弟の三男
高木九助
榊原小平太康政
山田八蔵重秀:大賀弥四郎の手下
柴田泰忠
酒井忠次:旗頭
小笠原長忠
小谷甚左衛門:大賀弥四郎の手下
松平家忠
松平康純
松平次郎右衛門重吉
松平与一郎忠正
植村正勝
成瀬小吉
成瀬正義
西郷左衛門佐清員:お愛の叔父
青木所右衛門
石川家成:旗頭
石川数正
倉地平左衛門:大賀弥四郎の手下
村松芳休:笛の名手
大賀弥四郎:勘定方 築山殿と不義を働く
大久保七郎右衛門忠世:忠俊の孫
大久保忠隣:忠世の子
大久保彦左衛門忠教:忠世の末弟
大久保彦忠佐:忠世の弟
鳥居元忠
鳥居三左衛門
鳥居四郎左衛門忠広:「殿! 忠広は臆病でござりましたか」
天野三郎兵衛康景
渡辺半蔵守綱
内藤信成
内藤正成
平岩親吉:信康付きの重臣
米沢政信
本多作左衛門
本多忠真
本多平八郎忠勝:旗本
野中五郎重政:信康付きの家来
鈴木久三郎
あやめ:信康の側室 実は減敬の送り込んだスパイ
お愛:西郷義勝の後家
お琴:侍女
お粂:大賀弥四郎の妻
お万:家康の側室
喜乃:侍女 お琴の妹
小侍従:徳姫の侍女

<織田家>
織田信長:織田家当主
織田信忠:織田家嫡子
濃姫:信長の正室 斎藤道三の娘
お類:信長の側室
奈々:信長の側室
深幸:信長の側室
<織田家家臣>
安藤範俊
稲葉一鉄
下方平内
蒲生鶴千代
佐久間右衛門
佐久間盛政
佐々成政
坂井右近
氏家直元
柴田勝家
松永弾正久秀
森三左衛門可成
菅谷九郎右衛門:岐阜城留守居
生駒八郎衛門:岐阜城留守居
前田又左衛門利家
滝川一益
丹羽長秀
池田信輝
竹中久作:半兵衛の弟
竹中半兵衛:秀吉の軍師
猪子兵助:伊賀者奉行
藤井又右衛門:足軽頭 秀吉の舅
福富平左衛門:岐阜城留守居
平手汎秀:三方が原の合戦で戦死
明智光秀
木下藤吉郎秀吉
矢部善七郎:岐阜城留守居
お八重:秀吉の妻 藤井又右衛門の娘 寧々

<浅井家>
浅井長政:浅井家当主
浅井久政:隠居 長政の父
お市の方:長政の室 信長の妹
茶々姫:長政とお市の長女
高姫:長政とお市の次女
<浅井家家臣>
小野木土佐:織田軍に使いする
礒野員昌:姉川の合戦で先陣に立つ
遠藤喜右衛門:重臣

<朝倉家>
朝倉景隆
<朝倉家家臣>
山崎長門:浅井親子を説得する
真柄十郎左衛門直隆:五尺二寸の大太刀「千代鶴の太郎」を使う
真柄十郎三郎直基:直隆の子 「千代鶴の次郎」を使う

<武田家>
武田信玄:武田家当主
武田勝頼:武田家嫡子
武田信豊
<武田家家臣>
穴山梅雪
山形三郎兵衛昌景:甲斐の名将
室賀信俊
秋山信友
秋山晴信
小山田信茂
小幡信貞
上原能登守
天野景貫
同苗満信
内藤昌豊
馬場晴信

<足利家>
足利義昭:征夷大将軍
<足利家家臣>
細川藤高

<その他>
朽木元網:敗走中の信長一行を泊める
藤野勝楽:本願寺から武田家に派遣された使者
 
 
 
前半は姉川の合戦、三方ケ原の合戦と戦が続くけれど、山岡作品の合戦シーンはそれ程華やかなものでもなく、むしろ、あっさりと描かれる。
一方、後半の大部分を占める築山殿の謀反は、読んでいて、正直辛いものがある。 銃後(?)を守る女性達に対して、いささか厳しいとも感じさせられる作者の視線は、戦中を生き抜いた世代ならではだろうか。
 
 
天下泰平まであと21巻。

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Comments

こんばんは!
第五巻 又、読んだつもりになりました(笑)
やはり、築山殿の人生に想いがいってしまいます。この時代に生きた、こういう人生を生きた女性・・・がいたことを。
もし、現代にいたら、あ、いますよね。たぶん・・・

Posted by: みい | June 15, 2005 at 09:27 PM

>みいさん
名門の出で有名人の奥さんだけに、現代ならばワイドショーのネタにされるかも、ですね。(^_^;

貴婦人としての生き方しか知らず、しかも実家が滅び去ろとしている築山殿の場合は、何処にも逃げ場の無かったのがなんとも哀れです。 (築山殿の暴走ぶりも、また凄まじいものがありますけれど)
山岡荘八の文体からは、妻の嫉妬や、夫の仕事に対する無理解を戒めるような、教訓めいたところが伝わってきて、ここの処は作品の「時代」を感じさせられます。
一方、読者の私としては、この戦後のベストセラーを、現代の視点から読んでいる訳で、その辺の価値観のせめぎあいも、また一興と思います。

Posted by: もとよし | June 15, 2005 at 11:00 PM

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