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January 03, 2005

「砂の器」

「砂の器」松本清張著(新潮文庫)を読んだ。
この小説は1974年に映画化されていて、随分と以前の事になるけれど、自分も観た事がある。 また、昨年テレビドラマ化もされて、テーマ曲として使われた千住明作曲のピアノ協奏曲「宿命」共々話題を(自分の周囲のピアニスト諸兄姉の間では)呼んだ。 但し、こちらは自分は観ていない。
自分は昨年12月11日のピアノオフでこの「宿命」のフルート+ピアノ編曲版を演奏していて、その印象が未だ鮮烈に残っている。 この小説を読んでいる間中もずっと、頭の中でピアノ協奏曲「宿命」の断片が鳴り続けていた。 脳内BGMである。
長年の経験と勘、そして不屈の粘りを武器にして、絶望の中から一点の光明を見出して捜査を続ける今西刑事の姿が、その堅実な生活ぶり(昭和30年代の庶民の生活と言えるのだろう)の描写も含めてとても良かった。 現在ならば、こう言った人物は精神論を振りかざすアナクロなタイプとして敬遠されがちなのではないか。 とまれ作者は、この昔気質の刑事を主人公に据えたのである。 テレビ版「砂の器」ではSMAP中居くんが話題を呼んだらしいけれど、もちろん彼は刑事役ではない。 原作の通り今西アナクロ刑事に焦点を当てたような演出は、もはや成り立たない時代になっているのかもしれない。
捜査の手掛かりは色々と、読んでいてちょっと不自然に感じるくらい頻々と今西刑事の周辺に漂っている。 但しそれらは、本人が粘り強い努力を重ねた末でなければ決して手に入らない筋立てになっている。 ここら辺り、幸運の女神は努力を惜しまぬ者だけに微笑むとでも言いたげではないか。 今西刑事と事件との間には運命的なものを感ぜずにはいられない。 そう思うとテーマ曲の題名「宿命」と符合して来るようで気になるよね。 やはりテレビも観ておけば良かったか・・・
もう一方で、これは、新時代の旗手として脚光を浴び続ける一方で、その実、虚飾にまみれている文化人達の物語である。 作者の視線は、そういった者達に批判的であり、また、その陰で犠牲となる人々への視線は優しい。
今西刑事の、文字通りの東奔西走の後、遂に犯人に辿り着く辺りは読んでいて興奮した。 但し、その後、逮捕状請求に至るまでの捜査の部分はいささか興を削ぐ。 (巻末の解説でも指摘されているけれど) 捜査もこの段階まで来ると大掛かりな捜査陣と科学者が投入されて、今西刑事も経験と勘のベテラン刑事から、大掛かりな捜査陣の中心人物へと役割が換わってしまうからである。
感銘の大きい一冊であった。

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Comments

 正月早々、重たい内容の本を読まれていたのですね。小生は、テレビのドラマのほうは見てないのですが、昔の映画は見ています。野村芳太郎監督によるもので、見応えのある映画でした。主人公が背負う隠し通したい過去。むしろ、その過去こそがテーマなのかなと感じます。その意味で推理小説的な期待で読むと当てが外れるのかも。

Posted by: 弥一=無精 | January 17, 2005 at 02:58 AM

コメントありがとうございます。
映画の「砂の器」は私も大昔に(テレビですけれど)観た事があります。 原作ではほんの数行程しか触れられていなかったお遍路姿での行脚が、映画の中ではもっとも印象的なシーンになっていたと記憶しています。 仰るとおり、トリックや推理などよりも主人公の運命そのものに焦点を当てた見事な解釈でしたね。

Posted by: もとよし | January 17, 2005 at 09:52 PM

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