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June 26, 2005

「徳川家康」第6巻 燃える土の巻

「徳川家康」 第6巻 燃える土の巻
         (山岡荘八著 講談社文庫)

戦乱の犠牲となるのは武士だけに限らぬ。 人質として、罪人の縁者として散らねばならぬ人々・・・哀憐の一巻。

家康は長篠城を手に入れるための秘策として、山家三方衆の奥平美作を徳川方へと寝返らせることに成功する。 大名家の従属関係の常識として、奥平家から武田家に人質を差し出してあるのだが、武田方から徳川方へ寝返った場合、この人質らを見殺しにすることになる。 乱世とは言え、なんとも無残な話しである。 奥平家の繁栄と存続のため、笑って斬られにゆく末子の千丸。 納得のゆかぬまま死ぬおふう。

その奥平家に嫁ぐことになるのが、家康の長女亀姫である。 我が侭一杯に育てられて来ただけに、築山殿の二の舞を演じるのではないかと先々が心配ではある。 ともあれ、幾多の犠牲を払って長篠城は家康の手中に収まった。

信長の浅井攻めにより小谷城が落ち、お市の方と娘らが織田家に戻って来た。 生涯に三度落城を経験することになる茶々の、これが最初の落城である。
お市の方救出劇の立役者、羽柴秀吉の廻りには竹中半兵衛の他、加藤虎之助、福島市松、片桐助作、石田佐吉、蜂須賀小六など、後の豊臣家を支えるメンバーが揃い始めているのが楽しい。

家康も分別盛りと言う事なのか、戦に勝っても喜ぶどころではない。 城に戻るやいなや、今度は農作物の収穫の心配をしているのである。 それが終われば、次の戦いに向けての準備と、三河の領主は休む暇も無く働き続けるのだ。 大名にとっては、戦そのものよりも、戦の前に済ませておくべき仕事の方が余程大変なのではないか、などと思わせられる。

確かに、勝頼のように戦功を焦って無理な戦ばかり重ねていると、国力はあっと言う間に疲弊し果てて、人心もみるみる離れてゆく。 そうすると、武田のような名家と言えども、あっと言う間に落ちぶれてしまうのだ。 だから、単に戦に強いだけでは、やっていかれない。 ともあれ、家康ってあんまり明るい人とは見えない。 家康=インケンと言うイメージは、この無慈悲なまでの現実直視主義から来ているものなのかもしれない。

大賀弥四郎の謀反が漸く発覚した。 財務のスペシャリストとして重用した寵臣だけに、家康としても余程ショックであったろう。 弥四郎の極刑はもちろんとして、当時の習慣により、何も知らない家族もまた処罰を免れ得ないのである。 旧知の弥四郎の妻女に対して、罪過を告げねばならない大久保忠世の苦悩には同情を禁じえない。
 
 
 
羽柴秀吉  「半兵衛、この秀吉が、お市どのに惚れている
         などと思うなよ」
竹中半兵衛 「この期に及んでのお戯れ、恐れ入りました」
羽柴秀吉  「どうだな、久政をあっと言わせる手は」
竹中半兵衛 「あっと言わせるのは久政ではござります
         まい」
羽柴秀吉  「誰だ。長政の方か?」
竹中半兵衛 「いいえ、味方の御大将、信長公でなければ
         なりませぬ」
 
 
 
<<あらすじ>>
徳姫の侍女喜乃は、築山殿から産褥のお万の方殺害を命じられ、浜松城へと入ったが、お愛と本多作左衛門に謀を見破られ、お万の方も事無きを得る。 築山殿の嫉妬心を恐れる本多作左衛門は、お万の方を中村源左衛門宅に預けた。

信玄の死を確信した家康は、長篠城の総攻撃を準備する。 山家三方衆の一人で作手城主奥平美作守貞能を密かに内応させ、武田陣営を混乱させようと言う作戦である。 奥平美作は、徳川方に寝返る代償として、家康の長女亀姫を嫡子九八郎貞昌の嫁に所望した。
武田方から謀反の疑いを掛けられた奥平貞能は、武田信豊に決死の申し開きをして、その場を切り抜けると同時に、末子の千丸と九八郎貞昌の名目上の妻おふうを人質として差し出す。 寝返りの代償として彼らが処刑されるのは覚悟の上である。
こうして奥平貞能の協力を得た家康は、漸く長篠城を落とす事が出来た。

勘定方の大賀弥四郎は、家康が長篠城を攻めている隙に、城主不在の岡崎城に武田軍を引き入れようと、部下の山田八蔵を武節城に送り込むが、八蔵は勝家とのコンタクトに失敗してしまう。
大賀弥四郎の計略が上手く運ばないことに感づいた築山御前は気落ちするが、しかし、今度は長女の亀姫が、築山御前の気性を受け継いだような勝気さ、傲慢さを発揮し始めた。

長篠城攻めを終えて浜松へ引きあげた家康は、ほっとする暇も無く、今度は内政に立ち働いた。 それはまるで、安心し切って何ものかに足元を掬われることを畏れるかのようであった。
お万の方が男児を出産。 が、家康は築山御前に気兼ねして、我が子に会おうとはしなかった。 我が子に対して、率直に愛情を示せない家康に憤る徳川家の重臣達。

信長の浅井家攻略が始まった。 強大な信長軍に攻められれば、万に一つも勝ち目の無い小谷城だったが、信長からの再三に渡る降伏勧告に対して、信長を嫌いぬく浅井久政は断固として投降を拒み続けた。
お市の方は三人の姫ら共々、浅井久政、長政父子と運命を同じくする覚悟であったが、長女茶々姫だけは生への強い執着を見せた。
軍使による説得が効かぬと見て取った信長は、秀吉にお市の方と三人の姫の救出作戦を一任する。 秀吉にとってこれは出世のチャンスであると同時に、失敗の許されない賭けでもあった。 秀吉と軍師竹中半兵衛は、手勢を投入して城内を二方に分断させ、浅井父子の連絡を絶つ事で、見事にお市の方と三人の姫の保護に成功する。
かくして浅井氏は滅んだ。 秀吉は浅井攻めを成功させた功績により、小谷城十八万石の城主となった。 早速に領内を視察する秀吉は、没落していた京極家の房姫を見出す。 貴種好みの秀吉は、嬉々として室に迎えることにした。

武田勝頼は長篠城の落城に苛立っていた。 更に、信玄以来の旧臣達の信頼を勝ち得ないことから来る焦りから、奥平美作守から差し出された人質の千丸、おふう、虎之助を磔刑に処した。 幼くとも武人として死ぬ覚悟の千丸と虎之助。 一方おふうは、政略の道具とされたことへの、不当な思いを胸に留めたまま処刑される。 この後、武田軍は長篠から甲州へと兵を退いていった。

家康は、武田軍が再び襲ってくる事態を見越して、領内の米を早めに収穫させて城内へ蓄えるなど、糧食の確保の余念が無かった。 磔刑にあったおふうを憐れに思う家康は、おふうの妹の於阿紀を弟松平定勝(元の長福丸)の妻へと迎えた。
やがて、家康の読みの通り武田軍が浜松に向けて襲来した。 が、正面切っての対決に持ち込まず、随所で翻弄させて廻る家康。 三方ケ原の戦いの折、信玄に歯向かって手痛い目にあった家康だが、今度は家康が勝頼をあしらう番だった。 無念を抱いて甲斐に引きあげる武田勝頼。

お万の方の子、於義丸が誕生した。 それを知って素直に喜ぶ我が子信康を見る築山御前は寂しかった。 徳姫の侍女の小侍従は、築山殿と大賀弥四郎の陰謀に気付いて徳姫に告げた。 癇癪を起こした信康は、徳姫に怪我をさせ、更に小侍従を斬り捨ててしまう。 しかし小侍従は只の侍女ではなく、信長が徳姫のために特に寄越した者である。 自らの仕出かした所業に呆然とする信康。

甲州勢が高天神城攻めを開始した。 家康の元には高天神城からの再三に渡る救援要請があったが、家康は城将の小笠原与八郎を信頼していなかった。 家康からの要請を受けて、信長も救援に向かったが、これも戦略上の駆け引きで、本気で戦う気持ちは無かったのである。 遂に、高天神城はおちるに任せた。

築山殿を見限った大賀弥四郎は、徳姫に謀反を告げ口する。 無論、自分に付いては清廉潔白であると言い添えての上である。 山田八蔵は、そんな大賀弥四郎の無慈悲さを見て怖れをなし、次は自分が捨てられると思い込んで、同僚の近藤壱岐に全てを打ち明けた。
主君の寵臣を謀反人として訴えることは、並大抵の覚悟で出来る事ではなかった。 近藤壱岐は決死の思いで家康に直訴する。
こうして大賀弥四郎は遂に捉えられ、城下で処刑されたのである。
 
 
 
<<登場人部>>
<徳川家>
徳川家康:徳川家当主
徳川信康:徳川家嫡子
瀬名:築山殿 家康の正室 今川義元の姪
徳姫:信康の妻 信長の長女
亀姫:家康の長女
於義丸:家康とお万の長男
お愛:家康の傍に仕える
お万:家康の側室
あやめ:信康の側室
<徳川家家臣>
伊井万千代直政
久世三四郎広宣:高天神城を守る
近藤壱岐
今村彦兵衛:町奉行配下
坂部又十郎:高天神城を守る
榊原小平太康政
小笠原与八郎長忠:高天神城の守将
松平外記
石川家成
石川数正
大岡助右衛門:町奉行
大河内源三郎政局
大賀弥四郎:勘定方 築山殿と不義を働く 甲斐と内通
山田八蔵重秀:大賀弥四郎の手下
小谷甚左衛門:大賀弥四郎の手下
倉地平左衛門:大賀弥四郎の手下
大久保忠世:忠俊の孫
大久保平助:忠世の末弟 彦左衛門
中山是非之助:高天神城を守る
中村源左衛門:産褥のお万を預かる
渡辺金太夫:高天神城を守る
平岩親吉
本間八郎三郎:高天神城を守る
本多作左衛門
野中五郎重政:信康付きの家来
おつね:山田八蔵重秀の妻
於阿紀:夏目治貞の娘 おふうの妹
お粂:大賀弥四郎の妻
お琴:侍女
喜乃:侍女 お琴の妹
小侍従:徳姫の侍女

<奥平家>
奥平美作守貞能:奥平家当主 山家三方衆の一人 作手城主
奥平九八郎貞昌:奥平家嫡子
千丸:貞能の末子 武田方の人質
おふう:貞昌の名目上の妻 夏目治貞の娘 武田方の人質
<奥平家家臣>
奥平虎之助:武田方の人質
奥平六兵衛
夏目五郎左衛門治貞
黒屋甚九郎重吉:千丸の守役
同苗六兵衛

<織田家>
織田信長:織田家当主
濃御前:信長の正室
<織田家家臣>
森蘭丸:信長の小姓
羽柴秀吉
竹中半兵衛:秀吉の軍師
加藤虎之助:秀吉の荒小姓
石田佐吉:秀吉の荒小姓
福島市松:秀吉の荒小姓
片桐助作:秀吉の荒小姓
蜂須賀小六:秀吉の腹心
木下家定:寧々の兄
お八重:秀吉の妻 寧々
佐久間信盛
柴田勝家
前田又左衛門利家
丹羽長秀
不破河内守:小谷城への軍使を務める
明智光秀

<浅井家>
浅井長政:浅井家当主
浅井久政:隠居 長政の父
お市の方:長政の室 信長の妹
茶々姫:長政とお市の長女
高姫:長政とお市の次女
達姫:長政とお市の三女
<浅井家家臣>
浅井七郎
浅井石見守親政
浅井福寿庵
井口越前守政義
三田村左衛門佐
小野木土佐
森本鶴若太夫:幸若舞の太夫
赤尾美作守清綱
千田釆女正
藤掛三河
木村小四郎
木村太郎次郎
雄山和尚

<朝倉家>
朝倉義景

<武田家>
武田勝頼:武田家当主
武田逍遥軒:信玄の弟
武田左馬之助信豊
<武田家家臣>
一条右衛門
甘利左衛門尉昌忠
穴山梅雪
山形三郎兵衛昌景:甲斐の名将
初鹿野伝右衛門
小池五郎衛門:信豊の家老
跡部大炊助
土屋右衛門尉昌次
馬場晴信
片山勘六郎

<上杉家>
<上杉家家臣>
山形秀仙:織田家に使いする

<その他>
房姫:京極家の姫
京極若童子丸:京極家当主
助右衛門:日近村の農夫
随風:諸国行脚の僧
 
 
 
遂に大賀弥四郎が捉えられた。 家康もこの事件に付いては反省するのだが、しかし、もともとの原因はといえば、家康の築山殿に対する態度であろう。 それは駿府に人質になっていた時代に端を発している、どうしようもなく根深いものである。 その意味で、家中の病根は、未だすっかり取り除かれた訳ではないのである。
 
 
天下泰平まであと20巻。

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Comments

もとよしさん  こんばんは
戦乱の世を生きた人たち、一人一人にドラマがありますね。運命とはいえ、切ないです。人知れず散っていった人も多かったことでしょう。

現代に生まれてよかった(笑)

Posted by: みい | June 28, 2005 at 09:36 PM

>みいさん

>現代に生まれてよかった(笑)

はい、私もそう想います。(笑)
当時の大名達が、裏切りや謀反を如何に恐れていたかと言う事でしょうけれど、故なく連座させられる人々に対しては、哀れとしか言いようが無いですね。

あらすじには書きませんでしたけれど、家康は大賀弥四郎の六人の子らの内、まだ幼い二人をこっそりと逃がしてやりました。 とは言え、家臣や領民から甘い君主と見られてはならないため、側近に命じて、あくまで隠密裏に事を運ばなければならなかったのです。
やっぱり、現代に生まれて好かったですね。(^^ゞ

Posted by: もとよし | June 29, 2005 at 12:08 AM

もとよしさんのレビューはすばらしいですね。
要約として優れているとともに、原典でないと分からない興奮や感動が伝わります。
山岡荘八の徳川家康については有名な本だけにいろんな書評がありますが、このブログが、ネットや印刷を通じて一番優れているように思います。
まだ先は長いですが、ぜひ続けて、読ませてください。

また、山岡荘八はこの本を書くに当たって、「日本の戦争と平和」を書こうとしたといっていました。トルストイのそれですね。
戦中派ならではの意気です。
書き始めたのは昭和27年か28年か、朝鮮戦争のころですね。戦争が色濃かったころで、書き終わったのは昭和40年代のはず。もう戦争といってもぴんと来ないころでしょう。昭和偃武というべきか。
昭和20年代から昭和40年代にかけての時代精神が、徳川家康の人生に重ねられているようにも思います。
もとよしさんには、ぜひトルストイの戦争と平和のレビューも書いていただきたいです。
(私も読んだことないですが、次はぜひ呼んでみたいと思います。)

Posted by: 竹内克仁 | July 23, 2005 at 01:24 AM

>竹内克仁さん
過分なるお言葉、ありがとうございます。(滝汗)
毎回、マイペースでノンビリと書いていますので、果たしていつまで掛かるやら判りませんけれど、必ず26巻までは辿り着くつもりでいます。(笑)
長期に渡って書き続けられた作品ですから、物語の最初と最後の方とで、どのような変化があるのか、とても興味のあるところですね。 仰るとおり、戦後史の断面が見えてくるのかも。
ロシア文学にはまるで縁がありません。(^^ゞ 「戦争と平和」も長編ですよね。 そのうちに、是非とも読んでみたいと想います。 文庫版の巻数だけならば、徳川家康の半分以下ですし。(^^;バキッ☆\(--;

Posted by: もとよし | July 23, 2005 at 11:32 PM

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