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May 29, 2005

「徳川家康」第4巻 葦かびの巻

「徳川家康」 第4巻 葦かびの巻 (山岡荘八著 講談社文庫)

晴れて一国一城の主となった元康だが苦難は尽きない。 内憂外患の一巻。

元康は、忙中自ずから閑ありとばかり、桶狭間の戦いの合間に於大の方と実に16年ぶりの母子対面を果たす。 第一巻からずっと、元康と於大の方親子の成長振りを見守り続けて来た読者としては感無量のシーンであり、その淡々とした描写には素直に泣ける。

長年に渡って岡崎城を占拠していた今川勢だが、まさかの義元敗北に動揺して全軍が駿府に引きあげてしまった。 棚から牡丹餅的に岡崎城を取り戻した岡崎党。 城内の大広間に集い、祝膳を前にして今川軍に城を奪われていた十余年間の苦労を振り返って男泣きする老臣達は、第一巻からひたすらに忠節振りを見せて来た面々だけに、これまた泣かせられるものがある。

晴れて一国一城の主となった元康は、長年苦しめられた今川家とは袂を分かち、以後、織田家と手を携えてゆく。 清洲を訪問して、幼馴染の信長と11年ぶりの再会を果たす元康。 今は互いに一国を背負う身だが、暫しの間少年の頃に帰って語り合う二人。 とにかく、今回は矢鱈と感動シーンが多いのである。

駿府に残して来た瀬名親子は、石川数正の外交手腕で見事に奪回する事が出来た。 しかしこの数正、凄腕であると同時に多情多感で感激屋の面がある。
駿府に於いては今川義元の姪としての立場を誇った築山殿(瀬名)であったが、それは、反今川の姿勢を取り始めた松平家中では何の意味も持たなかった。 かつてのような我侭の通らない事に苛立ちまくる築山殿は、このまま悲劇の坂を転げ落ちてゆくしかないのか。

築山殿との仲が上手くいかくなった家康は、その反動で可禰、お万と側室を増やしてゆく。 当然、築山殿とはどんどん疎遠になってゆく訳で、この辺り、家康と言う人は実に不器用に出来ているのである。
お万は嫉妬する築山殿に打擲される。 見かねた無骨一辺な忠臣本多作左衛門から諫言を受ける家康。 家康としては、こんな野暮なオヤジから色恋の口出しまでされたかぁない・・・とでも言いたい処であったろう。 一体、家康は家臣達から諫言(時には決死の)を貰う事が少なくない。 家臣には極めて恵まれた人と想う。

三河で一向一揆が勃発した。 信長ならば問答無用で殲滅させてしまうところを、家康は辛抱強く対応し、投降する者は無条件に許すと言う寛大な姿勢で臨んだ。 これは於大の方の教えである。
 
 
 
本多作左衛門 「殿! 殿はわしに言葉のすぎたを謝れ
           と仰せられてか」
松平家康    「あやまれと誰が申した。思うところを
           述べよと言うのだ」
本多作左衛門 「なるほど。それでは述べずばなるまい。
           殿は女子に惚れなさるか」
松平家康    「それは・・・・・わからぬ!」
本多作左衛門 「わかっている。色恋にうつつのぬかせる
           殿ではない。
           いや、あるいはそうであったとしても、
           そのような時代でないことを殿はよく
           知りすぎている・・・・・」
松平家康    「また予をそちの算盤で割切ったな」
本多作左衛門 「割切らねば答が出ぬ。したがって殿の
           色恋は遊びなのだ。
           これで城を傾け、家臣の心を失うては
           ならぬと、ちゃんと計算した上の遊び
           なのだ。その遊びで生命がけの女子
           の恋に立向かう。
           ここが大切なところだ殿!
           自分の方では遊びながら、生命がけ
           の白刃に立向かって勝てると思うか、
           殿」
 
  
<<あらすじ>>
田楽狭間での義元討ち死にを未だ知らない元康は、軍務の合間に阿古居の久松家を訪ね、於大の方との16年ぶりの親子対面を果たす。
義元の死は今川軍を動揺させ、岡崎城を守っていた今川勢まで駿府に引き返してしまった。 今や無人となった岡崎城に堂々入城する松平党。 元康は大樹寺の登誉上人の教えを受け、「厭離穢土、欣求浄土」を唱える。
信長は一国一城の主となった元康の器量を試すため、滝川一益に元康の身辺を探らせる。その滝川一益の送り込んだ腰元の可禰をスパイと見破った元康は、可禰をそのまま側室にしてしまう。
清洲の信長を訪問した元康は信長と11年ぶりの再会を果たす。 元康と信長の同盟の始まりである。
駿府では今川家の当主となった氏真がリーダーシップを発揮出来ずにいた。 元康は石川数正を駿府に派遣し、瀬名親子を奪還することに成功する。
今や今川家と袂を分かった元康は家康と改名をする。 一方、実家とも言うべき今川家の衰退振りに焦り始める瀬名は、次第に家康との関係を悪化させ始める。 家康が信じられない瀬名は、気に入りの侍女お万をスパイに使うが、逆に家康に奪われてしまう。
諸国行脚中の怪僧随風が、明智十兵衛光秀と言う浪人を連れて竹之内波太郎の宅を訪れた。 光秀は波太郎に織田家に推挙してもらう。
この頃、三河では一向一揆が勃発した。その鎮定に奔走する家康。 家康の家臣団の中からも一揆に参加するものがおり、これまでにない、信仰を相手の戦いに苦戦を強いられた。 壕を煮やして、殲滅戦に出ようとする家康を嗜める於大の方。
家康と瀬名の不仲はいよいよ本格的となり奥が乱れ始めた。 その反動で、可禰、お万と、気まぐれに側室を増やして一向に落ち付かない家康を嗜める本多作左衛門。
家康の嫡子竹千代と信長の長女徳姫の結婚。 これにより、東進する松平家と西進する織田家の同盟はより強固なものになった。
家康は徳川の姓を名乗る。 東進を続ける家康軍は、吉良御前の守る曳馬野の城を攻める。 吉良御前とは、今は飯尾豊前の後家となっているかつての亀姫である。 甥の伊井万千代を家康に託した吉良御前は、若き日の家康への想いを胸に秘めて曳馬野城の炎上と運命を共にした。 初恋の人、吉良御前を偲ぶ家康に、本多作左衛門は側室としてお愛を推挙する。

<<登場人部>>
<松平家(岡崎城)>
松平蔵人佐元康:松平家当主 松平元康>松平家康>徳川家康と改名
信康:幼名竹千代 松平家嫡子 元康と瀬名の長男
瀬名:築山殿 元康の正室 今川義元の姪
徳姫:信康の妻 信長の長女
亀姫:元康と瀬名の長女
花慶院:田原御前 元康の継母
<松平家家臣>
阿部善九郎正勝
阿部大蔵:老臣
伊井万千代:側小姓
奥平美作
金阿弥;同朋頭
慶琢:祐筆頭
戸田彈正
榊原小平太康政
三宅藤左衛門
柴田七九朗
酒井雅楽助正親:主家想いの賢臣
酒井左衛門尉忠次:元康の叔母の夫
酒井将監忠尚:一向一揆に加わる
酒井与四郎
松平伊忠
松平家忠
松平景忠
松平康忠
松平康定
松平信一
松平甚太郎
松平清宗
松平弥右衛門
松平与一郎忠正
上村出羽
植村新六郎秀安:本多平八郎忠勝の祖父
菅沼伊豆守
菅沼刑部
菅沼新八郎
西郷清員
青木四郎兵衛
石川安芸
石川清兼
石川日向守家成
石川彦五郎家成:安芸の息子
石川与七郎数正
設楽越中
大久保七郎右衛門
大久保新八郎忠俊:豪放磊落な好漢
大久保忠佐
中根平左衛門
長坂彦五郎:血槍九郎と呼ばれる槍の達人
鳥居伊賀守忠吉
鳥居彦右衛門元忠:鳥居忠吉の三男
天野三郎兵衛康景
天野又兵衛:台所人頭
渡辺半蔵:足軽差引物見役 一向一揆に加わる
内藤弥次右衛門
内藤弥七朗:小姓
服部半蔵:足軽差引物見役
平岩七之助親吉
平岩新左衛門
蜂屋半之丞:槍の名人 一向一揆に加わる
牧野康成
牧野惣次郎康成:家康に投降する
本多広孝
本多作左衛門重次
本多半右衛門:お万を預かる
本多彦八郎
本多百助
本多平八郎忠勝
鈴木紀伊
鈴木久三郎
鈴木兵庫
碓氷の方:酒井左衛門尉忠次の妻 駿府で瀬名親子に仕える
可禰:花慶院の侍女 実は滝川一益のスパイ 家康の側室
お万:瀬名の侍女 家康の側室
お愛:西郷義勝の後家
登誉:岡崎城外、大樹寺の住持
祖洞:岡崎城外、大樹寺の豪僧

<久松家(阿古居)>
久松弥九郎俊勝:久松家当主 誠実な好男子
於大の方:俊勝の正室 元康の母
三郎太郎:久松家嫡男
源三郎:次男
長福丸:三男
<久松家家臣>
竹之内久六:実は出奔した水野信近

<熊の若宮>
竹之内波太郎:熊の若宮当主

<織田家>
織田信長:織田家当主
徳姫:長女 竹千代に嫁ぐ
濃姫:信長の正室 斎藤道三の娘
<織田家家臣>
織田信盛
木下藤吉郎
滝川一益
長谷川橋介:隻腕の小姓
太田又介:弓の名手
楓:濃姫の腰元 実は斎藤義龍の間者

<今川家>
今川氏真:今川家当主
<今川家家臣>
関口刑部少輔親永:瀬名の父
吉良義安
鵜殿藤太郎長照:西郡城で元康に討たれる
鵜殿長忠:西郡城で元康に討たれる
万千代:伊井直親の嫡男
三浦義鎮:氏真の色小姓
岡部元信
田中次郎右衛門:義元の敗退後、岡崎城から退却する
飯尾豊前
吉良御前:飯尾豊前の妻 椿 亀姫 竹千代と束の間恋仲に

<水野家>
<水野家家臣>
浅井六之助道忠

<その他>
随風:諸国行脚中の僧侶
明智十兵衛光秀:浪人


登場人物が、また一段と増えたけれど、これは、駿河への侵攻を目論む家康が家中の再編成を行うに際して、主要な武将の名をずらりとあげてみせたためである。 徳川軍、なかなか壮観ではないか。
かつての竹千代の側小姓達が、今では立派な武将に成長して徳川軍を支えている。


天下泰平まであと22巻。

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Comments

もとよしさん こんにちは!
第四巻、益々登場人物増えましたね(笑)
今も昔も、いいブレーンがいること、これが、上に立つものの、運命左右するってことですよね。これが、国家であれ、会社という組織であっても。
それにしてもこの長い長い物語、うまくまとめてますねえ。
次回乞うご期待!ですね。

Posted by: みい | May 31, 2005 at 03:15 PM

>みいさん
山岡荘八描く「徳川家康」。 その処世や経営の妙から、経営者のバイブルと言われたそうですけれど、こうして読み進めてみると、徳川家も、社員が親子代々勤め上げるような、日本的企業のイメージと重なって見えて来て、成る程なと思いました。
もし、信長が社長だったら・・・・・なんて、考えただけでゾッとしますよね。(爆)

Posted by: もとよし | May 31, 2005 at 11:14 PM

う~ん…
築山殿の気持ちが気になりどころです
わがままづくしのお嬢様でも お家失脚で肩身が狭く
頼りの殿とも疎遠…… 心細いだろうなぁ
生きていく上で 相手を思いやる なんて必要なかった人だけに
そういう境地に追い込まれても 術を知らないのでしょうね~
戦国時代=男の戦い だと思っていたけど
色をつかうスパイ&国を結ぶための姫とか
女も戦っているのですなぁ

Posted by: あおちゃん | June 01, 2005 at 10:17 AM

>あおちゃんさん
そうなんです! 「徳川家康」では女性達の戦い(いろんな意味の)も重要なポイントになっています。
それにしても築山殿、悪妻として散々な描き方をされていますね~。(ーーメ) 我が侭お姫様だって、今日的な視点から見直せば、もっと違った解釈が出来そうな気もしますけれど。
この他「徳川家康」に登場する女性たちでは、自分の置かれたポジションを正しく理解して確固とした行動を示した信長の奥さんの濃姫や、苦労の末に仏法に帰依して人間的に成長を遂げた家康の生母於大の方などの、家運に翻弄される悲しみ、そして、それをはねのける力強さが描かれています。

Posted by: もとよし | June 01, 2005 at 09:54 PM

TBありがとうございました。
すごく丁寧に読まれているんですね。感動しました。
私は普通に一読しただけで、登場人物の名前が
途中で変わった時などごっちゃになって、さかのぼって
読み返すということを何度かしたほどです。

信長の奥さんも、秀吉の奥さんも、(前田利家の奥さんもそうですが)当時の賢夫人と言われた人でしたが、もし、家康の身の回りにそういう種類の女性がいたらちがったんだろうなと歴史の「if」を思いつつ、母親の於大が偉大だったからかもしれないと読んでいて思いました。

この先、茶々という女性も出てきますが、茶々も、築山殿同様に自分の生き方を探り続けて見出せなかった哀しい女性だと感じました。

信長や秀吉、茶々、伊達政宗など、さまざまな人の視点からも描かれている部分がありますので、家康の一生だけではない読み応えがあると思います。

また立ち寄らせていただきますね。

Posted by: yu-i | June 03, 2005 at 12:50 AM

>yu-iさん
おいでませ、問はず語りへ。
全26巻読破された先達からお言葉を頂けるとホント心強いです。(笑)

家康と言う人は、忠義な家臣に恵まれているのとは正反対に、家庭内が上手く行かずに苦労するのですね。 仕事人間で家庭を顧みる閑も無い内に、とうとう奥さんが暴走を始めました。(今読んでいる第5巻) 自分としては「しょ~がないなぁ。」と呆れる反面、ここまでやらかす築山殿に同情的な気持ちもまたあります。

仰るとおり、「徳川家康」には賢夫人が少なからず登場しますね。 濃姫、寧々、於松、そしてなんと言っても於大の方。
来年のNHK大河ドラマは、山内一豊とその妻が主人公だと言いますから、これは戦国の賢夫人にスポットライトの当たる一年になりそうですね。

Posted by: もとよし | June 04, 2005 at 12:16 AM

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