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January 14, 2005

「孤島の鬼」

「孤島の鬼」江戸川乱歩著(江戸川乱歩全集 第四巻 講談社)を読んだ。

これまでに読んだ乱歩作品(と言っても、大した数ではないけれど)の中では最も楽しめた。
主人公は花の東京に暮らす極々平凡な、金も力もなかりけりの優男である。 それがある日、得体の知れぬ犯人によって、理由も知れないまま恋人を殺されてしまう。 そして名探偵が登場するも、彼もまたあっさりと殺されてしまう。 この辺りは乱歩作品に良くある流れと思うけれど、主人公の手記の形を取っている分、恋人を殺された苦悩や、犯人に振り舞わされる恐怖がダイレクトに伝わって来るのだ。
途方に暮れる主人公を救うべく、次は友人が名探偵役を買って出るのであるが、この男、例えば明智小五郎などと違って、マイノリティとしての負い目を背負っている。 この謎めいた男の存在が、小説全体にダークな色合いを与えていると思う。
それにしても、二人が手に入れた人外境便りの不可思議な美しさと来たらどうだろう。 中世の音楽や絵画に見るような無心な境地から成っていて、この部分は、けだし圧巻と思うのだ。

後半は、主人公達が犯人の住まう孤島に乗り込んでの冒険談となる。 探偵小説から冒険小説へと、ガラリと様相が切り替わる訳で、読者である自分にも気合が入る。 舞台となる小島は、本土とは隔絶された一種異様な世界である。 ここでは作者の筆も、トリックなどよりも背景を描くのに熱心のようである。 大勢の不具者が登場するのは如何にも乱歩らしいと言えるけれど、彼らマイノリティを哀しい存在として捉えている処が、これまでに読んだ乱歩作品に見られなかった点であり、物語に奥行きを与えていると思う。

孤島での冒険を終えた主人公の黒髪は、僅かの内に真っ白に変じていた。 もしかしたらこれは、主人公が不具者達の世界に近しくなったと言う意味なのかもしれない、と思った。
それにしても作中、不具者=悪人と言う方程式で作品世界を作り上げているかに見えた作者が、最後に至って、決してそうではない事と言うが知れるのである。 物語のお終いは、これまでに読んだ乱歩作品には見られない感傷的なもので、読んでいて心を打たれた。
これは、異形のロマンスなのである。

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Comments

こんにちは!
『孤島の鬼』大好きです。
乱歩の長編が、年を追うごとに娯楽色が強くなるのに対し、この作品はまだ、彼の短編に色濃くある耽美色が出ている気もします。

特に、後編の孤島で闇の中を彷徨う場面は、自ら体験しているのではと錯覚するほと、引き込まれる、おどろおどろしい描写で、印象に残っています。

だからか、その本を読み終えた日の夜、
愚かにも終電に乗り遅れた私は、
深夜の見知らぬ工場地帯を、
6Km近く歩き続けても、
何も見えない暗闇を歩くよりはマシ、と、
妙に平気だった思い出があります(笑)。

Posted by: ねあん | January 16, 2005 at 05:02 PM

コメントありがとうございます。
ねあんさんも「孤島の鬼」がお好きだったんですね。
私は乱歩に付いて何の予備知識も持たないで読んでいますけれど、今回の「孤島の鬼」は大当たりだったと思います。
耽美色って、まさにそうですよね。 妖しく、哀しく、奇妙に美しい物語りと思います。
地下迷路の場面は、私も息が詰まる想いでした。 なんにも見えない、文字通りの極限状況ですからね~。

> 深夜の見知らぬ工場地帯を、
> 6Km近く歩き続けても、
> 何も見えない暗闇を歩くよりはマシ、と、

え~! そんなそんな物騒な~。 どうか、くれぐれもご用心下さい!
それはそうと、ねあんさんて健脚なんですね。(笑)

Posted by: もとよし | January 16, 2005 at 10:31 PM

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